暗部の一夏君   作:猫林13世

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信頼も信用も無いな……


姉の信頼

 一夏の迅速な働きによって、翌日にはサラ・ウェルキンの国籍はイギリスからギリシャへ変更された。それに伴い、サラ・ウェルキンの肩書は「イギリス代表候補生」から「ギリシャ代表」に変更された。

 

「まさか半日も経たずに国籍が変更されるとは思ってなかったわよ」

 

「一夏君の仕事は早いからね。これでサラちゃんも完全に私の敵になったわね」

 

「敵? どういう意味よ」

 

 

 同級生の刀奈からの発言に、サラは首を傾げた。別にサラは亡国機業に身を落としたわけではないので、敵と称されるのは心外だったのだ。

 

「だって、サラちゃんはギリシャ代表になったわけでしょ? 私は日本の代表なのよ? 国際大会では敵同士でしょう」

 

「あっ、そっちね……自分が代表って実感がまだないから、敵って言われると亡国機業の事かと思っちゃったわ」

 

「しっかりしなさいよね。多分今日中に一夏君が専用機の希望を聞きに来るだろうから、そっちの覚悟もしておいた方が良いわよ」

 

「更識製の専用機を持てるって言うだけで夢見心地なのに、希望まで聞かれたらさすがに実感が持てるかもね」

 

 

 ギリシャ政府と更識からの説得を受けて、日本政府もサラの専用機を更識企業が造ることを認めたのだった。

 

「いったいどんな交渉をしたのかしらね」

 

「一夏君の交渉は、一度見たら忘れられないから……見ない方が良いわよ」

 

 

 何故か視線を逸らした刀奈を見て、サラは首を傾げる。義弟の交渉術を知らないわけはないだろうと思っているので、サラは何とか聞き出そうと思ったが、刀奈からにじみ出る「これ以上踏み込まない方が身のためだ」という空気を受け、結局何も聞き出せなかった。

 

「サラちゃんは遠距離主体でしょ? きっと厄介なんだろうなーって思っただけだから、普段から敵対する意思は無いから安心して」

 

「そもそも更識さんと敵対関係になったとしても、私が勝てるとは思ってないから大丈夫よ」

 

「最初っから負けるって思ってたらもったいないわよ。私も負けるつもりなんてないけど、絶対に勝てるなんて思ってないんだから」

 

 

 慢心していると隙が生まれると言う事を、虚や一夏から散々言われてるので、刀奈は常に相手の事を見下さないように心がけている。だからではないが、セシリアやラウラ、鈴といった候補生たちのデータも常に頭に入れているのだ。

 

「もちろん、訓練相手が欲しいなら私たちも手伝うから、その辺りは気にしなくていいわよ」

 

「確かに更識所属には、日本の代表や候補生以外にもいるからね。その辺りはありがたいわよ」

 

 

 イタリア代表候補生からフランス代表候補生に変更したエイミィもいるので、サラもその点は安心している。でも訓練相手の質が高すぎるので、そこで自信喪失しないかと心配しているのだった。

 

「さて、これで更識所属の層がまた厚くなるから、引退したとしても更識の力は安泰ね」

 

「女子高生がそんなこと考えてるの?」

 

「一応暗部所属だからね。一夏君なんて、その次期当主なんだから、私以上にこんなことを考えてるんだからね」

 

 

 更識が暗部組織だと思いだしたサラは、自分はとんでもないところに足を踏み込んだのではないかと後悔し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 専用機製造に向けて、一夏は織斑姉妹に授業を休むかもしれないと言う事を報告しに職員室を訪れていた。

 

「やはりお前が最終調整などをするのか」

 

「更識の技術者を大量にIS学園に連れて来るわけにはいきませんし、こういった細々した作業は俺が一番得意ですからね。もしかしたら簪にも手伝ってもらうかもしれませんが」

 

「そう言う事なら仕方ないだろう。一応公欠と言うことにするが、終わり次第補習を行うからな」

 

「それで構いません。それと同時に、生徒会に仕事を回しても俺は処理出来ないので、ご自分たちで処理してくださいね」

 

「お前はわたしたちをバカにし過ぎだ。最悪真耶にやらせるから問題ない!」

 

「その発想が既に問題ですけどね……」

 

 

 初めから真耶に投げること前提で話す千夏に、一夏は盛大にため息を吐いた。

 

「大丈夫よ、一夏さん。ちゃんと私が見張ってるから」

 

「碧さんが見張ってくれてるなら安心ですけど、碧さんも訓練の相手やご自分の仕事があるでしょうし、織斑姉妹の監視だけをするわけにはいかないですよね?」

 

「私はそこまで仕事を溜め込んでないし、虚ちゃんに相談しながら訓練の相手をしてるから問題ないわよ」

 

「一夏……実姉より小鳥遊の方を信用するのか?」

 

「当然ですよね? むしろ何故貴女たちの方が信用されていると思ってるんですか」

 

 

 どれだけ自分たちが信用されていないかを思い知らされた千冬と千夏は、ガックリと膝から崩れ落ちた。だが一夏は二人に目もくれずに、一礼して職員室から出て行った。恐らく二年の教室に向かったのだろうと理解し、碧は崩れ落ちた二人に声を掛けた。

 

「少しくらい一夏さんに信用されるように動いたらどうですか?」

 

「私たちだって頑張ってるんだが、それ以上にダメな部分が目立つらしいんだよな……」

 

「お姉ちゃんらしく振る舞ってるつもりだったのだが、それが逆効果だったんだよな……」

 

 

 口から煙が出てる幻覚が見えるくらい、織斑姉妹の周りの空気が淀んでいた。碧は苦笑いを浮かべながら、この二人が信頼を勝ち取る日は来るのだろうかと、別の事を心配していたのだった。




優秀なんですが、どうにも信頼出来ない人……

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