暗部の一夏君   作:猫林13世

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敵ながら同情するぜ……


オータムの苦労

 実の姉がそんなことを考えているとも知らずに、箒はひたすらに連携の確認をさせられていた。

 

「何故このような特訓をしなければならないのだ! 連携など取れなくとも、個々の能力で上回っていれば勝てるではないか!」

 

「相手は実力もあり連携もかなり上手く取れているんだ。こちらも個々の実力だけでなく、連携力も高めておかないと前回のようにあっさりと負けちまうぜ?」

 

「一夏の奴め。多勢に無勢とは……どこまで落ちぶれれば気が済むんだ」

 

「立派な戦法だと思うんだが……」

 

 

 自分の考えを押し付ける箒に、パートナーにされているオータムはため息を吐く。ここ数日でオータムのため息を吐く回数は、飛躍的に増えたといえるだろう。

 

「男なら、潔く一対一で勝負するのが普通だろうが! それを女の陰に隠れるなどという、卑怯極まりない行動に出るとは……やはり私が一から鍛え直す必要がありそうだな」

 

「総大将が前線に出てる方がおかしいのであって、その一夏とかいう餓鬼の行動の方が正しいんだとオレは思うんだがな……それに、一対一で戦えなんて、完全にお前のエゴだろ? 向こうは質は兎も角量が多いんだから、一対複数の形を採るのが自然であり、こっちの考えなんて気にしないだろうが」

 

 

 だんだんと自分が常識人なのではないかと疑い始めるオータムを、スコールが陰から見てほくそ笑んでいる。その光景を見たダリルとフォルテは、そろって首を傾げるのだった。

 

「何を見てるのかしら?」

 

「あらレイン、相変わらず恋人と一緒なのね」

 

「パートナーと一緒に行動するのは普通だと思うけど? それこそ、貴女が今見て楽しんでいるオータムとSHだって、一緒に行動してるじゃない?」

 

「それもそうね。ところで、何か用事じゃないのかしら?」

 

 

 用が無ければ話しかけてこないと分かっているので、スコールは無駄話はせずにダリルに先を促す。

 

「前に拠点として使ってた場所に、篠ノ之束のものと思われる探査機が入ったらしいわよ。もしかしたらあの女が手引きしたんじゃないかと思って」

 

「ああ、あれは完全にSHのミスよ。篠ノ之束の技術力を軽んじて、うかつにも名乗って自分がどこから電話を掛けているか逆探知されたとか」

 

「阿呆の極みだな……まぁ、ちゃんと報告しただけマシか」

 

 

 箒も一応バカではないので、束に居場所がバレたかもしれないとスコールにちゃんと報告した。無論、まったく悪びれた様子も無かったので、スコールはまたしばらく箒に謹慎を命じたのだが……

 

「しかし、何時の間にこの派閥も篠ノ之束に狙われるようになったのかしら? 私が潜入する前は、組織内でも軽視されていたこの派閥が、今では大天災に狙われるほど成長してるなんて驚きよ」

 

「それは成長じゃなくって、SHが無用に敵を増やしてた結果だと思うんだけどね……あの子、自分の考えを人に押し付ける癖があるのに、他人からそれを指摘されると激昂するのよね。例え間違った考えでも『自分は悪くないんだ!』と言い張るし、こっちが間違ってるかのように言うし」

 

「……何でそんなヤツを引き入れたのよ」

 

 

 箒を亡国機業に引き入れた過程を知らないダリルは、呆れた表情でスコールに問いかける。その隣では、フォルテも同じような疑問を抱いてる様子だった。

 

「Mが抜けちゃってから、人手不足が否めなくなっちゃってね……IS学園から数人攫ってこようと計画してたんだけど、一夏や更識関係、織斑姉妹といった監視がキツくて、あの子しか釣れなかったのよ」

 

「確かに、更識君の周りは監視がキツい感じでしたもんね」

 

「布仏とかが目を光らせてたからね」

 

 

 フォルテの問いかけに、ダリルも思い出したように頷きながら同意する。IS学園は今、どんな企業よりも監視が厳しく、また武力も何処の国よりも高い状態だ。そんな中から人を攫おうなどと考えなければならない程、スコール一派は追い込まれていたのかと、ダリルは組織の現状にため息を吐いた。

 

「まぁそんなわけで、オータムが一から教育してるんだけど……これが厄介でね。下手にプライドが高いというか、他人の言う事をまったく聞かないのよね……洗脳でもしてあげようかとも思ったけど、下手に弄るとIS適性が下がるかもしれないって研究者が言うものだから、それも出来ないのよね」

 

「いっそのこと殺して新しい人を攫って、洗脳して一から鍛えたらどうよ」

 

「ここまでオータムが苦労してるというのに、今更新しい人間を攫ってきたからSHは処分するなんて言ってみなさいよ。あの子、暴れだすわよ?」

 

「確かに……オータムならありえそうね」

 

 

 ありえそう、ではなく確実に暴れるだろうと、ダリルも思っている。それだけ箒の指導は大変な事なのだろうと知っているし、学園でも織斑姉妹が散々箒に注意や説教をしていたのを思い出し、それをオータム一人でやっているのだと実感すると、少し同情したくなったのだった。

 

「とりあえず今は、篠ノ之束の手がこっちに伸びてこないようにしなければいけないわね。過激派が上手い事動いてくれれば楽なんだけど」

 

「やつらがIS学園を襲うとは思えないのだけど? 過激派を名乗っておきながら、妙に慎重な動きをするので有名なんだから」

 

 

 悩みの種が増えたと、スコールは頭を抑えながらオータムが指導している姿を眺めるのだった。




モップさんの理解力の低さ……

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