暗部の一夏君   作:猫林13世

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同じ研究者なんですがね……


新兵器開発

 インタビューと織斑姉妹への説教で一日が潰れてしまった為、一夏は今日の作業を諦めて部屋で読書をしていた。

 

「一夏さんが読書とは珍しいですね。何の本ですか?」

 

「専用機の名前のヒントでもないかと、ギリシャ神話の本を図書室から借りてきたんだ」

 

「今回はあっちの英雄の名前を付けるんですか?」

 

「まだ決めてない。だが、候補は多い方が可能性を広げられるから」

 

 

 設計から開発まで全て一人でやれるからこその考え方だが、美紀はそこにツッコミは入れなかった。元々一夏が独りで考え、一人で造っているのを知っているのもあるが、下手に手伝おうとすると、余計に仕事を増やすだけだと言う事を身を以って体験したからこそであった。

 

「ですが、サラ先輩はイギリスの人ですし、イギリスの英雄からでもいいんじゃないですか?」

 

「それも考えたが、ギリシャ代表として使う専用機だからな。イギリスの英雄の名前を付けても受け入れられるかどうか」

 

「結局は更識の専用機なわけですし、どんな名前でも受け入れてもらうんですよね?」

 

「まぁな」

 

 

 美紀のツッコミに、一夏はあっさりと自分の懸念を放棄した。ギリシャ代表として使う専用機だが、ギリシャの専用機ではないのだ。だからどんな名前であろうと問題ないのだが、国民から支持される為には、少なくともイギリス関係の名前は避けた方が良いと思っているのだった。

 

「一夏さん、今日は色々あって疲れてるでしょうから、読書もほどほどで切り上げてくださいよ? じゃないと、無理矢理にでも休ませますからね」

 

「無理矢理って、何かするのか?」

 

 

 美紀が具体的に何かを考えている風ではなかったので、ちょっとした興味から一夏はその事を掘り下げてみた。

 

「そうですね……休むというまで、一夏さんのベッドに潜り込むと言うのはどうでしょう?」

 

「だんだんと刀奈さんに思考が似てきてないか?」

 

「そうですか? 一夏さん、こうすれば大人しくなるって言ってましたし」

 

「まぁ、逃げ出すか諦めるかのどっちかだな。身内なら諦める、他人なら逃げだす」

 

 

 つまり自分がやれば諦めてくれるのだと理解した美紀は、いざという時はやってみようと心に決めたのだった。

 

「まぁ、美紀の言う通り色々あった一日だったからな……そろそろ切り上げるとするか」

 

「そうしてください。明日からまた、亡国機業に備えたり、修学旅行の準備とかで忙しくなるんですから。休める時に休んでください」

 

「美紀も同じだからな? お前も今日かなり特訓に励んでたようだから、いつも以上に体力を消耗してるだろ。俺の事ばかり気にしてないで、自分の事もしっかりと労わってやれよ」

 

「そうですね。今日の特訓は簪ちゃんが気合い入ってましたから、確かに疲れました。部屋のお風呂に入って私も休みます」

 

 

 一夏の一言に素直に反応し、美紀もお風呂の準備を始める。一夏は先ほどシャワーで済ませてるので、このまま寝ても問題はない。

 

「そう言えば一夏さん、今年に入って湯船に浸かりました?」

 

「いや? てか、ここ数年湯船に浸かった記憶が無いな」

 

「研究熱心なのは良いですけど、たまにはゆっくりと湯船に浸かって疲れを癒したらどうですか?」

 

「風呂はあまり好きじゃないからな……」

 

 

 織斑姉妹曰く、記憶を失う前はお風呂が大好きだった一夏だが、記憶を失い、研究に没頭する癖がついた所為か今では風呂嫌いになっているのだ。あまりにも風呂に入りたがらなかったので、幼少期に刀奈たちが強引に風呂場に連れて行こうとして漸く、シャワーは浴びるようになったのだ。

 

「長時間浸かってられる人の神経が俺には分からん……五分で上せる」

 

「一夏さんは温泉とか楽しめない体質なんでしょうね……」

 

 

 そんな会話をしながらも、準備を終えた美紀は、風呂場へと向かっていき、一夏はせめて美紀が出て来るまではという事で読書を再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏たちがそんな会話をしている頃、IS学園上空ではウサ耳マッドが新たな研究を進めていた。

 

「これが完成すれば、いっくんでも見つける事が出来ないステルス機能が実現する……そうなればいっくんのお風呂を覗き放題……じゃなくって、偵察とかがより効率的になる」

 

 

 思わず本音が漏れてしまったが、束も一夏が風呂嫌いであることは知っている。だからあくまでもそれが目的ではなく、自分たち以外が偵察をしても見つかることなくより効率的になるように開発を続けているのだ。

 

「まぁ、ちーちゃんやなっちゃんレベルの人間が他にいるかと聞かれれば、いっくんやまーちゃんくらいしか思いつかないからね~」

 

 

 隠密行動でいえば、碧も得意としているのだが、束にとって碧は興味の対象ではないので名前が出て来ることは無かった。

 

「てか、あの愚妹である箒ちゃんの所為で、いっくんと遊べる時間が減っちゃってるしな~……こんなことなら小学生の頃に消しておくんだったよ~」

 

 

 記憶を失った一夏に付きまとっていた箒の事を、当時の束は本気で消そうか悩んでいたのだ。だが結局は身内と言う事で見逃したのだが、その判断が間違っていたと最近になって思い始めているのだ。

 

「突き止めた拠点も、既に引き払ってたし……サイレント・ゼフィルスはこちらからの干渉を拒んでるし……早いところいっくんの不安の種を減らさないと胃に穴が開いちゃうよ」

 

 

 一夏の事を心配しつつ、箒の事をどうやって始末するかを考える束の姿を、料理を運んできたクロエは恐ろしいと感じていたのだった。




一人残念な頭になってしまってるな……さすが大天災

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