暗部の一夏君   作:猫林13世

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古都に憧れる人は多いんでしょうね……


海外組の期待

 修学旅行先が京都ということで、海外組は妙に高いテンションでここ数日を過ごしている。一年一組の海外組も例外ではなく、セシリア、ラウラ、シャルロットの三人は修学旅行を非常に楽しみにしている様子だった。

 

「アンタたち、随分と楽しそうね」

 

「鈴さんは楽しみではありませんの? 日本の観光名所、しかも京都ですのよ?」

 

「アタシは小学校の時に行ってるからね。その時も特に楽しみだった覚えは無かったけど」

 

「そうなのか? 京都と言えば古き良き文化が残っていると聞くが?」

 

「確かに古い建物とかは多いけど、そんなのを見て回るだけって面白いかしら」

 

 

 同じ海外組でも、鈴は特に楽しみにはしてい無さそうなのを見て、シャルロットが少し期待値を下げた。

 

「僕も興味はあるんだけど、そんなによさそうな感じはしないんだね」

 

「どう思うかはアンタたち次第だけど、変に期待してがっかりするのを避けたいのなら、期待値は下げておくことをお勧めするわよ」

 

「鈴は空気が読めないんだね」

 

「あらティナ。アンタも楽しみにしてる一人なの?」

 

 

 鈴のルームメイトであるティナ・ハミルトンが会話に加わり、更にエイミィもこの場に加わってきた。

 

「ネット検索しただけでも、興味がそそられる箇所が多くて困るわよね」

 

「エイミィさんもですの? 実は私も調べて行きたいと思った箇所が多すぎて困ってますの」

 

「教官たちの話では、二日目は自由行動らしいからな。どのルートで動けば効率よく見学出来るか、今からその話し合いをしておいた方が良いのではないだろうか?」

 

「ラウラも興味津々なんだね」

 

 

 はしゃいでいるラウラを、シャルは生暖かい視線で見守る。ドイツではそういった事が出来なかったラウラは、旅行というだけでテンションが上がっているのだった。

 

「自由行動じゃなくて班行動でしょ? 高校生にもなって集団行動しなきゃいけないのは面倒よね」

 

「一応学校行事ですから、それは仕方ないのではないでしょうか? ましてや私たちは専用機を持っているのですから、それなりに行動に注意しなければならない立場なのですよ? 少しくらいは我慢しましょう」

 

「私は持ってないけどね」

 

「アメリカは今大変だもんね。僕も取引していたアメリカの企業が潰れちゃって焦ってるんだけどさ」

 

「高校生の会話とは思えませんわね、シャルロットさん」

 

 

 形だけとはいえ、デュノア社の社長として経営に携わっているシャルは、ダリル・ケイシーが亡国機業の人間だったと分かったすぐ後に、アメリカ企業との取引を控えるように通達していた。

 その直後は社内から不審に思う声が上がっていたが、前からあった銀の福音問題と併せて考える人が増え、アメリカのIS企業の株はかつてない大暴落の一途をたどり、遂には倒産するしかない企業が続出したのだった。あのまま取引を続けていたら、デュノア社もその煽りを喰らっていたかもしれないと、今ではシャルロットの先見の明に心酔する社員までいるくらいになっていた。

 

「実は一夏に言われただけなんだけど、何故か僕の手柄になってるんだよね……困った事になったなって思ってるんだけど、何か対策は無いかな?」

 

「ですから、一介の高校生でしかない私たちに、企業運営の相談をされても困るのですが」

 

「正直に話したらどうなのよ。自分じゃなくて一夏がそう言ったから指示したって」

 

「うん、言ってるんだけど……」

 

「なによ?」

 

 

 歯切れの悪い答えを返したシャルに、鈴が首を傾げながら続きを促す。

 

「一夏自身が僕の独断だって明言しちゃったから、今更何を言っても覆せないんだよね……」

 

「何で一夏はそんなことを言ったのかしら?」

 

「てか、更識君ってそんなに偉い人だったのね」

 

「ああ、ティナはあまり付き合いがないもんね。あいつはあれでも次期更識の当主だから。それなりに権力もあるし、開発・営業では群を抜いているって噂よ。このままじゃ近い将来IS企業の殆どは更識の傘下に入るかもしれないって噂まで流れるくらいのやり手なんだってさ」

 

「誰から聞いたのよ、そんな噂……鈴がIS企業の噂に詳しいとは思えないんだけど」

 

「失礼ね! ……と言いたいけど、本音から聞いただけなのよね」

 

「布仏さんか、イマイチ信憑性が薄い相手ね」

 

 

 更識関係者なのだが、本音の信頼度は他の人と比べると大分低い。本人もそれを自覚しているので、本当のことでも嘘っぽく伝わるのが不満だと零しているのだが、この場にいる誰もその事を知らないので、噂の真意は確かめようがなかった。

 

「そんなわけで、僕も何故か忙しくなってきちゃってるから、少しくらい息抜きしたいな」

 

「落ち着けるとは思うけど、日本人にしか分からない空気感かもよ?」

 

「鈴だって中国人でしょ?」

 

「だからアタシには分からなかったわよ。まぁ、一緒にいた一夏も興味薄そうだったけどね」

 

「そう言えば鈴さんは、その時から一夏さんとお付き合いがあるのでしたね」

 

「小学五年からの二年だけね。その後は一夏は学区が別だったから」

 

「だが、付き合いは続いていたんだろ?」

 

「休みの日に遊んでたくらいだけどね」

 

 

 その後はとりとめのない話をして、下校時間までお喋りを続け、それぞれが期待を胸に準備を進めるのだった。




実際、楽しいものでも何でもないと思うんですけどね……

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