暗部の一夏君   作:猫林13世

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言葉足らずをフォローするのも従者の務め


クラスメイト達の納得

 部屋割りの書かれた用紙に目を通し、碧は納得の表情で真耶に用紙を返した。

 

「さすがに一夏さんと同じ部屋に専用機を持ってない子を入れる、なんてことはしなかったのね」

 

「更識君が有無を言わさずこの三人で決定だと言って教室からいなくなり、鷹月さんと日下部さんの補足説明で皆さん納得してくれましたから」

 

「なんだ、更識は最後まで教室にいなかったのか?」

 

 

 二人の会話を聞いていた千冬が、一夏が教室を出て行ったと言う事に引っ掛かったようだった。

 

「時間を無駄に出来ないとかで、自分はこの三人と同室で構わないと言い残して整備室に向かって行きました」

 

「忙しいのは分かるが、もう少し学校行事にも目を向ける余裕を持った方が良いと思うのだが……」

 

「今回は日本政府だけでなく、ギリシャ政府やイギリス政府の方たちも注目してますからね。普段以上に一夏さんが頑張ってしまうのも無理はないと思いますよ。これが成功すれば、更識企業はますますの発展が見込めますから」

 

「……あいつは一人でどれだけ企業を大きくすれば気が済むんだ?」

 

 

 更識の当主であることは知らなくとも、一夏が更識企業を大きくした事は千冬や千夏も知っている。だからこのような疑問を抱いたのだが、その疑問に答えられる人は、ここにはいなかった。

 

「一夏さんとしては、世界が平和になるのならどこまでも大きくすると考えるかもしれませんね」

 

「そのうち自分のデータを解析して、男性にも使えるISとかも開発しそうだもんな」

 

「それが叶えば、このふざけた世の中も多少はマシになるかもしれんな」

 

 

 自分たちがその風潮の元凶とはいえ、今の行き過ぎた女尊男卑に辟易している千冬と千夏は、一夏がこの世の中を矯正してくれるかもしれないという意見に目を輝かせた。

 

「腐った世の中を一夏が直すのか……悪くない未来だ」

 

「そして、その一夏はわたしたちの弟なのだと公表すれば、自分たちの地位が危ぶまれる事になるであろう女どもからの不満も消えるだろうしな」

 

「自分たちの手柄にしようとしてますが、一夏さんの立場なら貴女たちが出てこなくても刀奈ちゃんや虚ちゃんたちが文句を言う女性をねじ伏せると思いますよ」

 

 

 確かに織斑の名が持つ威力は強大で、名前を聞いただけで竦む女性は少なくないだろう。だが一夏の周りには、それに匹敵するくらい強力な名前が他にもあるのだ。

 現役の日本代表で、既に一度世界大会を制した刀奈や、大企業である更識企業で企業代表を務めている虚も、世界中に名が知られている。織斑姉妹を頼るくらいなら、一夏はこの二人に頼るであろうと碧は考えているのだった。

 

「最悪、私もお手伝いしますし」

 

「貴様も世界的に名が知られているからな……確かに大人しくはなるだろう」

 

「だが、それでも文句を言う輩がいるのであれば、わたしたちも協力させてもらうぞ」

 

「……仮定の話でここまで盛り上がれるのは、千冬さんたちだけですよ」

 

 

 あくまで仮定の話だと言う事を忘れて盛り上がる織斑姉妹に、一人取り残された真耶がツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と同じ部屋になれるかもと夢想していたクラスメイト達は、自分たちの考えの甘さに肩を落としていた。

 

「更識君と一緒に行動するって事は、それだけ狙われるリスクが上がるって事を忘れてたわね」

 

「更識君は周りを守るために自分を犠牲にする人だし、私たちの所為で更識君がいなくなったなんて事になったら、更識企業からどれだけの賠償金を請求されるか……考えただけで震えが止まらないわよ」

 

「次期当主様だもんね。それだけ敵も狙う価値がある人なんだよね」

 

 

 クラスメイト達の会話を聞いた美紀が、フォローを入れるかのように会話に入った。

 

「一夏さんは周りが傷つくのを嫌うお方ですからね。みなさんを出来るだけ安全で、楽しい修学旅行として思い出に残すため、自分と行動を共にしない方が良いと判断してのお言葉ですので、あまりお気になさらない方が良いですよ」

 

「でも、更識君が整備室に行ったあとで鷹月さんと日下部さんに言われたことは、確かにそうだなって思ったもんね。専用機を持たない私たちが更識君の側にいても、足手纏いになるだけだし」

 

「更識君がいなくなるなんて嫌だから、私たちは大人しく別行動をしてた方が良いって考えに至ったわよね」

 

 

 一夏を独占しようとして失うのであれば、遠くから眺めるだけだが近くにいてくれる方が良いと結論付けたようで、クラスメイト達は今は空席になっている窓際の席に目を向けた。

 

「そもそも、篠ノ之さん相手に勝てる未来が見えないものね……」

 

「言動は兎も角として、戦闘能力は高かったものね……」

 

「織斑姉妹にあそこまで反抗できる神経はすごかったよね……」

 

「兎に角、一夏さんはみなさんの安全を考えてあのような発言をしたのです。決して皆さんの事を嫌ってるわけではありませんので、ご安心ください」

 

 

 最後にもう一度だけフォローを入れてから、美紀は自分の席へと戻る。まだチャイムまでは余裕があるのだが、既に廊下に織斑姉妹がスタンバイしているので、一秒でも遅れれば理不尽な制裁が入る事を恐れ、美紀はクラスメイト達にもその事を伝えたのだった。




まぁ、誰一人一夏に嫌われてるとは思ってなかったですけどね

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