暗部の一夏君   作:猫林13世

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ここの関係は友好的なんですけどね……


姉妹の時間

 一夏がいないので、織斑姉妹は久しぶりにマドカを含む姉妹の時間を過ごしていた。普段はここに一夏も交ぜようと努力する千冬と千夏だが、戦果は芳しくなく、また一夏が来ないと言う事で、マドカもあまり呼びかけに応じてくれないのだった。

 

「いやー、何時振りだ? マドカがこの部屋に来るのは」

 

「最近はちゃんと片づけてるからと言っても、マドカが信じてくれなかったからな……夏休み前くらいじゃないか?」

 

「だって、姉さまたちが片づけてるって言っても信用出来ないと兄さまが……」

 

 

 夏休み前には、足の踏み場もなかった寮長室だが、今はそれなりに人の住める空間になっている。それでも、ところどころに洗濯物だったり、片づけてないゴミだったりが見受けられるが、過去の二人と比べればかなりの成長だと言えるだろう。

 

「だいたいだな、一夏の清掃スキルを基準に考えられたら、世の中の殆どの女性は掃除下手だぞ」

 

「それはそうかもしれませんね……兄さまは本当に掃除上手ですし、あれだけ散らかっていた本音の部屋も、一時間もあればきれいになってましたから」

 

 

 同室の簪からクレームが入り、一夏が強制執行という形で部屋の掃除を行ったのが、夏休み最終日直前。護衛としての任務を碧や美紀に任せっきりだった本音は、ほぼ毎日部屋でだらだら過ごした結果、久しぶりに寮に戻ってきた簪が腰を抜かすというくらい散らかしたのだった。

 

「布仏妹の部屋の掃除をするのなら、お姉ちゃんの部屋の掃除もしてくれればいいのに……」

 

「兄さまに甘えてばかりだと、姉さまたちが成長しないからと兄さまは言っていましたが」

 

「なら布仏妹にも自分で掃除をさせるべきだったのではないのか? アイツこそ成長しないだろ」

 

「兄さま曰く、本音は言っても動かないが、姉さまたちは言えば一応動くからと言う事でした。もちろん、掃除した後で、兄さまと虚さんにこっぴどく怒られていましたけど」

 

 

 散らかしたことと、片づけ出来ない事の二重で怒られていた為、普段のお説教時間よりも長かったと本音は語っていた。

 

「そうか。わたしたちは一夏に期待されてるんだな!」

 

「確かに私たちは、言われれば動くからな!」

 

 

 それが大人としてどうなのかと問われれば、ダメな方に分類されるんだろうなと考えながらも、マドカはその事を口にはしなかった。

 

「ところで、今日は何で一夏たちは外出してるんだ?」

 

「……姉さまたちは聞いていないのですか?」

 

「外出許可は真耶が出したからな。そもそも、わたしたちに相談しないからな、一夏は……」

 

 

 少し遠い目になった姉二人に、マドカは慌てて外出の理由を告げた。

 

「今日は雑誌のインタビューを受ける為、兄さまたちは外出したのですよ」

 

「インタビュー? 雑誌とか言ったが、どんな雑誌だ?」

 

「二年の黛先輩のお姉さんが副編集長を務めている『インフィニット・ストライプス』という雑誌だそうです。インタビュー記事の他に、兄さまたちのグラビア写真が載るらしいですよ」

 

「なるほど……それで、その雑誌は何時発売なんだ?」

 

 

 鬼気迫る勢いで尋ねて来る千冬に、さすがのマドカ引き気味になる。妹を怖がらせてしまったという事を実感し、千冬も少しは落ち着きを取り戻した。

 

「すまない。つい一夏の水着姿を想像したら……こう、興奮してしまってな」

 

「別に水着で写真を撮るわけじゃないですよ? なんかコスプレみたいな感じになると刀奈さんが言っていましたが」

 

「コスプレだと? ……何ともけしからん!」

 

「……ちなみに、何のコスプレを想像したのです?」

 

 

 恐る恐る、という表現がぴったりの感じで、マドカは千夏に尋ねる。この姉の事だから、きっとぶっ飛んだ答えが来るのだろうと身構えた。

 

「一夏が猫の耳と尻尾をつけてご奉仕してる姿だ!」

 

「欲望丸出しですね……」

 

 

 身構えたというのに、それ以上のぶっ飛んだ答えが返ってきた為、マドカは軽い頭痛を覚えたのだった。

 

「むっ? 束のやつから電話か……」

 

 

 千夏同様に一夏のコスプレ姿を夢想していた千冬だったが、着信音で現実に引き戻され、ディスプレイに表示された相手の名前を呟き、小さくため息を吐いて電話に出た。

 

「何の用だ? ……あぁ、分かった」

 

 

 少し会話を交わした後、千冬は千夏にも聞こえるようにスピーカーに切り替える。

 

『やあやあなっちゃん。まーちゃんもそこにいるのかな?』

 

「御託はいらん。それで、貴様が電話してくるなど珍しいな。何かあったのか?」

 

 

 無駄話をするつもりは無いとバッサリ切り捨て、千夏は先を急かす。

 

『相変わらずクールだね、なっちゃんは。でも、これを聞いたら冷静じゃいられなくなるかもね』

 

「だから何だと言うのだ?」

 

『外出中のいっくんに難癖つけた愚か者を捕まえてるんだけど、ちーちゃんとなっちゃんも懲らしめたいかなーって思って電話したんだけど』

 

「「よし、今すぐそっちに行くから場所を教えろ」」

 

『さっすが双子! 寸分たがわぬタイミングだね~。位置情報はまーちゃんの携帯に送信したから、後は自力で上って来てね~』

 

 

 束からのメールが届き、マドカはその内容を千冬と千夏に見せる。

 

「IS学園上空五百メートルだと?」

 

「ステルス機能でもついているのか? まぁ、これくらいなら問題ない」

 

 

 問題あると思うのだが、マドカはツッコミを入れる事無く、二人の姉を見送ったのだった。




後は一夏との関係をどうにかせねば……手遅れか?

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