暗部の一夏君   作:猫林13世

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人生を変える決断ですからね……


サラの悩み

 一夏との話し合いを終えたサラは、とりあえずアリーナへと向かっていた。自分が敵になるかもしれないとセシリアに告げ、相談する為だ。

 

「あら、ウェルキンさん。一夏さんとのお話は終わったのですか?」

 

「ええ、一応は……布仏先輩、ちょっとオルコットと二人にしてもらいたいのですが……」

 

「構いませんよ。一夏さんからそう言ってくるだろうと聞いてますから」

 

 

 サラは、そこまで一夏が読んでいた事に驚いたが、虚としては、これくらい一夏が読んでいると思ってなかったサラに驚いた。

 

「どうかしたのですの? 一夏さんのお話ですから、それほど悪い事ではないと思っていたのですが……随分と深刻そうな顔をしていますわね」

 

「もしかしたら、オルコットの特訓に付き合えなくなるかもしれない話だったからね」

 

「そうなのですの? ですが、私の事よりも自分の事を優先にしてくださった方が、私も嬉しいですわ」

 

 

 セシリアの申し出に、サラは驚きを隠せずにいた。あの自己中心的な考えしか出来なかったセシリアが、まさか自分の事を考えてくれていたなどとは思っていなかったのだ。

 

「それだったらちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど、私が他国の代表になるとしたら、貴女はどう思う?」

 

「それは、例の亡国機業とやらが関係しての事ですの?」

 

「ええ。フォルテ・サファイアがいなくなったことで、ギリシャの代表が引退を表明したらしいのよ。その人に次ぐ実力者だったフォルテはいなくなって、国にも目ぼしい候補者がいないらしくて、更識企業に人材の斡旋を頼んだらしく、それで私に白羽の矢が立ったのよ」

 

「では栄転ではないですの! 何を悩む必要があるのですか」

 

「栄転って言われても……私に務まるのかどうか心配で……何せ専用機も持たない身としては、専用機持ちの代わりなんてとてもじゃないけど……」

 

 

 そう、サラが気にしているのはその点であった。代表を退くと言っても、国の防衛などでISは必要になるだろう。だからギリシャからコアの提供を受けられる可能性は極めて低い。加えてフォルテ・サファイアもコアを持って行ったままなので、ギリシャにコアが余っているかどうかも疑わしい。

 そんな状況で専用機を持たない自分が代表になったとして、国の威信をかけた戦いで勝てるとも思えないのだ。

 

「でしたら、その辺りも一夏さんに相談してみてはいかがでしょう。一夏さんでしたら、コアを造れる更識の人間ですし、篠ノ之博士とも連絡が取れるでしょうし」

 

「でも、どちらにしても他の国からは文句が出そうなんだけど……」

 

「それくらいでしたら、一夏さんの話術でどうとでもなりますわ! さっそく一夏さんに相談してみましょう」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 

 セシリアに引っ張らながらも、サラは自分が専用機を持つことが出来たらと考えてしまい、抵抗する事を忘れてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室で書類整理をしていた一夏の許に、セシリアとサラがやって来たせいで――おかげで?――刀奈は生徒会室から追い出されてしまった。

 

「まぁ、イギリスに関する話だし、日本代表の私がいたら出来ない話もあるんだろうな」

 

 

 おおっぴらに仕事をサボる口実が出来た事に浮かれながら、刀奈は妹の部屋を訪ねることにした。

 

「ヤッホー! 遊びに来たよ、簪ちゃん」

 

「お姉ちゃん? 今日は生徒会の仕事が沢山あるって言ってなかった?」

 

「そうなんだけど、生徒会室が使えなくなっちゃったから、急ぎの仕事は一夏君がやってくれるってさ。残りは明日やればいいって」

 

「生徒会室が使えなくなった? どういうこと?」

 

 

 刀奈は簪に事情をかいつまんで説明し、簪の隣に腰掛けた。

 

「そっか……一夏も大変だね。国同士の問題に介入しなければいけないなんて」

 

「更識の次期当主だもんね。仕方ないって……それに、今回は私たち更識の見立てが甘かったって事も関係してるんだと思うよ」

 

「まさか国を裏切るとは思わないって……ダリル先輩はまぁ、前からマークしてたから仕方ないけど、フォルテ先輩はね……一夏でも想像してなかったと思うよ」

 

 

 簪はそこで、姉が何かを探しているのに気づき、とりあえず肩を掴んで止めさせた。

 

「なに探してるのよ」

 

「いや~、簪ちゃんもお年頃だから、お宝本でもあるかな~って」

 

「お宝本ってなに?」

 

「男子高校生なら、女の人がいっぱい載ってる本とか」

 

「私女子高生なんだけど?」

 

「うん、だから簪ちゃんの趣味を知ろうと探ってたんだけど……」

 

 

 何もなかったわね、とつまらなそうに告げる刀奈を他所に、簪は見つからなかった事に安堵していた。別にイヤラシイものは持っていないのだが、年頃の女子として、特撮ヒーローの本を持っているというのは少し恥ずかしいと簪も思っているのだった。

 

「ところでお姉ちゃん。遊ぶって言っても何するの?」

 

「簪ちゃん、ゲーム持ってるでしょう? それで遊ばない?」

 

「二人で? しかもお姉ちゃんと?」

 

「何よぅ! 確かにお姉ちゃんじゃ、簪ちゃんの相手にならないかもしれないけどさー」

 

 

 刀奈が唯一素直に簪に負けていると公言するのが、ゲーム関連だ。刀奈も決して弱い訳ではないのだが、それ以上に簪が強いのだ。

 

「仕方ない、本音とか美紀とかにも電話してみるよ」

 

「今日は特訓もしてないし、来れると思うわよ」

 

 

 一夏の護衛には碧がついているし、アリーナは別グループが使用中なので、美紀も本音も暇を持て余しているはずだと決めつけ、刀奈は二人がくるのを楽しみに待つことにしたのだった。




セシリアも成長したなぁ……

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