暗部の一夏君   作:猫林13世

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だんだんと暴走してきましたね……


写真撮影

 一通りインタビューを終えた渚子は、写真撮影をしたいから着替えてほしいと奥の部屋から衣装を持ってきた。

 

「更識君は、この白いスーツなんてどうかな?」

 

「スーツなんて、普段から来てますし、新鮮味など皆無だと思いますが」

 

「そうなの? ISのスーツじゃなくて、こういった普通のスーツなんだけど」

 

「これでも更識企業の役員なんで、他社との会合やIS発表会などではスーツを着用してますので。調べればたぶん、写真もあると思いますよ」

 

 

 更識企業のIS発表記者会見などでは、一夏が矢面に立って記者からの質問に答えたりしているので、一夏のスーツ姿は新聞を読んでいる人には、確かに新鮮味に欠ける恰好だといえるだろう。

 

「それじゃあ、こっちの礼服なんてどうかしら? タキシードなら、公の場で着たりしてないわよね?」

 

「何で若干コスプレっぽい服ばかりなんです?」

 

「それはほら……部数を出す為にはこういった事も必要になるのよ……今のご時世、インタビュー記事だけで部数が出る事は殆どないのよ……必要なら大げさに記事を書いたり、中には捏造でもいいから記事を出せとかいう出版社もあるとかないとか……」

 

 

 渚子の愚痴ともとれる言い訳に、一夏は同情的な視線を彼女に向けた。

 

「確かに、捏造記事が横行していると聞いた事がありますし、記事だけで勝負出来る会社が減ってきているというのも聞いていますが……何故二人がウエディングドレスで俺がタキシードなんですかね」

 

「それはその……ごめんなさい、私の趣味です」

 

 

 ノリノリで着替えた刀奈と、若干頬を赤くしながらも、相手が一夏ならと引き受けた虚が出てきたのを見て、一夏が渚子に殺気の篭った視線を向けた。

 

「まぁまぁ一夏君。これくらい協力してあげましょうよ」

 

「……何で言いくるめられたんです?」

 

「な、なにもないわよ?」

 

「三人で撮った写真を加工して、二人きりになるようにプリントしてその写真を貰う、なんて事無いですよね?」

 

「……ごめんなさい、まったくその通りです」

 

 

 驚異的な勘で刀奈たちがもらうはずの報酬を言い当て、一夏は更に深いため息を吐いた。

 

「だから言ったんですよ。一夏さんにはバレるからやめた方が良いと」

 

「虚ちゃんだって、結局は着替えたんだから同罪よ。自分だけ逃げようとしたってそうはいかないんだから」

 

「……やるならさっさと終わらせましょう。どうせ何を言ったってこの茶番は終わらないんでしょ? だったらこれ以上面倒になる前に終わらせた方が良いでしょうし」

 

「よし! じゃあ更識君も急いで着替えて来てね」

 

 

 一夏が呆れながらも承諾したのを受けて、渚子は元気を取り戻した。カメラマンも準備万全のようで、後は一夏が着替えればいつでも写真を撮ることが出来る状態になっていたのだった。

 

「でも、巷では結婚前にウエディングドレスを着ると婚期が遅れるって言われてるんだけど、更識さんや布仏さんは気にしてなかったわよね?」

 

「もう相手がいますし。それに、更識の結婚式は洋風ではなく和風、紋付き袴に白無垢ですから。ドレスって憧れてたんですよね」

 

「そっか。もう相手がいるから気にしなくていいのか……羨ましい限りだわ」

 

「黛さんは、そういったお相手はいないのですか?」

 

「このご時世に、IS関係の仕事をしてる女性に声を掛ける男性など、殆どいないからね」

 

 

 女尊男卑が進む今の時世、結婚率が下がっているのもまた問題視されているのだが、男性の卑屈さは年々増していき、それに伴うように女性の傲慢さも加速しているのだった。

 

「更識君のように、女性相手だろうがはっきりと物事を言えるような相手じゃなきゃ、結婚なんて考えないかもね」

 

「一夏君だって、私たちがいなかったら多分、女性に話しかけられただけで逃げ出すと思いますよ」

 

「ああ、女性恐怖症だったんだっけね。さっき聞いたのにすっかり忘れてたわ」

 

 

 渚子と刀奈の会話を聞きながら、虚は少しそわそわしていた。一夏のスーツ姿なら見慣れているが、タキシード姿は見たことが無いので、楽しみに思う気持ちと共に、この格好でタキシード姿の一夏の隣に立つ自分を想像して緊張しているのだった。

 

「虚ちゃん、さっきからうろうろしてるけど、ドレス汚れちゃうわよ?」

 

「お嬢様は緊張しないのですか? 一夏さんの隣にこの格好で立つんですよ?」

 

「そりゃ緊張はするけど、それ以上に楽しみなのよ、私は」

 

「今だけは、お嬢様のそのような性格が羨ましいです」

 

「今だけってどういう事よ!?」

 

 

 刀奈と虚が言い争いを始めたタイミングで、一夏が着替え終えて戻ってきた。

 

「何か変な感じですね」

 

「一夏君……いい」

 

「はい?」

 

 

 率直な感想を漏らした刀奈に、一夏は首を傾げて呆れたような表情を浮かべた。

 

「さっさと終わらせましょう。実は仕事が山積みなので、出来る事ならインタビューを受けたくなかったんですよね」

 

「そうなの? でも、OKしてくれたじゃない」

 

「俺が聞かされたのは一昨日ですからね。OKも何も、返事すらしてないんですよ」

 

「でも断らなかったじゃない? どうして?」

 

「差し迫ってなければ、お断りしましたよ。ですが、二日後に迫ってましたので、今更断れないだろうと判断したまでです」

 

「その判断は正しいわね。断られても困ったもの」

 

 

 渚子と軽く会話をして、一夏は刀奈と虚を両脇に立たせ、カメラの前に立ったのだった。




刀奈と虚を買収済みなので、一夏も諦めました

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