暗部の一夏君   作:猫林13世

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今更再会しても思う事は無いでしょうが……


姉弟の再会

 一夏を更識の養子にして、次期当主候補に祭り上げるという計画を聞いた織斑姉妹は、楯無につれられて更識家を訪れていた。理由はもちろん、一夏の意志を確認する為だ。

 

「「一夏ァ!!」」

 

「ッ!? ……何でしょうか、織斑千冬さん、千夏さん」

 

 

 突如研究所に入ってきた二人に驚きながらも、一夏はシッカリと二人に対応する姿勢を見せた。ちなみに、驚いたのは一夏の演技であり、二人がこの場所に向かっているという事はダダ漏れの気配で一夏には伝わっていたのだ。

 

「お前、私たちより更識を選ぶのか?」

 

「どういう事でしょう?」

 

「わたしたちの許には帰らず、更識の養子になるのか、と聞いているんだ」

 

「その話しですか。そうですね、自分は織斑の人間なのでしょうけども、記憶が始まったのは更識家で生活してからです。それ以前の記憶は自分にはありませんし、必要もないと思っています」

 

「「な、何故だ……」」

 

 

 必要無い、それは「記憶」に掛かっている言葉なのだが、千冬と千夏は、それが自分に掛かっているような錯覚に陥っていた。

 

「別に不便を感じませんし、更識にいる方が自分の身の安全と、趣味に集中出来るからですよ。織斑の家に戻ったら、それは叶いませんから」

 

「お、お姉ちゃんが全力でお前の事を護るぞ……」

 

「一夏の為なら、わたしたちは代表など辞めるぞ……」

 

「貴女たちは日本の期待を背負っている人たちなんですよ? 一個人の為にそれを捨てるのは少し無責任な気がします」

 

「だ、だが小鳥遊は辞めたじゃないか……」

 

「碧さんは元々あの大会のみという条件で代表選考に臨んだのです。それは日本政府も了承していた事ですので、碧さんが引退したのは当然の流れなんですよ。だが貴女たちはそのような取り決めはしていませんよね?」

 

 

 一夏に的確な事を言われ、千冬も千夏も言葉を失ってしまう。自分たちの記憶の中にある一夏と、今の一夏の喋り方は、あまりにも違い過ぎていた。

 

「それに、貴女たちには各国から指導してほしいという要求が来ているはずですし、その後には新設校となるIS学園の教師に就任してほしいという政府からの要求もありますよね? そうなった場合、どうやって自分の身の安全を護ってくれるというのですか? 仕事もせずに、自分だけに付きっきりになるのは不可能ですよね?」

 

「「………」」

 

 

 自分たちの情報をしっかりと集めていた一夏に、千冬も千夏も抵抗を諦めるほか無かった。

 

「分かった……非常に遺憾だが、一夏が更識の養子になる事を認めよう」

 

「ただし、定期的にわたしたちと会ってくれるのだがな」

 

「それくらいなら別に。半年に一回くらいでいいですよね?」

 

 

 一夏としては、別に会ってもなにも思わない相手なので、それくらのペースが一番なのだが、二人にはそれはあまりにも期間が長い提案だった。

 

「せめて一ヶ月に一回……」

 

「それは無理ですよ。貴女たちは代表合宿や強化遠征などで日本にいない事もあるんです。その場合はどうするおつもりなのですか?」

 

「一夏がわたしたちに会いに来てくれれば……」

 

「却下です。自分が動けば更識の人たちも動かなければいけないんですよ? その費用は貴女たちが出してくれるとでも言うのですか?」

 

「わ、分かった。半年に一回でいい」

 

 

 ただならぬプレッシャーを感じてか、千冬も千夏も大人しく一夏の提案を呑む事にした。

 

「では、そういう事で。ここから先は自分ではなく大人たちと話し合う内容ですので」

 

 

 つまりはこの場所から出ていけという事なのだと、二人の姉は弟の言葉に隠された指示に従うしかなかった。ここがISの研究所で、自分たちには理解が及ばない場所であるという事は、この自己中心的な二人にも理解できているからこそ、邪魔したら大変な事になると言葉の裏に隠された一夏の伝えたかった事に気付けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の意志を確認した二人は、楯無に一夏を養子にする事を認める旨を伝えて更識家を後にした。門を出たところで、懐かしい顔を見つけた。

 

「久しいな、小鳥遊……大会以来か」

 

「そうですね。私は現在一夏さんの護衛を主な仕事にしていますからね。貴女たちと会う機会は確かに無くなってました」

 

「わたしたちが自由に会えないのに、お前は一夏に毎日会えていたのか……羨ましい限りだな」

 

「IS学園の教師の打診は私にも来ています。ですが、今のところはそれを受ける義理はありません。私は専用機も政府から受け取った訳では無いんですし、後輩を育てるのも私の仕事ではありませんので」

 

「だが、一夏がISの研究をしているのなら、遠からず一夏にISが反応するかもしれないぞ?」

 

 

 そんな事はあり得ない、その事は千冬も千夏も分かっていた。ISは男には反応しない、それが世間の常識であり、女尊男卑の風潮が広まっている原因でもあるのだから。

 

「万が一、そんな事があったら、私はIS学園の教師になりますよ。一夏さんにISが反応したとなれば、政府は一夏さんを無理矢理にでもIS学園に入学させるでしょうからね」

 

 

 まだ出来てもいない学園の事で話を進める側らで、碧は二人が一夏の研究内容を知っている事に驚きを覚えたのだった。

 

「(何でこの二人が一夏さんの研究内容を……)」

 

『さっき研究所に入ったからでしょうが。何を考えているんですか、碧は』

 

「(あっ……そうだったわね)」

 

 

 木霊にツッコミを入れられて、碧は二人が何故一夏の研究内容を知っているのか、という疑問を捨てた。何故その事を忘れていたのかと、自分を恥じて屋敷内に戻って行ったのだった。




撃沈する最強コンビ……

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