暗部の一夏君   作:猫林13世

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騒がれて当然だな……


自分たちの苗字

 写真撮影も終わり、一夏たちは渚子と別れ帰路についていた。

 

「まさか謝礼がこんなにもらえるとは思ってなかったわ」

 

「随分と気前が良かったですね。まだ発行すらしてないのに」

 

「それだけ売り上げが見込めるって事じゃない? 私や虚ちゃんはIS操縦者を目指す日本人女子の憧れらしいし、一夏君は全世界から注目されている唯一の男子IS操縦者にして世界トップと言われている更識企業の次期当主であり、既に世界的地位を確立してるんだから」

 

「それほど表に出た覚えはないんですけどね……」

 

 

 一夏はあくまでも開発や交渉を担当しており、IS企業に属してないかぎり、滅多に一夏の姿を見る事は出来ない。まぁ、皆無ではないので、そのタイミングで見たのかもしれないが。

 

「とりあえず、もらった謝礼を使って、お昼ご飯にしましょう」

 

「俺たち三人だけで外食したとバレたら、簪とかに怒られますよ?」

 

「大丈夫よ。ちゃんとお土産としてケーキを買って帰るから」

 

 

 既に対策済みと言わんばかりに胸を張る刀奈を見て、一夏と虚はそろって噴き出した。

 

「な、なによ~」

 

「いえ、相変わらずお嬢様は子供っぽいなと思いまして」

 

「俺より年上のはずなんですが、何故か年下っぽいと思ってしまいまして」

 

「虚ちゃんも一夏君も、私の事を幾つだと思ってるのよ」

 

 

 頬を膨らませて抗議する刀奈の姿が、より子供っぽく見え、虚と一夏は揃って笑い出す。二人を睨んでいた刀奈も、二人につられて笑い出した。

 

「さっ、とりあえずご飯にしましょ。朝から何も食べてないから、お腹すいちゃった」

 

「朝食を摂らなかったんですか?」

 

「だって、写真撮影があったから……」

 

「あぁ、なるほど」

 

 

 刀奈の乙女心を理解し、一夏は呆れた目を向けるのを止めた。自分も研究に没頭すると食事を忘れる傾向にあるので、一夏も人の事は言えないのだが……

 

「お嬢様、お腹がすいているのは分かりましたが、くれぐれもがっつくような事の無いようにお願いします」

 

「分かってるわよ。私だって恥じらいってものは持ってるわよ」

 

「だと良いのですが」

 

 

 虚の呆れた顔を見て、刀奈は抗議するように詰め寄り、虚の背後に見覚えのある顔を見つけた。

 

「あれ? ねぇ一夏君」

 

「何ですか?」

 

「あの人って確か、一夏君のお友達よね?」

 

「友達? あぁ、弾のヤツですか」

 

「何してるのかしら?」

 

 

 刀奈が観察していると、弾の背後から大量の荷物を持った鈴と、同じくらい荷物を持った蘭がやって来た。

 

「あれって凰鈴音さんとお友達の妹さんよね? 何を買いこんだのかしら」

 

「多分いらんモノだと思いますよ。弾の奢りで、どうせ弾が持つんだからという理由で、普段なら買わないような物も買ったんだと思います」

 

 

 一夏の言った通り、大量の荷物は全て弾に渡され、二人はまたどこかへ行こうとして、一夏たちに気付いたのだった。

 

「一夏じゃない。何してるの、こんなところで?」

 

「それはこっちのセリフだ。また弾との勝負に勝ったのか?」

 

「アタシが負けるわけないじゃないの。今回は蘭にも負けたから、何時のも倍よ」

 

「そろそろ勘弁してやらないと、アイツが高慢な女性にぶつかって難癖つけられ、そのまま逮捕されるなんて展開になりかねないぞ」

 

「それ、面白そうね」

 

「おいおい……」

 

 

 一夏の冗談を見てみたいと思ったのか、鈴は人の悪い笑みを浮かべた。だがもちろん冗談だと理解しているので、一夏の忠告を大人しく聞くことにした。

 

「仕方ないわね。弾、少し持つからさっさと帰るわよ」

 

「それじゃあ一夏さん、また。ほらお兄! ふらふらしてると人にぶつかっちゃうからね」

 

「分かってるなら手加減しろってんだよ!」

 

 

 弾は最後まで一夏と会話することなく去っていった。

 

「面白い人よね、一夏君のお友達は」

 

「勝てないと分かってるのに勝負を吹っ掛けるからいけないんですよ」

 

 

 あの状況は自業自得だと一夏は分かっているので、必要以上に同情的にはならなかったが、さすがに知り合いが警察の厄介になるのは避けたいと思ったので、あのような言葉を掛けたのだった。

 

「私たちも一夏君の奢りで何か買ってもらおうかしら?」

 

「俺個人の資産なんて、高校生の平均以下だと思いますが」

 

 

 バイトも出来ない身であり、給料の大半は新たな開発資金として確保する為、一夏が自由に使えるお金はそう多くない。だがそれでも、平均以下とは思えない刀奈と虚だった。

 

「だいたい、一夏君個人で開発資金を捻出する必要は無いと思うんだけどな」

 

「必要経費ですので、企業に領収書を回していただければ、しっかりと経費で落ちるんですけどね」

 

「個人的趣味の部分もありますので、それを経費で賄うのはちょっとね……まぁ、その分成功して利益が出た時は会社側が気を利かせて報酬を増やしてくれてますので」

 

「経理担当は簪ちゃんだから、ちゃんと分かってるんでしょうね」

 

 

 そんな他愛のない話をしながら、一夏たちはファミレスへと入っていった。少し待つ事になったのだが、特に気にする様子も無く、人数と名前を書く時に「更識」と書いてしまった事を、後々後悔する事になったのだった。

 

「何で更識って書いちゃったのよ?」

 

「他にどう書けと? 布仏の苗字も多くに知られてますし、織斑なんて書いたらこれ以上の騒ぎだったと思いますがね」

 

 

 自分たちの苗字が、世界的に有名になっていた事を失念していた一夏たちは、少し食べ辛い雰囲気の中で食事を済ませたのだった。




一夏に関しては、旧姓も有名だしな……

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