昨晩刀奈から聞かされた、黛薫子の姉が自分たちにインタビューしたいと言う事を、一夏はどうにかして断れないかと考えていた。専用機製造に時間を割く為、他の事は出来るだけ断りたいのが一夏の本音であり、それ以上に薫子の姉という時点で、一夏はうさん臭さを感じ取っていたのだった。
「一夏さん、難しい顔をしていますが、昨日の刀奈お姉ちゃんの話ですか?」
「いきなり言われたからな……しかも今週末だ。一分一秒が惜しい今、そんなことに付き合ってる余裕などないんだよな……」
「ですが、もう刀奈お姉ちゃんがOK出しちゃってるんですよね? 虚さんも嫌々ながらも引き受けてるらしいですし」
「事前に言ってくれてれば、まぁどうにでも出来たんだが……引き受けてしまってる以上、今更断れないだろうな」
一夏としては、一言も「引き受ける」などと言っていないのだが、刀奈が承諾の返事をしてしまってる以上、今更何を言っても無駄だろうと半分諦めている。
「そもそも、インタビューって何をするつもりなんだ? 更識の秘密なんて聞かれても答えられるわけないって分かりそうだが……」
「IS学園の三学年のトップにインタビューって企画らしいですよ」
「刀奈さんや虚さんは分かるが、何で俺? 学園トップは簪か美紀だろ?」
「一夏さんは、世界で唯一ISを動かせる男子としてインタビューしたいって事だと思いますよ」
「ああ、そう言えばそんな肩書があったな……殆ど動かしてないから、すっかり忘れてた」
「一夏さんは最近研究ばっかで、私の事を動かしてくれませんものね」
「……だから、いきなり人の姿になるのは止めろと言ってるだろ」
自分の事が話題になったのを聞いて、闇鴉が待機状態から人の姿へとなる。相変わらずのタイミングに、一夏は少し呆れながらツッコミを入れたが、入れた一夏本人も意味はあまりないと言う事は理解出来ていた。
「それ以外にも、一夏さんは更識企業の重要人物ですからね。その点も鑑みてのインタビューではないでしょうか」
「他にも代表候補生がいるのに、何で俺なんだよ……」
自分の立場を考えれば、そう言った話があっても仕方ないと言う事は理解した。だが納得は出来ていない様子だった。
「一夏さん、決まってしまった事をいつまでもぐちぐち言っている余裕はないと思いますよ。インタビューを出来るだけ早く切り上げ、急ぎ専用機の製造に取り組むと前向きになった方が懸命だと思いますが」
「……そうだな。万が一くだらなかったら、会社ごと潰せばいいだけか」
「それはやり過ぎだと思いますが……精々、黛先輩の秘密を全て、虚さんに教える程度にしておいた方が」
どっちも恐ろしい事を平然と言ってのけるので、闇鴉がやれやれと肩を竦め時計を指差す。
「愚痴ったり恐ろしい事を計画するのは良いですが、そろそろ教室に向かわないと織斑姉妹に怒られますよ? 一夏さんは兎も角、美紀さんは普通に授業に出なければいけないんですから」
「そうですね。では闇鴉、一夏さんの護衛をお願いしますね」
「承知しました」
闇鴉に護衛を任せ、美紀は急いで教室へと向かう。部屋に残された一夏は、やれやれと呟いてから立ち上がり、昨日出来なかったコア製造を済ませてしまおうと整備室へと足を進めた。
「それにしても、一夏さんがIS雑誌のインタビューを受けるとは、私も思ってなかったです」
「俺だって受けるつもりは無いさ。だが、刀奈さんが勝手に話を進めてしまった以上、受けるしかないだろ? 後で刀奈さんにはしっかりと罰を与えるつもりだがな」
「相変わらず黒い事を平然と言ってのけますね。そこが一夏さんの良いところだと私は思いますが」
「これが良いところだと受け取るお前も、大概だと思うがな」
「何せ、私は更識製の専用機であり、一夏さんの専用機ですから。使用者に感化されるのは仕方ないと思いませんか? ましてや設計者も……なんですから」
周りに人の気配は無いが、念には念を入れて闇鴉も機密情報は口に出す事はしなかった。
「間違っても、インタビュー中に人の姿にはなるなよ。そこに興味を持たれたら余計面倒な事になりかねないからな」
「分かってますって。私だって、一夏さん以外の人にこの姿を見せるのは御免ですからね。まぁ、IS学園所属の人には、私が不審者ではないって事を知ってもらう為に仕方なくこの姿も見せましたが、不特定多数の人間が目にする雑誌のインタビュー中にこの姿になるなんて、一夏さんに頼まれたって御免ですよ」
「……そんな考えを持っているなら、何故いきなり人の姿になる癖を直そうとしないんだ」
「これはだって、一夏さんの驚いた反応を見る為ですから」
堂々と言い放った闇鴉に、一夏は呆れた視線を向ける。だがそんな視線など気にした様子も無く、闇鴉は浮かれ気分で一夏の護衛をしていた。
「もう潜入者はいないだろうから、そこまで警戒する必要は無いぞ」
「そうでしょうけども、一夏さんは色々と危ない立場なんですから、もう少し緊張感を持った方が良いですよ。まだ知られていないとはいえ、一夏さんはIS界において篠ノ之博士の次に権威だと言われてるんですから」
「はいはい……あの人と同列に扱われるのはなんだか嫌だが、仕方ないと言えばそれまでだからな」
微妙に納得いかないような顔だが、一夏は闇鴉の言葉に頷き、整備室の中へと入っていったのだった。
実質束より上じゃないだろうか……