コア製造を終え、専用機製造に取り掛かっていた一夏だったが、刀奈が勝手に組んだ予定の所為で、本日は専用機製造に使える時間が少なくなってしまっている。せっかくの休日に何処にも出かけないのも、もったいない話ではあるが、そもそもIS学園所属の身としては、簡単に外出する事も出来ないので、休日だろうが平日だろうが、寮で生活する生徒は少なくない。
一夏もその例にもれず、休日も基本的には寮から出る事は無い。出たとしても整備室やアリーナで作業をするくらいで、学園の敷地内から外に出る事はまずないと言い切れるくらいの生活を送っている。
そんな一夏が今日、刀奈と虚と三人で都心のビル群に足を運んでいる。理由は先に言った通り、刀奈が勝手に承諾した所為で、黛薫子の姉であり、雑誌「インフィニット・ストライプス」の副編集長でもある渚子という女性のインタビューを受けなければいけないからだ。
「まさかお嬢様が一夏さんに伝え忘れていたとは思いませんでした」
「だからそれは謝ったでしょ! 虚ちゃんもいつまでも言わないでよ……」
「それで、その編集社というのは何処にあるんですか? 俺は一切聞いてないので知りませんよ」
「えっと……薫子ちゃんに貰った地図だと……あっちね」
刀奈の先導に一抹の不安を覚えながら、一夏と虚は刀奈の後に続いた。一夏としてはこんな事をさっさと終わらせて、専用機製造に戻りたいのだが、自分の意思が介在していないとはいえ引き受けてしまった事だと割り切り、インタビューを受ける事を承諾したのだった。
「たぶんこの辺りなんだけど……」
「見せてください」
一夏が刀奈の背後から地図を覗き込み、辺りを見渡す。それほど詳細な地図ではないが、この辺りの特徴はしっかりとつかんでおり、確かにこの辺りのようだった。
「この路地裏じゃないですか?」
「そうみたいね……」
一夏が指差した路地裏と、地図に書かれている編集社のビルの位置が一致したのを見て、刀奈は少し駆け足でそのビルに向かった。
「ごめんください。IS学園の黛薫子ちゃんから頼まれて来たものですが」
「いらっしゃい。貴女が更識刀奈ちゃん?」
「はい。そう言う貴女は、薫子ちゃんのお姉さんですね?」
「はじめまして。『インフィニット・ストライプス』副編集長の黛渚子よ。これ名刺ね」
刀奈に名刺を渡し、刀奈の背後に立っている二人を見て、渚子はそちらにも挨拶をする。
「それで、貴女が布仏虚さんで、貴方が世界で唯一ISを動かせる男子、更識一夏君ね?」
「更識一夏です」
「布仏虚です」
渚子に話しかけられ、一夏と虚は軽く自己紹介をして頭を下げる。
「黛渚子よ。今日はわざわざありがとうね」
薫子同様軽い感じがする相手だと、一夏は渚子をそう評価した。
「早速で悪いんだけど、まずは更識君にインタビューしてもいいかしら」
「構いませんよ。こちらも早いところ終わらせたいと思っているので」
「なるほど。薫子ちゃんの言う通り、物事をはっきりと言う子だ」
一夏の本音を隠そうともしない態度に、渚子はおもしろいと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「それじゃあ早速、女の園で生活する気持ちは?」
「特別な気持ちはありませんね。強いてあげるとすれば、トイレがないくらいでしょうか」
「さすがにクールね。それじゃあ、専用機持ちと言う事だけど、更識君は代表とか候補生とかには興味ないのかしら?」
「この専用機は戦う為ではなく、逃げるために開発したものですから。そもそも、本気で戦ったら俺なんか相手にもされませんって」
「そうなの? 薫子の話では、更識君は戦闘においても優秀だって聞いてるけど」
「平均以上の動きは出来ると思いますが、世界相手に戦えるかと聞かれればね。そんなうぬぼれた考えは持ち合わせていません」
一夏のはっきりとした答えに、渚子は頷きながらメモを取っていく。
「それじゃあ次は、好きな人とかいるかしら?」
「それは答えなければいけない質問なのでしょうか?」
「そうね。出来れば答えてもらいたいかな」
「出来ないので答えません」
思春期の男子に見られる、年上の女性相手に緊張している、とかいう感じも無く、一夏ははっきりと拒否を叩きつける。渚子も一夏の態度に少したじろぎながら、質問を続けた。
「じゃ、じゃあ、休日の過ごし方とか聞いてもいいかな?」
「基本的に訓練の付き添いかVTSシステムのメンテナンスに当てています。本日も本当ならば別の作業があったのですが」
「そ、そうなの……わざわざ予定を空けてもらって悪いわね」
「いえ、気にしないでください」
そもそも空けていないので、一夏としては謝罪される覚えはないのだ。一夏の隣で刀奈が身動ぎをしたが、渚子はそこにツッコミは入れなかった。
「じゃあ最後に、最強の双子を姉に持つ気持ちを聞かせてもらえるかな?」
「血縁上は姉ですが、俺にはあの二人と過ごした記憶はありませんので、どう思うかと聞かれても答えることは出来ません、強いてあげるとすれば、IS操縦者としては一流でも、人間として一流ではないと言う事でしょうか」
「……なかなか重い一言ね」
織斑姉妹の本性を知らない渚子は、一夏の言葉を皮肉と受け取ったのだが、本性を知る刀奈と虚は、かなり苦めの笑みを浮かべていたのだった。
地雷臭がしなくもないが、とりあえず無事に一夏へのインタビューは終了