暗部の一夏君   作:猫林13世

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盛り上がる意味が分かりません


恋バナ

 サラの専用機製造の為、一夏は授業に参加していない。それでも一年一組の授業は緊張感を持ったものとなっている。理由は簡単で、織斑姉妹が見学しているからである。

 

「それではこの問題を……織斑さん、お願いします」

 

「はい」

 

 

 真耶に指名され、マドカは問題を解いてみせる。本来一学年下であるマドカではあるが、時間を見つけては一夏や虚に勉強を見てもらってるお陰で、何とか平均点付近にはいるのだった。

 

「はい、正解です。この辺りは次の試験で重点的に出題しますので、皆さんしっかりと覚えておいてくださいね」

 

 

 真耶がニッコリと笑顔を浮かべながら教室を見回し、全員が嫌々ながらもノートを取っているのを確認して小さく頷いた。そのタイミングで終業のチャイムが鳴り、午前の授業は終了となった。

 

「はい、ではここまでです。午後は実習ですので、遅れずにアリーナまで来てくださいね」

 

 

 真耶が注意事項を言い渡し教室から出ていく。それに続くように織斑姉妹も教室から出ていき、張り詰めていた空気が一気に弛緩した。

 

「相変わらず姉さまたちがいると緊張しますね」

 

「まったくだよ~。いっちーがいないから、怒らせちゃったら大変だもんね~」

 

「そもそも怒らせなければいい話だと思うけどね」

 

 

 マドカ、本音、美紀の三人で話しながら教室から出て、簪と合流する。この後食堂に移動し、刀奈や虚とも合流するのだが、今は授業の内容で盛り上がるのだった。

 

「山田先生の授業も、最近は脱線しなくなったから安心して聞いてられる」

 

「てか、姉さまたちがいるから、清香たちも茶々を入れられないのだと思いますよ」

 

「確かにね~。キヨキヨたちも大人しくなってるから、進むスピードが速くて困っちゃうよね~」

 

「それは授業が早いんじゃなくって、本音が遅いんじゃない?」

 

 

 簪のツッコミに、美紀とマドカが揃って頷く。同じクラスではなくとも、本音の行動など簪にはお見通しなのだ。

 

「さすがかんちゃんだね~。伊達に付き合いが長い訳じゃないよ~」

 

「そもそも、本音の事なら美紀やマドカだって分かるでしょ?」

 

「確かにそうだね」

 

「本音は分かりやすいですからね」

 

「そんな事ないよ~」

 

 

 お喋りをしながら廊下を歩いていた本音は、正面にいた女子に気付かずにぶつかってしまう。

 

「ほぇ!? ごめんごめん、大丈夫~? って、カスミンだ~」

 

「いてて……本音? こっちこそゴメン。前見てなかった」

 

「食堂から帰って来てたみたいだけど、もうお昼済ませたの?」

 

「違いますけど……ちょっと居心地が悪くなったので戦略的退散を……」

 

「逃げる事ないじゃないのよ、香澄ちゃん」

 

「さ、更識先輩……」

 

「お姉ちゃん?」

 

 

 香澄が逃げていた相手は刀奈で、簪はまた姉が何かしたのではないかと訝しむ。そんな視線を受けて、刀奈は慌てて否定を始めた。

 

「べ、別に何もしてないわよ?」

 

「じゃあ何で香澄はお姉ちゃんから逃げてるの?」

 

「私は、香澄ちゃんが一夏君の事をどう思っているのか聞いただけよ」

 

「……それだけ?」

 

 

 あっけにとられた表情で香澄を見つめると、気まずそうに香澄は頷いた。

 

「女子高生の一般的なトーク内容だと思うんだけど、どうも香澄ちゃんは免疫が無いみたいでね。走って逃げちゃったから追いかけてきたんだけど、本音とぶつかるとは……てか、何で一緒に来なかったの?」

 

「私さっきの授業中に具合が悪くなって、途中から保健室にいたんです。それで、中途半端な時間に体調が回復したので、先に場所取りをしておこうと思ってチャイムと同時に食堂に来たんですけど……そこに更識先輩がやって来たんです」

 

「そう言う事だったの。具合が悪くなったって、あの日?」

 

「はい」

 

「なら仕方ないわね」

 

 

 一夏がいたら逃げ出しそうな内容だが、女子高と言う事もあって刀奈たちはあまり気にしない。むしろ気にしている方がおかしいとさえ思っていたのだった。

 

「ところで、おね~ちゃんは何で黙って立ってるの?」

 

「えっ、虚ちゃん?」

 

「お嬢様? あまり後輩をイジメるのは感心しませんね」

 

「い、イジメてなんかないわよ? 純粋な興味よ。決してからかおうなんて思ってなかったわよ」

 

「本当ですか? 一夏さんの前でも同じことが言えますか?」

 

「一夏君、こういう話題好きじゃないから、言っても相手されないと思うけど……」

 

 

 虚の威圧感に後ずさりながらも、刀奈は他意はなかったと弁明する。もし他意があればすぐに認めると分かっている虚は、刀奈に他意はなかったと認め威圧感を抑えた。

 

「ところで、一夏ってご飯どうしてるの? 朝からずっと整備室に篭りっきりだけど、ちゃんと食べてるのかな?」

 

「一夏さんは料理上手ですし、ご自分で用意してるのかもしれませんよ」

 

「そうですね。一夏さんなら、それもありそうですね。これが本音とか刀奈お姉ちゃんだと、用意するのが面倒だからって理由で食べないかもしれないけど」

 

「本音と一緒にしないでよね~。私は、ちゃんと一夏君にお願いするから大丈夫だもん」

 

「それは大丈夫だとは思えないんだけど……」

 

 

 胸を張って威張る姉に、簪が呆れながらツッコミを入れる。

 

「ところで、何時までここでお喋りをするんですか? 早くいかないと場所が取られちゃいますけど」

 

「そうだった! それじゃあ、行きましょう」

 

 

 マドカの冷静なツッコミに刀奈が反応し、彼女が先頭に立って食堂へと向かって行ったのだった。




あまり深くは聞かなかったな……

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