暗部の一夏君   作:猫林13世

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悪ふざけが出てきたな……


続くインタビュー

 渚子の質問を受けて、一夏はこんな質問に意味はあるのだろうかと考えていた。確かに自分の立場は特殊で、興味がある人間がいるかもしれないという理由は理解出来た。だが自分の恋愛事情など聞き出して、誰が得をするのかという点が疑問だったのだ。

 

「それじゃあ次は更識さんに質問するわね。義理の弟くんがこんなにカッコいいと、ちょっとイケナイ気持ちになったりしないの?」

 

「私と一夏君に血縁関係は無いので、禁断の関係という表現は出来ませんよ。それに、私たちと一夏君は、普通にお友達以上の関係だと思ってますから」

 

「おっ、それは興味深い話ね。薫子の話だと、更識家は特別な事情があるらしいじゃない。その辺り、聞いてもいいかしら?」

 

 

 渚子の質問に、刀奈は一瞬考えてから頷いた。これくらいは知っている人間がいてもおかしくない話であり、特に秘密にしなければいけない内容でもないと判断したのだろう。

 

「更識家では、当主が男性の時のみ、配偶者を複数設けても構わないという決まりがあるのよ。残念な事に、私の父や現当主は一人しか奥さんを迎えられなかったけど、次期当主である一夏君は、既に私や虚ちゃんの他にも複数人がお嫁さんになりたいと思ってるから、恐らくその決まりが適応されると思うんですよね」

 

「なるほど。更識君はその辺りどう思ってるの?」

 

「どうと聞かれましても……まだそんな事を考えた事もありませんし」

 

 

 一夏が正直に答えると、渚子は少しつまらなそうな表情を見せ、たまに刀奈が見せるような笑みを浮かべた。

 

「そんな答えじゃつまらないから、ハーレム最高とでも書いておこうかしら」

 

「事実を捻じ曲げて伝えるつもりでしたら、この出版社を潰す事も可能なのですが?」

 

「正直申し訳ありませんでした」

 

 

 悪い事を思いついたという笑みを浮かべ、堂々と事実無根の記事を書くといった渚子に、一夏は無表情で淡々と告げると、一秒も間をおかずに渚子はその場で土下座した。普通なら高校生が会社を潰すと脅してきても笑い話で済むのだが、それを実現できる立場であり、また世間がどちらの味方をするかと考えれば、渚子は平謝りするしかなかったのだった。

 

「えっと……それじゃあ気を取り直して、更識さんは義弟くんの事を想ってるのね?」

 

「一夏君は義弟というより、もう家族ですからね」

 

「仲が良いんだね」

 

「一夏君が女性恐怖症ということもあって、子供の頃からじっくりと付き合ってきた結果です」

 

「そうなの? じゃあ更識君にとって、IS学園は天国というより地獄なのかしら?」

 

「知り合いがいなかったら、とっくの昔に退学してたでしょうね」

 

 

 一夏の友人が聞けば、何を贅沢な事をと言ったかもしれなが、彼らも一夏が女性恐怖症であることは知っているので、口には出さなかっただろう。

 渚子は一夏の事情を知り、これは正しく伝えなければいけない事だと思ったのか、その辺りを掘り下げる事にしたようだった。

 

「女性恐怖症になった原因とかは? 聞いても大丈夫かしら」

 

「世間でも既に報道されてますし、原因は構いませんよ。白騎士事件の後、俺は何者かに誘拐され、それが原因でそれ以前の記憶を失い、捕まっていた数時間の間に何かをされ、人間不信と女性恐怖症に陥ったんです」

 

「最初は大変でしたからね。家の人間ですら怯えちゃって、年が近かった私たちしか一夏君とコミュニケーションが取れなかったので」

 

「なるほどなるほど。実の姉である織斑姉妹の事も、その時から避けてたのかしら?」

 

「まぁ、あの二人は自活能力が低かったので、先代の楯無さんが俺を養子にしてくれたんですけどね」

 

「織斑姉妹は自活能力が低い、これはスクープかしら」

 

 

 喜々としてメモを取る渚子に、一夏は申し訳なさそうに告げた。

 

「記事にしたら最後、貴女は最強の双子に地の果てまで追いかけまわされますよ? もちろん、出版社も潰されるでしょうね、物理的に」

 

「そもそも織斑姉妹に幻想を抱いている女性が、そんな記事を読んだら抗議に来ますよ? 『事実無根の記事を書くとは何事だ』って」

 

「……確かに、世間の織斑姉妹像は物凄い事になってるからね。家事も仕事も完璧にこなし、更にスタイルも良いから」

 

「実際は自堕落な生活をしている、尊敬できない教師ですけどね」

 

「そんなことを堂々と言えるのは一夏君だけよ……他の生徒は思ってても口に出さないから」

 

 

 一夏と刀奈の会話を聞いて、渚子の中でも織斑姉妹のイメージがガラリと変わった。彼女もまた、幻想を抱いていた一人だったのだ。

 

「それじゃあ最後に布仏さんにインタビューしますね」

 

 

 刀奈にする質問は少なかったなと、一夏は内心でそんなことを思っていた。

 

「世界トップとも言われる更識企業の企業代表という立場は、私たちが思ってる以上に大変だと思うのだけど、実際はどうなのかしら?」

 

「そうですね……一夏さんをはじめ、更識企業の人間のフォローがありますから、想像しているほど大変ではないと思いますよ。まぁ、様々な国に行かなければいけないので、そういった点では大変かもしれませんが」

 

「なるほどね……布仏さんは国家代表には興味が無かったの?」

 

「お嬢様に敵うとも思えませんでしたし、私は整備や開発の方に興味があったので」

 

 

 虚への質問が続く中、一夏と刀奈は大人しくインタビューが終わるのを待っていたのだった。




あの二人を敵に回したら……うん、無理だな

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