暗部の一夏君   作:猫林13世

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これ以上男の神や怪物を女性化するのもどうかなと思いまして……


サラの専用機の名前

 専用機の名前を決めた一夏は、その名前を元にサラの要望に応えるための武装を造り始める。時間的問題は一夏にはあまりないのだが、学校行事という事を考えると、さすがにサボるわけにはいかないので、来週に迫った修学旅行までには終わらせたいと考えているのだった。

 

「一夏さん、さすがに一週間で専用機の製造は難しいのではありませんかね?」

 

「授業に一切出なければ問題ないだろ。もちろん、あまり無理すると刀奈さんや簪に怒られるし、虚さんや美紀に心配を掛けてしまうから、夜遅くまで作業しないと仮定した場合の話だがな。夜通しやっていいなら、三日もあれば終わるだろ」

 

「専用機製造を三日で、しかも一人でとなると、ますます篠ノ之博士に近づいたんではありませんか?」

 

「俺はあそこまで変態のつもりは無いんだが」

 

「変態って……仮にも世界的な研究者ですよ?」

 

「宇宙規模のストーカーなんだから、変態で間違いじゃないだろ」

 

 

 今もどうにかしてこの室内を覗けないかと計画している束の事を想像し、一夏はその一言で切り捨てた。闇鴉も一夏から知らされた限りに知識しかないので、篠ノ之束は変態であるという事は否定しないのだった。

 

「それで一夏さん、サラさんの専用機の名前と、要望とはいったい?」

 

「水を使った戦いをしたいらしくてな。そんな事を考えるとは思ってなかったから、名前を探すのに苦労したが、漸くそれらしくてまたISにも相応しい感じの名前を見つけたんだ。ちょっと縁起は悪いがな」

 

「縁起が悪い?」

 

 

 一夏の最後の一言に引っ掛かりを覚えた闇鴉は、自分同様に日本の神話からそのような神や妖怪がいたかどうかを探る。だが、彼女には該当する名前を見つけ出すことが出来なかった。

 

「もしかして、ギリシャ神話から取りました?」

 

「一応ギリシャ代表が使う専用機だからな。この前図書室から借りた本で見つけたんだ」

 

「それで、この子の名前は?」

 

 

 まだコアと外装の一部しか出来ていないが、コアそのものに自我があるので、闇鴉は既に一個体として認識している。もちろん、一夏も一個体としてコアに接しているので、このコアも一夏たちに友好的に接している。まぁ、生みの親である一夏に逆らえば、一瞬でスクラップになると怯えている可能性も否めないが、一夏を嫌うコアを、闇鴉は今のところ見たことが無かったので、そっち方向ではないだろうと思っている。

 

「セイレーンだ」

 

「……本当に物騒な名前を持ってきましたね」

 

「名前通りの技を考えようとも思ったけど、さすがに白骨化させるのはマズいしな……水で幻惑させる程度に留めようと思ってる」

 

「それが良いですよ」

 

 

 闇鴉も、セイレーンの伝説は知っているようで、一夏がいった「白骨化」がどういう意味なのかを即時に理解して、一夏の考えに同意した。さすがに消して、更に殺すのはマズいと闇鴉も思ったのだろう。

 

「惑わされてる間に、普通に攻撃を打ち込むわけですね?」

 

「切り込んでも良いが、サラ先輩もセシリア同様に遠距離主体だからな。一応近接格闘用の武器や、レーザー以外の遠距離武器も積み込むが、基本的にはレーザー光線で戦うんだろうな」

 

「偏向射撃が使えるので、レーザーの方が都合がいいんでしょうね」

 

「その気になれば、ミサイルやマシンガンの軌道を変えることだって可能だと思うんだが……」

 

「それは、一夏さんが物理的に軌道を変えているだけでしょうが……」

 

 

 直撃を避けるために、一夏は着弾ギリギリで相手の弾に圧力を掛けて少し軌道をズラしてダメージを軽減させるという戦法を取ったりする。そんなことが出来るのも、一夏の動体視力の良さとギリギリまで恐怖に耐えられる忍耐力があってこそなのだが。

 

「とりあえずこれで当面の問題は片付きそうだな」

 

「専用機製造が終われば、修学旅行ですよ? 亡国機業が狙ってきそうなイベントです」

 

「単純に戦力が分散するからな……IS学園を狙うのか、それとも一年生を狙うのかでまた変わってくるな……まぁ、狙いが俺のようだし、九分九厘一年生を狙ってくるだろうけどな」

 

「そんな他人事のように言って……ご自身で言ってるじゃないですか。ターゲットは一夏さんだって」

 

「俺を狙ってくれた方が対処しやすいからな」

 

「まぁ確かに、一夏さんが不在の間にIS学園が襲われたら、機密文書とかVTSのメインシステムにハッキングされたりと、面倒事が多そうですしね」

 

「何より後始末が面倒だ。撃退して終わりなら、修学旅行中に襲われた方が楽だからな、観光とかもしなくて良くなるだろうし」

 

「本当に行きたくないんですね、修学旅行……」

 

 

 一夏のセリフに、闇鴉が呆れた事を隠そうともしないでため息を吐いた。学校行事と割り切って楽しめればまだましなのかもしれないが、一夏の場合遠出をすればほぼ間違いなく面倒事に巻き込まれるのだ。とてもじゃないが旅行を楽しもうという精神を持てるわけがない。

 そう言った事情から、一夏は出来るだけ遠出はしたくないと考えているのだ。もちろん、仕事の都合で海外などに行かなければならなくなった時は、諦めて出かけるのだが、それ以外では極力今の拠点から動かないようにと心に決めているのだった。

 

「そこまでなら、織斑姉妹に頼んで修学旅行を欠席させてもらえば……」

 

「そんなこと頼んだら、見返りに何を要求されるか分かったもんじゃない」

 

「……実の姉に対して、物凄い偏見ですね」

 

「実の姉だからこそ、そうなると信じてるんだが?」

 

 

 一夏の返しに、闇鴉はそれ以上何も言えなくなってしまい、大人しく一夏の護衛としてこの整備室の入口を守る事に努めたのだった。




ゲームなどでは美人な絵で描かれる事が多いセイレーンですが、実際はかなり怖いものですね……

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