暗部の一夏君   作:猫林13世

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まぁ彼も人外ですし……


常識外れの速度

 消灯時間ぎりぎりになって漸く部屋に戻ってきた一夏を、美紀は厳しく問い詰めるつもりだった。だが一夏が思ってた以上に疲れ切っていたので、とりあえずシャワーを浴びてスッキリしてくるようにと一夏を浴室に押入れ、着替えを脱衣所に置き出て来るのを待つことにした。

 

『一夏お兄ちゃん、かなり疲れてるけど何してたんだろう』

 

「IS製造ではないのでしょうか? 今一夏さんが忙しくしている理由は、それしか思い当たらないのですが」

 

 

 金九尾の疑問に、美紀は思い当たる理由を告げて読書に勤しむことにした。

 

『てか、一夏お兄ちゃんがあそこまで疲れるって、どんな作業をしてるのさ?』

 

「知りませんよ、そんなこと」

 

『美紀、一夏お兄ちゃんの護衛なんでしょ? 何で今日は整備室に行かなかったのさ』

 

「今日は私ではなく本音の番でしたから……まさかそれが原因なんでしょうか?」

 

 

 本音が護衛の任をサボり、その間に襲撃を受けたのではと思い、美紀は慌てて携帯を操作しようとして、そんなことは無いと思い直しベッドに身体を預けた。

 

「さっきから何をしてるんだ、美紀は」

 

「い、一夏さん……いつ出てこられたのですか?」

 

「本を手に取って金九尾と話してた辺りからか」

 

「随分と早いですね……」

 

「元々風呂は嫌いだからな」

 

 

 そう言って一夏は自分のベッドに腰を下ろし、美紀に視線を向けたまま何も話そうとしなかった。

 

「えっと……今日は随分と遅くまで作業していたのですね」

 

「朝のHRで無駄な時間を使ったからな。その分を取り戻そうと必死になってたら……こんな時間になってた」

 

「いくら必死になってたとはいえ、本音がいたでしょうが。時間なら本音が教えてくれたのでは?」

 

 

 美紀の疑問に、一夏は首を左右に振って答える。

 

「本音は来てなかったぞ。多分自分の当番だって事を忘れて、マドカたちと遊んでたんじゃないか?」

 

「本音は……自分が一夏さんの護衛だって事を自覚してないのでしょうか」

 

「自覚はしてるだろうが、今は前ほど学園内で緊張感を保つ必要は無いからな。少し気が緩んでいても仕方ないだろ、本音だし」

 

「一夏さんは本音に甘すぎませんか? 本音の為にも、もう少し厳しくした方が良いと思うのですが」

 

「本音に厳しくしても逆効果だろうしな……言っても無駄な事に労力を割きたくない」

 

「それは……否定できないかもしれませんね」

 

 

 美紀も何度か本音に注意をしたことがあるが、あまり彼女には響いていない様子だったし、厳しくするだけであの性格が治るのであれば、布仏家の人間が既にやっているだろう。

 本音があのままで成長したと言う事を考えれば、一夏が言った『無駄な労力』という表現もあながち間違えでは無いのだろうと、美紀はため息を吐いて納得したのだった。

 

「それで、今日は護衛無しだったんですか?」

 

「私がいましたので、問題はありませんよ」

 

「闇鴉……だからいきなり人の姿になるのは止めろとあれほど……いや、言っても無駄か」

 

「漸く一夏さんの許可も下りましたので、これからはどんどん人の姿になっていきたいと思います」

 

 

 本音とは別だが、闇鴉にも言っても無駄だという事を認めた一夏は、これ以上ツッコミは入れないと諦め、闇鴉はその言葉に喜んだ。

 

「てか、闇鴉がいたのでしたら、時間を忘れるなどと言うことにはならなかったのでは?」

 

「それが……お恥ずかしい事に、周りに気を張っていた所為で、時間の概念をすっかり忘れていました」

 

「そんなに長時間気を張っていて、疲れたりしなかったのですか?」

 

「私はISですからね。体力という概念は存在しませんので」

 

 

 闇鴉のセリフに、美紀は納得したように頷き、そして呆れた。研究や開発に没頭して時間を忘れるのは、一夏の昔からの癖だから仕方ないが、その護衛として止めに入らなければいけない闇鴉までも、時間の概念を忘れる傾向があると、美紀は頭の片隅に記憶しておくことにしたのだった。

 

「これからはタイマーでもセットしておくことをお勧めしますよ」

 

「鳴ったとしても、集中してると気づかないだろうし、途中でうるさいと思って投げ捨てるかもしれん」

 

「その前に、作業を始める前にセットする事を忘れる可能性の方が高いのではありませんか?」

 

「それも否定出来ないな」

 

「それでは、一夏さんの護衛は私と簪ちゃんで交互に請け負いますので、それなら時間を忘れて開発に没頭し、このような時間まで帰ってこないという事態も避けられるでしょう」

 

 

 美紀の提案に、一夏は軽く首を振った。

 

「その必要は無い。あと少しで完成だから、もう周りが見えない程集中する事も無いだろうしな」

 

「今日だけで二日分以上は進めましたからね」

 

「……相変わらずの速度ですね、感服しますよ」

 

「若干呆れてないか?」

 

 

 美紀の反応に、一夏が呆れられているような感覚を覚えたのか、そんな事を聞く。

 

「呆れてるに決まってるじゃないですか。ただでさえ人並み外れたスピードで作業をこなすとは思ってましたが、IS製造を一から始めて、僅か数日で完成間近までこぎ着けるんですから。呆れない方がおかしいと思いませんか?」

 

「そんなものなのか? この間束さんに聞いたら、これが普通だって言ってたが」

 

「そもそもISを一人で造れる方が……って、篠ノ之博士と一夏さんしか出来ないんですから、それが普通なんでしょうね……」

 

 

 ISを一から造ることが出来る人間が一夏と束しかいないと言う事を想いだし、美紀は一夏の考えを矯正する事を諦めて、自分のベッドに倒れ込んだのだった。




お披露目間近ですね……

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