暗部の一夏君   作:猫林13世

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ぶっちゃけると、この二人の口調知らない……


愛か平和か

 爆発物を仕掛けた事を知られていると知っていたダリルは、騒ぎが起きている内にIS学園から逃げ出すつもりだった。だが、彼女の前に二人の女性が立ちはだかったのだ。

 一人はナターシャ・ファイルス。この度無事に専用機である銀の福音を開放され、IS学園内で戦力として数えられるようになった元アメリカ軍所属のIS操縦者で、ダリルの先輩にあたる女性だ。そしてもう一人――

 

「何故ですか、ダリル。何故IS学園を裏切ったのです!」

 

 

――ダリルの恋人である、フォルテ・サファイアだった。

 

「何故って、私は元々IS学園側ではなく、亡国機業の人間だったというだけよ、フォルテ」

 

 

 恋人が前に立ちふさがっても、ダリルの表情は変わらない。むしろフォルテの方が動揺し、泣きそうな顔になってきている。

 

「それじゃあ、私はただ遊ばれていただけなの?」

 

「それは違うわよ。私は貴女の事を愛している、これだけは本当。だけど、貴女をこちら側に巻き込もうとかは考えていない。それだけよ」

 

「大人しく観念しなさい、ダリル・ケイシー。そうすれば訊問だけで済むかもしれないわよ?」

 

 

 ナターシャの言葉に、ダリルは狂気の笑みを浮かべる。その表情を見て、ナターシャではなくフォルテが怯んだ。

 

「尋問だけで済む? そんなこと、本気で思ってるのかしら?」

 

「当然、そんな訳ないでしょうね。貴女は色々と探り過ぎたもの。更識君が黙ってないわよ」

 

「あの少年、本当に邪魔だったわね。私が探ろうとするたびに布仏を私の監視につけたりして。お陰でフォルテと愛し合ってる時まで周りが気になって本気になれなかったのよ?」

 

「そんなこと、私に言われても仕方ないでしょ? むしろ、そうなったのは貴女が悪いんだから、自業自得と割り切りなさいよね」

 

 

 ナターシャは、二人がそう言った関係だと聞いても表情を歪めたりはしない。元々一夏から聞かされていたと言う事もあるが、IS操縦者の中には、そう言った性癖の人間が少なからず存在するので、ナターシャはこの二人もそう言う事なのだろうと割り切っているのだ。

 

「そもそも、貴女たち学生でしょ? 不純同性交友は認められないんじゃない?」

 

「同性なんだから、純潔を散らす事もないでしょ? だから不純ではないわよ。そもそも私たちは、純粋に愛し合ってるんだから」

 

 

 ダリルのセリフに、フォルテが頬を赤らめる。どうやら見た目通り、ダリルが攻めでフォルテが受けのようだとナターシャはそんなことを考えていた。

 

「ダリル、私はどうすればいいの?」

 

「本音を言えば、私と一緒に来てほしい。でも、貴女だってギリシャの代表候補生だものね。無理強いはしないわよ。貴女の決断に、私は従うわ。例え敵になろうと、私は貴女だけを愛すと誓うわ」

 

 

 ダリルの言葉で、揺れていたフォルテの心は決まった。一歩下がりがら空きのナターシャの背中に一撃をくらわす。

 

「なっ……」

 

「ごめんなさい、ナターシャさん。私はダリルと生きていきます。だから、貴女の味方にはなれない」

 

「ありがとう、フォルテ。それじゃあ、今のうちにこの学園から逃げ出しましょう。最低限のものはすぐに手に入れられるから、気にする必要は無いわ」

 

 

 倒れたナターシャにダリルがもう一撃喰らわせ、完全に意識を刈り取ってこの場から離れていく。余裕があればナターシャを攫い、亡国機業の戦力に、と思ったかもしれないが、入ってくる情報は悉く亡国機業が不利であると言う事だったので、ダリルはこの場からの脱出を最優先として行動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナターシャが目を覚ますと、そこは見慣れぬ天井だった。何が起きたのか思い出そうとして辺りを見渡し、ここが保健室であると理解し、自分が負けたことを思いだしたのだった。

 

「情けないわ……一夏君に任されたのに、あっさりとダリルに逃げられるなんて……しかも、フォルテさんまで敵に奪われるなんて」

 

「自分の意思で敵に下ったんです、ナターシャさんの所為じゃありませんよ」

 

 

 まさか独り言に返事があるとは思っていなかったので、ナターシャは慌てて飛び起きた。

 

「痛っ!?」

 

「まだ無理はしない方が良いですよ。急所ではないとはいえ、かなりの威力で攻撃を叩き込まれたようですから」

 

「……情けないわね」

 

 

 歪む視界で、看病してくれているのが一夏だと確認したナターシャは、二重の意味で情けなさを感じていたのだった。

 一つは、任された事を全う出来ず、逆にやられてしまったと言う事を実感して。もう一つは、戦闘において下に見ていた男子に看病されている事についてだった。無論、ナターシャは全てにおいて男子を下に見ているわけではないので、そこまで派手に落ち込むことはしなかった。

 

「全治三日というところですね。一撃目は加減されてますが、二撃目は完全に本気ですね、これは。フォルテ先輩はダリル・ケイシーを選んだんですか」

 

「揺れ動いてる感じだったけどね……愛の前に策は無意味だったみたい」

 

「随分とロマンチックな表現ですが、敵となった以上容赦はしません。ナターシャさんに対するお礼参りもしなければいけませんしね」

 

 

 ダリルとフォルテの専用機のデータはしっかり採ってあるので、一夏としてはさほど脅威には感じていない。だがそれでも、敵に戦力が増えてしまったことは嘆かわしい事だった。

 一夏はすぐにギリシャ政府へ連絡し、フォルテ・サファイアが亡国機業へと身を落とした可能性があることを報せ、捜索に協力するよう要請したのだった。




ダリルもですが、フォルテも記憶にないんですよね……原作読んだはずなのに……

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