暗部の一夏君   作:猫林13世

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予想外の相手に……


初陣は…

 刀奈を通じて一夏から呼び出されたサラは、指定された第一アリーナへとやって来て、まず人の多さに驚きを覚えた。

 

「随分と人が多いけど、更識君は?」

 

「一夏さんは、今準備してます」

 

「準備?」

 

 

 呼び出された理由は、サラ自身もなんとなく理解している。だが準備と言われてピンと来るものは無かったのだ。

 

「準備が出来たらサラ先輩をピットに連れてくるように言われてるんです」

 

「ピット? だったら最初からそっちに呼んでくれればいいのに」

 

「その前に、サラちゃんが誰と戦いたいかを決めてもらいたいんだってさ」

 

「戦うって……ここにいる人と? 冗談でしょ?」

 

 

 サラの目の前には、日本代表である刀奈、更識企業の企業代表として世界中の強敵と戦った経験を持つ虚、日本代表候補生で、織斑姉妹の後釜最有力候補とされる簪と美紀、普段はのほほんとしているが、実力は簪たちと同等と言われている本音、最強のDNAを持つマドカ、更には元日本代表にして無傷で世界を制した碧と、サラからしてみれば次元の違う相手が揃っているのだった。

 

「あっ、それだったら鷹月さんと日下部さんもいますけど」

 

「私より先に更識製の専用機を貰った二人よね? その二人もかなりの実力者だって聞いてるんだけど……」

 

「それも嫌なの? じゃあ後は織斑姉妹にお願いするしか……」

 

「それだけは本当に勘弁して!」

 

 

 戦ったところで瞬殺必至の相手の名前に、サラは本気で刀奈を制止に掛かった。

 

「冗談よ。てか、勝ち負けは関係ないんだし、戦いたい相手を選べばいいのよ」

 

「そんなこと言われてもね……ちょっと前までは候補生でしかなかったのよ? その私がこのメンバーと戦う事になるなんて、思っても無かったものだから……」

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと手加減しますし、これはサラさんの試運転を兼ねた模擬戦なんですから」

 

 

 虚の言葉に、サラは少し気が楽なったと感じていた。本気で相手されるわけではないと分かっていても、自分がこのメンバー相手に戦うだけで緊張してしまうと感じていたのだ。更識内では下に数えられる本音も、外から見れば十分に強敵になりうるのだ。

 

「それじゃあ、せっかくだし小鳥遊先生にお願いしようかしら」

 

「了解よ。それじゃあ私は、反対のピットで準備するから」

 

「丁度一夏君の準備も終わったようだし、サラちゃんは私たちと一緒にピットに行きましょう」

 

 

 一夏からの合図を受けた刀奈が、サラの手を取りアリーナからピットへと向かう。引き摺られそうになるのを何とか堪えて、サラは自分の足でピットまで向かう事にした。

 

「それにしても、専用機の希望を聞かれてからまだ一週間も経ってないわよ? 更識の仕事は随分と早いのね」

 

「まぁね。伊達に世界最高のIS企業を名乗ってないわよ」

 

「お嬢様が威張ることではないと思いますが」

 

「その異名の殆どは、一夏の営業能力と虚さんの宣伝能力だけどね」

 

 

 一夏が開発・営業をして、虚がその機能を十二分に宣伝するお陰で、更識企業はIS業界におけるトップの座を手に入れたのだ。

 

「まぁとにかく、早い分手抜きなんて事は無いから安心して頂戴」

 

「その辺りは疑ってないわよ。更識の技術力の高さは、この学園にいる誰もが知ってるんだから」

 

 

 更識所属が多い今、IS学園内における更識製の商品支持者は増え続けている。他国の代表候補生からも、出来る事なら使いたいと言われるほど、更識ブランドは人気が高いのだ。もちろん、名前だけではなく使い心地などもその人気に拍車を掛けているのだ。

 

「一夏君、お待たせー」

 

「いえ、こちらこそ、最終チェックに少し時間が掛かってしまい、申し訳ありませんでした」

 

 

 刀奈の挨拶をスルーして、一夏はサラに頭を下げた。

 

「い、いえ……こちらこそ、こんなに早く専用機を用意していただき、ありがとうございます」

 

「お礼は結構ですよ。今回の件の半分は、我々更識の所為ですので。では、フィッティングとパーソナライズを済ませちゃいましょう。セイレーンに乗ってください」

 

「これが……私の専用機……」

 

 

 青を基調としたISに見とれながらも、サラは引き込まれるようにセイレーンの操縦席に収まる。

 

『貴女が私の所有者ですか』

 

「? 更識君、何か声が聞こえるんですけど……」

 

『貴女は授業で聞いていないのですか? ISには意思があり、話しかけてくることがあると』

 

「これって、ISの声なの?」

 

 

 初めて聞くISの声に戸惑いながらも、サラはその声に耳を傾けた。

 

『これだから人間は……いっそのこと引き摺り込んで骨に……』

 

「セイレーン? それはダメだと言ったはずだが」

 

『じょ、冗談に決まってるじゃないですか。だからその……解体だけは勘弁してください』

 

 

 セイレーンが言っていた事は、一夏が開発した幻術を見せる機能を発動させると言う事なのだが、その恐怖は体験した者を戦闘から離脱させるには十分な威力を持っている。だから一夏は、操縦者であるサラにそのような幻術を見させないように、セイレーンに脅しを掛けているのだった。

 

「よし、フィッティングもパーソナライズも終了……誰だ、こんな時に」

 

 

 最終調整も終わり、いよいよ試運転というタイミングで、一夏の携帯が着信を告げるメロディーを流した。

 

「何か御用ですか、大天災様?」

 

『いっくんに天才って褒められると嬉しいな~』

 

「褒めてません。用が無いなら切り――」

 

『あー待って待って! 今IS学園にアメリカ軍が攻め入ろうとしてるの! 多分いっくんたちに対する腹いせだと思うけど、試運転するなら、そいつらを絶望の淵に案内してあげたらどうかな? いっくんが作り上げた新しいシステム「霧の監獄(ミスト・プリズン)」でさ』

 

「……まだ名前は言ってなかったのですが」

 

 

 束からの連絡を受け、一夏は織斑姉妹にも連絡を入れ、学園内の守りを強固にし、ここにいる面々でアメリカ兵を迎え入れる事にしたのだった。




攻め込んできたのってどこの国でしたっけ……まぁいいか

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