暗部の一夏君   作:猫林13世

309 / 594
偉くなればそれだけ責任と悩みが増える……


スコールの悩み

 お土産を買って帰ってきた一夏たちを出迎えたのは、満面の笑みの本音と、何処か気まずそうな表情を浮かべたマドカだった。

 

「マドカ、何かあったのか?」

 

「いえ……姉さまたちが束様の電話を受けてラボに向かわれたのですが……」

 

「ああ、あの人の件だろうな」

 

「兄さまはご存じだったのですか?」

 

「目の前から人が消えたからな……あんな出鱈目が出来るのは、束さんくらいだ」

 

 

 会話内容を聞いているので、マドカも女性に対して同情はしない。だが束と織斑姉妹を同時に相手する事に対しては、若干の恐怖心を抱いていたのだった。

 

「マドカが気にする事じゃないぞ。ああなったのは驕り高ぶったあの人が悪いんだ。まぁ、ちょっと調子に乗っただけでIS界の重鎮三人に面会出来たんだから、ラッキーだと思えば良いだろ」

 

「兄さま、全然心が篭ってませんが……」

 

「当たり前だろ? 思ってないんだから」

 

 

 束、千冬、千夏と顔を合わせたからといって、ラッキーだと思わない一夏は、まったく心の篭っていない言葉でマドカの気を紛らわせた。

 

「そんな事よりいっちー、お土産ちょうだい」

 

「お前は……まぁいいか。てか、俺も何を買ったのか知らないから、どれが誰のか分からないからな。その辺りは刀奈さんと虚さんに聞いてくれ」

 

「大丈夫よ。一夏君の以外全員一緒だから」

 

 

 そう言って箱を開けた刀奈。中は一つを除いて全てショートケーキだった。

 

「美味しそ~。ねぇねぇ、今食べてもいいの?」

 

「別にいいが、後で簪や美紀が食べてる時に指をくわえる事になるぞ?」

 

「そっか……じゃあ冷蔵庫に入れておこう」

 

 

 一夏の部屋にある、結構大きい冷蔵庫にケーキをしまった本音は、そのついでに何かお菓子が無いかと物色し始めた。

 

「簪と美紀はどうした?」

 

「あの二人でしたら、今もアリーナで特訓中だと思いますよ」

 

「そうか……さすが候補生、本音とは違うようだな」

 

「私はいっちーの護衛だからね~。訓練は必要だと思うけど、かんちゃんや美紀ちゃんのようにがっつりやる必要は無いと思ってるんだ~」

 

「でも、本音だって訓練しないと、一夏君を狙う相手が強くなってるんだから」

 

「前はシノノンくらいだったのにね~。まさか大組織がいっちーを狙ってくるとは~」

 

 

 緊張感のない本音の喋り方に、刀奈も肩透かしを喰らったような表情で一夏を見つめる。

 

「そうだな。たまには俺も身体を動かした方が良いだろう。本音、付き合ってくれ」

 

「了解なのだ~」

 

 

 基本的に一夏の頼みは断らない本音は、一夏の運動相手を引き受ける。それが自分の訓練になるとも知らずに、満面の笑みで了承の返事をしたのだった。

 

「それじゃあ、私たちも一緒に行こうか、虚ちゃん?」

 

「そうですね。午前中はインタビューで身体を動かす事も無かったですし、カロリー消費の為にも頑張りましょうか」

 

「でしたら、私もお付き合いします。姉さまたちがいなくなってしまったので、会話相手がいないのです」

 

 

 結局全員が参加する事になったのだが、本音はそれでもニコニコと笑みを浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 監視衛星で一夏の行動を観察していたスコールは、一夏の目の前から人が消えた事に驚いていた。

 

「あらあら、さすがは大天災ね……スケールが違い過ぎる」

 

 

 束が本気になれば、自分たちなどあっさりやられてしまうと実感したスコールは、どうやって束の監視を掻い潜るかを考え始める。

 

「最悪、SHに興味を向かせれば私たちはすり抜ける事が出来そうね。何でも篠ノ之束は他人を認識する事が出来ないらしいから」

 

 

 箒からの情報なのだから、確定的だと思えるはずなのだが、どうにも箒は信用されていないようで、スコールは彼女からの情報を鵜呑みにしていないようだった。

 

「まぁ、篠ノ之束だけ誤魔化しても、一夏の周りには強力な戦力が揃ってるのよね……」

 

 

 刀奈や虚といった現役から、織斑姉妹や碧といった伝説となりつつあるIS操縦者まで一夏の味方なのだ。下手に手を打っても返り討ちにされる未来しか想像出来ない。

 

「未来と言えば確か、更識所属に未来予知が出来る機体を持った子がいたわね……」

 

 

 レインがダリル・ケイシーとして送ってきた情報に、そのような報告が上がっていた事を思い出し、スコールはますます頭を悩ませる。

 

「この情報が確かだとすれば、奇襲なんて成功するはずがない。それどころか、攻め込んだ先に待ちかまえているかもしれないし、攻め入ろうとした時に既に包囲されているなんて事もあり得るかも……」

 

 

 あくまで狙いは一夏なのだが、それを守る壁が厚すぎるのだ。一夏一人相手なら何とかなる、と思えるのだが、そんな楽観視を出来る立場でもないスコールは、スクリーンに表示されている戦力を確認してため息を吐く。

 

「レインが連れてきたフォルテ・サファイアはそれなりに使えそうだけど、やはりSHがね……能力はそれなりに向上してるけど、すぐにカッとなるし連携は期待できないし……」

 

 

 単独行動させたところで、挑発に乗りやすく視野狭窄を起こしやすい性格なので、すぐに撃退されるだろうし、一夏が目の前に現れたらそれが更に加速する。

 

「何とかして性格を矯正しないと、SHはこのまま使い捨てになるかもしれないわね……せっかく強奪したサイレント・ゼフィルスも使えなくなっちゃいそうね……」

 

 

 箒専用にカスタマイズしたので、箒が離脱するとそのままサイレント・ゼフィルスも戦力から外さなくてはいけなくなる。その事でますます頭を悩ませるスコールを、遠巻きに協力者たちが見守っているのだった。




主に箒の事で頭を悩ませてるんですけどね……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。