暗部の一夏君   作:猫林13世

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IS学園にも監視カメラはありますから


決定的証拠

 死屍累々となりながらも、誰一人脱落することなく拠点に戻ってこれたことに、スコールは安堵した。そしてダリル・ケイシーことレイン・ミューゼルが合流した事も喜ばしい事だった。

 

「本当なら修学旅行襲撃の際に合流する予定だったのにね」

 

「まさか誰一人殺ることなく撤退するとは思ってなかったわよ。まぁ、あの鉄壁の三人がそっち二人についたら無理よね」

 

「ああ。織斑姉妹に小鳥遊碧がオレたちを見張ってたとは」

 

 

 レイン・ミューゼルが普通にスコールとオータムと会話している横で、フォルテ・サファイアは居心地の悪さを感じていた。

 

「フォルテ、どうかした?」

 

「ううん……本当にダリルは亡国機業の人間だったんだなって思って……」

 

「ところで、こいつ誰だ?」

 

 

 今更ながらフォルテに気付いたオータムがレインに尋ねる。

 

「誰って、私の恋人よ。私がこっちに戻る際、学園に残るか一緒に来るかで悩んで、結局は私と一緒に来てくれたギリシャの代表候補生よ」

 

「フォルテ・サファイアです、よろしくお願いします」

 

「代表候補生って事は、それなりに戦力として期待できるな。SHは最初は本当に使えなかったからな」

 

「何を! 私だって頑張って戦力になるようにしただろ!」

 

「今回だって、お前がもう少し引き付けてくれれば余裕で逃げれたのに、あっさりとやられやがって」

 

「いくら私でも、数の暴力には勝てないからな。一対一なら負けなかっただろう」

 

 

 根拠のない自信に、オータムは呆れたように箒を見つめ、軽く首を振って視線をフォルテへ移した。

 

「こちら側へ来たって事は、もう表の世界に戻ることは出来ねぇぜ? 覚悟は出来てるんだろうな」

 

「分かってます。それでも私は、ダリルと一緒にいたかったのです」

 

「随分と愛されてるな、レイン。お前ってレズだったんだな」

 

「あら、貴女に言われたくはないわよ、オータム。貴女だってレズなんでしょ?」

 

「オレはレズじゃねぇ! ただ好きになったのがスコールだったってだけだ」

 

 

 お決まりの返しに、レインは呆れたように笑みを浮かべた。

 

「この五人の中で、唯一異性が恋愛対象になってるのが篠ノ之箒だっていうのが可笑しいわね」

 

「何がだ? 私はごく普通の恋愛感情で一夏の事を想ってるだけだ」

 

「普通の恋愛感情ねぇ……ストーカーが普通だと思ってる時点で異常だと思うわよ」

 

 

 レインの言葉に、箒はいつも通り癇癪を起し、殴り掛かりそうになったところでスコールが軽く手を打った。

 

「次の襲撃まで、私たちはまず怪我を癒し、回復した人から更なる高みを目指して特訓するということで。IS学園との繋がりが無くなっちゃったから、VTSのバージョンアップは見込めないけどね」

 

 

 スコールの言葉に四人は頷き、それぞれの部屋へ向かったのだが、特に部屋が決められていないフォルテは、レインの後ろに続いて一緒の部屋で休むことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃を退けた後、千冬は束に電話を掛けていた。

 

「お前の読み通り、やはり箒は特攻を仕掛けてきたな」

 

『単細胞で猪武者の箒ちゃんだからね。圧倒的に自分が優位だと思ってる隙に攻めれば勝てるって』

 

「一夏もそう考えてたから、私たちを箒に当てずに向こうの主力に当てたんだろうな」

 

『ちーちゃんたちがそっちを相手すれば、間違っても来客に被害が及ぶことも無いからね』

 

 

 束の考えを一夏に伝えたから、自分たちが敵戦力に当てられたと千冬は思っていた。だが束は、自分が何も言わなくても一夏ならその考えに至っただろうと思っている。

 

「それよりも、お前の妹の所為で、また面倒ごとが増えたぞ」

 

『箒ちゃんの所為だっていっても、私が関係してるわけじゃないよ? 箒ちゃんがあんな性格なのは、箒ちゃんが元々残念な頭だってだけだよ』

 

「お前を反面教師にした結果だと思うが?」

 

 

 束は昔から頭が良く、周りとの違いを自覚し、出来る限り他人と関わろうとはしなかった。箒はそれを見て育ったはずなのに、束の経験を何一つ生かす事は出来ずに成長し、頭脳だけは束と真逆で、それ以外は束と大差なく育ってしまったのだった。

 

『人間関係においても、束さんを反面教師にすればよかったのにね~』

 

「自覚してるのなら、お前も少しくらい改善したらどうだ?」

 

『無理だね~。もう束さんは他人を認識出来ないくらいまで他人と違っちゃったから』

 

「はぁ……とにかく、カメラに映ったからこれで全世界に箒が亡国機業に加入したと納得させられるだろう。お前の妹ってだけで、国際指名手配を拒否られたんだからな」

 

『束さんがそうしろって言ったわけじゃないし、おバカな奴らが箒ちゃんをどうにかしたいって考えただけだもんね~』

 

 

 既に箒に対する興味を失いつつある束は、箒が国際指名手配されようがどうでも良いのだ。

 

『束さんはちーちゃんとなっちゃん、いっくんとまーちゃん、後はクーちゃんがいてくれればそれで満足なので、箒ちゃんがどうなろうが報告してくれなくていいよ』

 

「それはつまり、こちらで殺そうが気にしないと言う事だな?」

 

『自分の意思でちーちゃんたちの敵になったんだから、ちーちゃんたちに殺されようが自己責任だよ』

 

 

 冷たいように感じられる束の言葉だが、千冬たちを敵に回すと言う事はそう言う事なのだと箒も理解しているだろうと束は思っていた。

 実はそんなことを箒が考えてもいないなど、束には思いもよらなかったのだった。




これで箒を国際指名手配する証拠はそろった。後は一夏の判断次第……

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