上空から攻め込もうとしていたアメリカ軍IS部隊を待ち構えていたのは、更識所属の精鋭たちだった。
「何故だ! 何故我々の動きが読まれている!?」
「怯むな! 相手は所詮学生、我々のように日夜訓練しているわけではない」
まさか迎撃態勢が整っているとは思っていなかったのか、アメリカ軍の人間は若干の焦りを見せていた。
「この程度で焦るなんて、随分とお粗末な部隊なのかしら」
「そんなこと言っては失礼ですよ、お嬢様。アメリカは今、正規のコアが無い状態ですから、訓練といっても大したことが出来ないだけですよ、きっと」
「こんな人たちに使われるなんて、ISが可哀想」
「簪ちゃん、そう思うなら早いところ解放してあげよう」
「私たちはあくまでフォローでしょ。これはサラちゃんの試運転を兼ねてるんだから」
慌てふためくアメリカ軍とは対照的に、更識所属の面々は余裕すら窺える態度で侵入経路を塞いでいる。
「水分を充満させるのなら、私にも手伝えそうね」
「我々はあくまでも侵入経路を塞ぎ、サラさんが動きやすくなるようにサポートするだけです。身の危険を感じない限り、こちらから攻撃に出るのは一夏さんから禁じられていますよ」
「でもさー、身の危険を感じるくらいまで反撃するなって、結構酷くない?」
「それだけ私たちの力量を信じてくださってるんですよ」
不満を漏らす刀奈に、虚が冷静にツッコミを入れて諭す。その光景を見たアメリカ軍IS操縦者は、苛立ちを覚え特攻を掛けようとするが、既に辺りは霧に包まれていた。
「な、何だこの霧は! さっきまであれほど晴れていたというのに!」
『貴女たちには、永遠の恐怖を味わわせてあげましょう』
霧の向こう側から声がしたと思った瞬間には、アメリカ兵たちの視界は奪われていた。
「な、何だこれは!? 何故私以外の全員が白骨死体に……」
『貴女以外? 貴女も白骨化してるんじゃないかしら?』
何処からとなく現れた鏡を覗き込み、アメリカ兵は声を上げそうになり、そのまま意識を失った。鏡に映っていたのは、まぎれもなく骸骨だったのだった。
霧が晴れて漸くアメリカ兵たちがどうなったかを確認できるようになった刀奈たちは、その光景を見て驚いていた。
「本当に気絶してるわね……」
「いったいどのような幻を見せられたのでしょうね……」
「感心するのは兎も角、とりあえずこの人たちを拘束しておかなきゃ」
「ISに対するダメージは与えていないので、回収も楽ですね」
「いっちーから報告。どうやら別経路で忍び込もうとした愚か者がいるみたいですよ~」
「可哀想に……そっちには姉さまたちが待ち構えているというのに」
サラのお陰で簡単に気を失えたこの兵士たちは、ある意味で幸せだったのではないかと思いつつ、刀奈たちは操縦者たちを拘束し、ISを回収してアリーナへと運ぶのだった。
あえて侵入経路を開けて待っていた千冬たちの前に、武装した集団が姿を現した。
「まさか本当にこの経路で侵入してくるとは……さすが一夏だ」
「数はおよそ三十、といったところか」
「ISを囮にして、こちらが本命なんでしょうね」
千冬の他にも、千夏と碧が待ち構えているとも知らずに、侵入者たちは得意げに会話をしていた。
「まさかIS部隊が囮だとは思わないでしょうね」
「ISが使えるからと言って粋がるからこんな単純な手に引っ掛かるんだ」
「肉弾戦で我々に勝てる人間がIS学園にいるはずもない」
リーダー格と思われる男女が、得意げに話しているのを聞いて、千冬と千夏がため息を吐く。
「あの程度で肉弾戦で勝てると思っているとは、随分となめられたものだな」
「アイツらなど、まとめて相手したところで五分とかからないだろうな」
「まぁ、貴女たち相手に、五分も立ってられるのなら、この程度の気配遮断は見抜けるでしょうけどね」
今三人は、完全には気配を遮断してはいない。それなのに三人の存在に気付かない辺り、その程度なのだろうと碧もため息を吐いたのだった。
「さてと、恨みは無いが、一夏の為に倒れてもらうぞ!」
「一人十人、二、三分といったところか」
「貴女たちと同レベルで計算しないでもらいたいんですが……」
「貴様も十分人外レベルだろうが」
「私はISありきです!」
三人同時に侵入者へと攻めかかり、本当に三分以内で全員を打ち負かした。
「いや~、さすがは世界最強の三人ですね」
「一夏、見てたか? お姉ちゃんの実力」
「褒めてくれてもいいんだぞ?」
「褒めませんよ。これが仕事なんですから」
何もない影から突如現れた一夏に、特に驚いた様子も無く胸を張り賞賛を期待した織斑姉妹だったが、仕事だと言われ肩を落とす。
「拳銃くらい持ってるかとも思いましたが、本当に身体一つで攻め込んでくるとは……自殺志願者としか思えない悪手ですね」
「こいつらの訊問は任せろ」
「まぁ、既に所属ははっきりしているのだがな」
「これで完全にアメリカは終わりでしょうね」
世界の警察を名乗っていたアメリカを完全に潰すことになるだろうと一夏は思っており、千冬や千夏もまた、同じような事を思っている。
「素直に自分たちの非を認めれば、ここまで完膚なきまでに潰される事も無かったでしょうに……」
「潰した本人がよく言えるな、小鳥遊」
「お前も我々と同じ、潰した側の人間だからな」
「分かってますよ」
碧だけは若干同情的な意見だったが、潰されて当然の事をしたのだから、手心を加えろとは言わなかった。引き摺られていく三十人を見送り、一夏は何事も無かったかのように、回収したISを調査するためにアリーナへと向かい、碧もまた、一夏に続いたのだった。
政治的ジョーカーもたくさんありそうですね……