暗部の一夏君   作:猫林13世

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忠実ですね……


美紀の意思

 授業中は闇鴉に護衛を任せている美紀だが、授業が終われば一目散に整備室へと向かう。無論、廊下を走って織斑姉妹に怒られる、などというヘマを演じる事無く、かつ出来るだけ早く移動する事で一夏の安全を確保する事に努めていた。

 

「一夏さん、美紀です」

 

 

 扉越しに声を掛けると、内側から鍵の外れる音が聞こえ、中から闇鴉が美紀を招き入れた。

 

「お疲れさま、後は私が引き受けますので、闇鴉は待機状態に戻って構いませんよ」

 

「いえ、私もこのまま人の姿で一夏さんの護衛を務めさせていただきます。一人より二人、ですからね」

 

「どさくさに紛れて、自分を人間とカウントするな」

 

 

 一夏にツッコまれて、闇鴉はチロリと舌を出して反省した風を装った。あまりにも人間じみた行動に、美紀は一瞬だけ闇鴉がISであることを忘れそうになった。

 

「今日は訓練とかは良いのか? 無理して俺に付き合う必要は無いんだが」

 

「何言ってるんですか。私は一夏さんの護衛なんですから、それが最重要事項なんです」

 

「IS学園内はそれなりに安全だし、スパイだったダリル・ケイシーはもういないんだ。闇鴉がいれば助けを呼ぶことも簡単だから、無理してこっちに付き合う必要は、本当に無いんだぞ?」

 

「では、私が一夏さんといたいからこうして護衛を務めているのです。それなら文句は言えませんよね?」

 

 

 あっさりと開き直った美紀の態度に、一夏は作業の手を止め美紀を見つめる。

 

「随分と物好きだな、美紀は……俺といたって面白くはないだろ」

 

「面白いとか、そういう概念で一緒にいる訳ではありませんから。もちろん、刀奈お姉ちゃんや虚さん、簪ちゃんや本音、碧さんやマドカだって、一夏さんと一緒にいて楽しいから、とかそういった感情で一緒にいる訳ではないですよ。一夏さんも分かってますよね?」

 

「……分かってはいるが、今はその気持ちに応える事は出来ない。社会的地位を確立し、高校生だからという理由で舐められなくなれば、そういう事に考えを割く余裕も生まれるかもしれないが」

 

「今の一夏さんでも、舐められることはないと思いますがね」

 

 

 表面上、更識企業のトップは尊と言う事になっているが、それはあくまでも一夏が高校生という地位だからであり、裏では一夏がトップだと認められている。だが一夏は、余計な混乱を招かぬよう、更識家の当主は尊が継いだと言うことにしておくべきだと主張し続けている。

 

「とにかく、私は私の意思でここにいるので、一夏さんが気にする必要はありませんよ」

 

「ああ、分かった。それじゃあ、護衛を頼む」

 

「はい、承りました」

 

 

 満面の笑みで応える美紀に、一夏は苦笑いを浮かべながら視線を自分の手元に戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏がいない今、生徒会室では刀奈が悲鳴を上げながら書類整理を行っている。普段なら逃げ出すのだが、一夏がいないので虚の監視がいつも以上にキツイので、さすがの刀奈も逃げ出す事が出来ないのだった。

 

「虚ちゃん、あとどのくらいあるの?」

 

「そうですね……この山が終われば、後三つくらいでしょうか」

 

「案件が?」

 

「山が、です」

 

 

 分かっていたこととはいえ、はっきりと言われてしまうと絶望感が増してきて、刀奈は机に突っ伏してしまった。

 

「そもそも、生徒会役員は私と虚ちゃんだけじゃないわよね? 本音はどうしたの、本音は!」

 

「あの子はいてもいなくても変わらない……いえ、いない方が仕事が捗りますので呼んでません」

 

「……何気に酷い事言ってるわね」

 

 

 だが虚の言う通り、本音がいれば今以上に仕事は捗らず、今以上に絶望感を味わっていたかもしれないと思い直し、本音がいない事を幸福と思う事にしたのだった。

 

「一夏君がいてくれれば、この程度の仕事、早く終わるんだけどな」

 

「仕方ありませんよ。一夏さんはサラさんの専用機製造が忙しいのですから」

 

「それは分かってるんだけどね……修学旅行もあるし、なるべく早く終わらせたいって一夏君の気持ちを尊重するべきだって事も分かってるんだけど……ね。これだけ仕事があると、愚痴も言いたくなるわよ」

 

 

 愚痴を言いながらも、刀奈はちゃんと書類整理を進めている。忘れがちだが、彼女も次期当主として過ごしていた時期が長いので、この程度の仕事は目を瞑ってもすることが出来る。出来るだけで、実際にやったら怒られること間違いなしなのでやらないが。

 だから会話をしながらだろうがミスすることなく処理を続けており、早くも次の山も半分が消化しきっていたのだった。

 

「それにしても、まだ一夏君を部活に参加させたいって要望があるわね……」

 

「一夏さんが部活動に顔を出してくれれば、それだけでモチベーションが上がると考えているのでしょうね」

 

「そんな暇がないって言えればいいんだけどね……」

 

「専用機はあくまでも更識企業が造っている事になっているので、一夏さん個人がやっているという事を言えませんからね」

 

「そもそも、それ以外にも一夏君は忙しいんだから、いい加減諦めてくれないかしら……目を通すのも飽きてきたんだけど」

 

「今度の全校集会で、お嬢様がそう仰ればよろしいのでは? 生徒会長として全校生徒に申し伝えれば、このような要望も無くなるでしょうし」

 

 

 虚の提案を受けて、刀奈は割かし本気でそうしようかと考え始めていた。もちろん、それくらいで諦めてくれるのであれば、こう何度も申請書が出される事は無いだろうと分かっているので、どれほど効果が出るのか、期待はしていないのであった。




刀奈や虚もなかなかの人外だな……

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