暗部の一夏君   作:猫林13世

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やっぱりこのメンバーが良い


きっかけは

 更識家の一室で、一人の少年が小さくなりながら身体を震わせている。自分の名前以外は何も覚えてなく、気がついたら知らない大人たちに色々と訊かれ「知らない」と答えると何かで叩かれる。暫くそんな事が続き、漸く助けてもらったと思ったらまた知らない場所につれて来られたのだ。震えるなという方が無理である。

 広い部屋の中の隅っこにいた一夏は、ノックされた扉に驚き、更に身体を小さくして震えていた。

 

「一夏さん、入りますね」

 

 

 外から聞こえてきた声に、聞き覚えはあった。ここに自分を連れてきた大人の中の一人の声だ。一夏は震えながらも扉を凝視し、返事をしなければ入って来ないのではないかと淡い期待を抱いていた。

 だがその期待は裏切られ、扉はゆっくりと開かれた。

 

「一夏さん……いましたね」

 

 

 一夏から見たら大人の女性である小鳥遊碧が部屋に入って来たので、一夏は扉から視線を下に移し眼を合わせないようにする。だが部屋に入って来た足音が彼女一人だけでは無かったのが気になり、恐る恐るながらも視線を彼女達の方に向けた。

 

「この子が、織斑一夏君?」

 

「このような子供に……」

 

「だ、だれ?」

 

 

 大人では無い。だが子供だからと言って無条件で信じられる程、一夏は楽観主義者では無かった。元々しっかりとしていた性格だったのだが、誘拐を経験して更に慎重――悪くいえば人間不信に陥っているのだ。

 

「私、更識刀奈! 一夏君の一つ年上よ。よろしくね」

 

「布仏虚と申します。一夏さんの二つ年上ですが、あまり気にせず接してくれると嬉しいです」

 

 

 まず年長の二人が一夏に声を掛ける。驚かせないように、なるべく警戒されないように距離を保ちながらの自己紹介。

 だがこの二人の気配りは、一人の少女によってぶち壊された。

 

「やっほー! 私は布仏本音って言うんだ! おりむ~とは同い年だし、仲良くしようね!」

 

「ッ!?」

 

 

 初対面でいきなりのダイブ、それからの頬ずりという最悪の行動を取った本音に、出来る事なら関わりたくないと言っていた簪と美紀が本音を一夏から引き離し説教を始める。

 

「何も聞いて無かったの!? 彼は酷い目に遭ったばかりなんだよ!」

 

「本音ちゃんの明るいところは羨ましいけど、時と場合を選んでよ!」

 

「ほえ? 何でかんちゃんと美紀ちゃんはそんなに怒ってるの?」

 

 

 自分が何をしたのか理解していない本音は、いきなり怒りだした二人の幼馴染を不思議そうに眺めた。一方で抱きつかれた一夏は、何とかして逃げ出そうと四つ角の別の位置に移動して震えだす。

 

「ごめんね、一夏君。本音はこういった子なの。でも、悪い子じゃないのよ?」

 

「妹が失礼を……ごめんなさい、一夏さん」

 

 

 物凄い勢いで逃げ出した一夏に、刀奈と虚が謝罪をする。自分たちの気配りを台無しにした本音に呆れながらも、一夏のフォローを忘れなかったのは、やはり年長者だからだろう。

 

「ごめんね、一夏。私は更識簪。さっきのお姉ちゃんと姉妹なんだよ」

 

「私は四月一日美紀です。よろしくお願いしますね、一夏さん」

 

「ついでに私も自己紹介しておかなきゃね。久しぶりね、一夏さん。まぁ一夏さんは覚えてないんだけど……貴方のお姉さんのクラスメイトの小鳥遊碧です。貴方の護衛役として選出されたので、これからもよろしくね」

 

 

 次々と自己紹介を済ます更識サイド。だが一夏はただただ膝を抱えて震えている。自己紹介をちゃんと聞いていたのかも定かでは無かった。

 

「碧さん……元々の一夏君ってどんな子だったんですか?」

 

 

 あまりにも反応が見られなかったので、刀奈が碧に問いかける。元々引っ込み思案だったのか、それとも誘拐され記憶を失ったからなのか、刀奈たちにはその事が分からなかったのだ。

 

「元々警戒心は強かったですが、これほど人間不信では無かったと思います。二人の姉との関係も良好だったようですし、前に見た時は笑顔が可愛らしい感じでした」

 

「そっか……じゃあやっぱり誘拐の所為で」

 

「おそらくは。それにやはり見ず知らずの人間に囲まれて、本音ちゃんにあんなことをされたら普通の男の子でも警戒心を強めても仕方ないかと……」

 

「本音が申し訳ない事を……」

 

 

 姉である虚が反省している横で、本音は首を傾げながら一夏に話しかけ続ける。

 

「ねーねー、何で震えてるの? そんな事してないで一緒に遊ぼうよー!」

 

「……苛める?」

 

「苛めないよ~。だって私はおりむ~と仲良くしたいんだもん!」

 

 

 誰にも反応しなかった一夏が、本音の問い掛けに答える。一夏としてはかなり勇気を振り絞ったのだが、本音にはそんな事は関係なかった。

 

「それに、かんちゃんや美紀ちゃん、おね~ちゃんや刀奈様だって、おりむ~と仲良くしたいんだよ~? もちろん、碧さんも」

 

「……本当?」

 

「そうだよね?」

 

 

 本音に視線で問われて、即座に頷く五人。普段頼りなさげな本音が、今だけは頼もしく見えた瞬間だった。

 

「おりむ~は私たちと仲良くしたくないの?」

 

 

 本音の問い掛けに小さく首を振る一夏。大人は怖いと思っているが、年の近い彼女たちなら大丈夫だと思ったのかもしれない。

 

「それじゃあ、何時までも部屋に篭って無いで外に出よう! 碧さんが鬼でみんなで鬼ごっこだ~!」

 

 

 本音に手を引っ張られて無理矢理連れ出されそうになった一夏だったが、彼はそれなりに鍛えていたので、本音の力では引っ張る事が出来なかった。

 

「ほえ!? おりむ~って力強いんだね~! 何かやってたの?」

 

「分からない……」

 

 

 やっぱり本音は本音だった、と五人は苦笑いを浮かべたが、とりあえず一夏が反応を示してくれたので一安心をしていた。

 その後一夏は本音以外にも返事をしてくれたので、その報告を受けた更識楯無は満足そうに頷いたのだった。




本音の明るさが役に立った……

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