暗部の一夏君   作:猫林13世

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物騒なタイトルになったな……


処刑方法

 買い物を済ませた一夏たちは、簪たちへのお土産であるケーキを買いに洋菓子店を訪れた。基本的に甘いものは進んで食べない一夏は、店内に充満する甘い匂いで少し胸やけ気味だった。

 

「一夏さん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですけど、凄い甘ったるい匂いですね」

 

「これくらい普通だと思うけどね。一夏君は普段、甘いものの匂いを嗅がないから余計にそう思うんだよ」

 

 

 刀奈の指摘に、一夏は納得したような感じで、店の外で待つと提案して先に外へ出た。もちろん、財布は刀奈に渡してあるので、支払いは一夏持ちだ。

 

「一夏君、よっぽど甘いものが苦手のようね」

 

「食べれないわけじゃないんでしょうが、この間の誕生日の時のケーキも、最後は本音にあげてましたからね」

 

「あれでも甘さを控えたんだけどな……」

 

 

 せっかくの手作りと言う事で、一夏は結構頑張ってケーキを食べていたのだが、一人で食べきることが出来ずに、最終的に本音にあげたという記憶は、刀奈や虚にも新しものだった。

 

「甘くないケーキって、あるのかしら?」

 

「これなんてどうですか? 野菜を使ったケーキらしいですけど」

 

「トマトやニンジンか……本音が嫌いそうなものが使ってあるわね」

 

「お嬢様? 一応お土産なのですから、嫌がらせなど考えないようにお願いしますね」

 

 

 虚に釘を刺され、刀奈は分かってると言わんばかりの笑みを浮かべ、別のケーキを眺め始めた。

 

「何だかお嬢様と二人で行動するのも久しぶりのような気がしますね」

 

「まぁ、私も虚ちゃんも、色々と忙しい身だし、普段は一夏君が一緒だからね」

 

 

 その一夏は今、出入り口付近で腕を組みながら何かを考えている様子。恐らくサラの専用機の事を考えているのだろうと、刀奈と虚は顔を見合わせて笑った。

 

「それじゃあ、一夏君にはこの野菜ケーキにして、後はみんな同じでいいよね?」

 

「取り合いになるのが目に見えてますし、全員同じものなら問題はないと思います」

 

「了解。って、一夏君の財布って凄いのね……これだけあれば」

 

「お嬢様?」

 

「じょ、冗談よ」

 

 

 自分もそれなりに稼いでいるのだが、やはり大企業のトップと比べれば微々たるものだと実感した刀奈の心に湧いた黒い考えも、虚の一言でどこかに霧散していった。

 

「それじゃあ帰りましょう……あれ? 一夏君が誰かと話してる」

 

「というよりも、一方的に絡まれてるようにも見えますが」

 

 

 会計を済ませた二人が一夏に声を掛けようとしたら、見知らぬ女性が一夏に話しかけていたのだった。だが話しかけているというよりかは、虚が言ったように一方的に女性が声を荒げているようにも見える。二人は首を傾げながらも、一夏に声を掛けた。

 

「一夏君、お待たせ」

 

「あら、既に飼い主がいたのね。まったく、躾けのなってない犬ね」

 

「犬? 一夏君は人間ですよ」

 

「そう言う事じゃないわよ。男なんて所詮、女の言う事を聞くだけの犬なんだから」

 

 

 女尊男卑を笠に、偉そうにしている女性だったのかと、刀奈と虚は一夏が一切口を開かなかった理由を理解し、その勘違いをしている女性に真実を告げようとした。だが――

 

「一夏さんを犬とか、どれだけ勘違いしてるんですか、貴女は」

 

 

――第三者の出現で、それも出来なくなってしまった。

 

「なっ、誰よアンタ」

 

「私は一夏さんの専用機であり護衛の闇鴉と言います。貴女のように勘違いした女性が大勢いるから、世の中腐ってるとかネットで呟く人が多いんですよ」

 

「お前、何時ネットなんて見てるんだ?」

 

「コアネットワークって便利ですよね」

 

 

 一夏からの問いかけに、闇鴉は軽く舌を出しながら答える。コアネットワークの回線を通じて、インターネット回線を覗き込めるらしいと、一夏はこの時知ったのだった。

 

「せ、専用機? 男の貴方が何故ISを持っているというの!?」

 

「貴女、IS関連の仕事をしてないですね? もししているのであれば、刀奈さんが『一夏君』と呼んだ時点で分かると思うのですが」

 

「何の話よ」

 

「ここにいるのは、更識企業次期当主である更識一夏さんと、日本代表の更識刀奈さん。そして更識企業の企業代表である布仏虚さんです。貴女よりもよほど社会的地位の高い人たちなんですよ」

 

 

 穏便に済ませる気など更々ない闇鴉は、一夏だけでなく刀奈と虚の事も紹介する。衝撃的な事実を受け、一夏に声を掛けてきた女性は、逃げ出そうと身体を反転させる。だが反転させた先には、刀奈と虚が素敵な笑みを浮かべて立ちはだかっていた。

 

「貴女、一夏君を『犬』呼ばわりしておいて、何も言わないで帰れると思ってるの?」

 

「貴女一人を社会的に抹殺する事など、更識には造作もない事なのですがね?」

 

 

 自分たちが貶されてもここまでは怒らないだろうと、刀奈と虚は思っている。だが一夏が貶されたのなら話は別であり、一切の容赦もなくこの女性を狩ると心に決めたのだった。

 

「刀奈さん、虚さん。こんな勘違いしてる女性一人の為に、貴女たちが動く必要はありませんよ。どうせそのうち勝手に野垂れ死ぬでしょうから、放っておきましょう」

 

「でも……」

 

「大丈夫ですよ。どうせ監視しているあのウサギが狩るでしょうから」

 

 

 一夏の言葉があったからか、次の瞬間にはその女性は消えていた。恐らくは転送されたのだろうと一夏は理解したが、刀奈と虚はその女性が、跡形も無く消し去られたと思い震えたのだった。

 

「本当に消し去る必要は無いんじゃないの?」

 

「はい? 今頃は束さんがお仕置きしてると思いますよ。その後で織斑姉妹の許に転送されるんだと思いますが」

 

「……死んだね」

 

 

 地獄のフルコースと言ってもよさそうな展開に、刀奈と虚はあの女性の末路を想像し、晴れやかな気分になったのだった。




勘違い女性の人生終了のお知らせ……

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