暗部の一夏君   作:猫林13世

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正反対の性格ですからね……


ダリルVS虚

 スコールからの暗号メールを読み直し、ダリルはそのメールを削除した。誰かに携帯を見られるなんて事は無いが、念には念を入れての事だ。

 

「漸く動き出すのね……」

 

 

 IS学園に入学というなの潜入をして二年半、漸くスコールが目的の為に動き出すと知り、思わず声に出してしまった。

 

「何が動き出すのですか?」

 

「布仏……別に貴女には関係ないことよ」

 

「まぁ、そうでしょうね。貴女と私では住む世界が違いますから」

 

「そうそう、アンタみたいに私は光り輝く世界にいないもの」

 

「私だって、輝いている世界にいる訳ではないのですが」

 

「何よそれ、嫌味なの?」

 

 

 虚は表向きは大企業である更識の企業代表として、忙しなく世界中を飛び回っているので、一般生徒からしてみれば、それは輝かしい世界に見えるだろう。

 

「アメリカの代表候補生の貴女が、私がいる世界を羨ましいと思うとは……アメリカの今の現状は、アメリカの自業自得ですよ」

 

 

 一方でダリルは、アメリカの代表候補生として、世界中から注目される立場にある。虚からしてみれば、自分よりもダリルの方が光り輝く世界にいると思っても仕方ないだろう。

 

「別に国の事じゃないわよ。アンタは更識企業の企業代表として、既に脚光を浴びる立場にあるの。私はまだあくまで候補でしかないのだし、どっちが羨ましいかと聞かれれば、絶対にアンタだって答える方が多いわよ。なにせ、更識製の専用機がもらえるんだから」

 

「更識所属になるということは、それだけ背負わなければいけないものが多いと言う事です。そんな生半可な気持ちでなれるものではありません」

 

「でも、一年で何人かは更識所属になっただろ? あいつらでもなれるなら自分も、って思うヤツがいてもおかしくないと思うんだけどね」

 

「彼女たちも、ある程度の事は知らされていますが、私やお嬢様のようにすべてを知らされているわけではありません。それは本音や簪お嬢様も同様にです。同じ更識所属でも、私の立場はかなり大変なものなのです。それでも私の立場になりたいと思うのでしたら、その人は相当なマゾヒストだと思いますよ」

 

 

 更識には秘密がある。これは世界共通の認識であり、更識所属の人間がそのすべてを知っているなどと、世間もさすがに思っていない。IS学園にいる更識所属の面々の中で、全ての事情を知っているだろうと思われている人間は四人。前当主の娘であり、元当主候補であった刀奈、現当主の娘である美紀、次期当主候補である一夏、そしてその三人に最も近く、信頼の厚い虚だ。

 

「そんな事を差し引いても、更識製の専用機ってのはほしいんだと思うわよ。実際、私だってほしいもの」

 

「それが狙いで一夏さんに近づいたりしてるのですか?」

 

「あれは純粋に、更識君に興味があるだけよ。あれだけの女を侍らせておいて、一切手を出さないなんて『特殊な趣味』でもあるんじゃないかって」

 

「それは貴女でしょうが。二年のフォルテ・サファイアと『そういう関係』にあるのは」

 

「私は別にレズじゃないわよ。バイではあると思うけど」

 

 

 虚は、レズよりたちが悪いではないですか、というツッコミを飲み込み、ため息を吐いてダリルから離れる事にした。亡国機業の人間ではないかという疑いがある為、なるべく監視しているのだが、どうしてもダリルとは喧嘩腰になってしまうのだ。

 

「何を言っても平行線のようですし、私はこれで」

 

「だから言ってるでしょ。私とアンタじゃ、住む世界も考え方も違うんだからって」

 

「……貴女のいる世界など、見たいとも思いませんがね」

 

「同性愛者を差別するなんて酷いわね」

 

「別に同性愛者を否定するつもりはありません。私が否定したいのは、貴女なのですから」

 

 

 同じことじゃない、とダリルは思ったが、虚が教室から出て行ってしまったので、そのツッコミは飲み込むことにした。

 

「やれやれ……布仏の相手をすると疲れるわね……あんなお堅い女、絶対に彼氏なんて出来ないわよ」

 

 

 一夏と虚がそういう関係ではないと言う事は、ダリルも知っている。だからあえてそう言ったのだが、その本人にその声が聞こえる訳も無く、また聞かせるつもりもなかったので、ダリルは一気に虚しさに押しつぶされそうになった。

 

「さっきまで白熱してたからかしら。急に無気力感に襲われてるわね……こんな時は、更識君でもからかって遊ぼうかしらね」

 

 

 一夏に近づくだけで、その周りがピリピリするのだ。その反応を見て楽しんで、更に一夏を動揺させることで二度楽しむことが出来るので、ダリルは一夏にちょっかいを出そうとしているのだ。

 もちろん、一夏と『そうった関係』になりたいわけではないが、先に彼女自身が言った通りレズではなくバイなので、そういう流れになればやぶさかではないと考えているのだ。

 

「そうと決まれば、さっそく更識君を探して……あら、あそこにいるのはまさに更識君……今日の護衛は布仏の妹か……あいつは何を言っても苛立たないから、面白くないのよね」

 

 

 碧や美紀なら、ある程度誘惑をすれば簡単に怒ったり、最初から警戒心剥き出しだったりと、ダリルが楽しむのにもってこいの反応を見せるのだが、本音は必要以上に一夏に近づかなければ何も反応を見せないのだ。

 本音が護衛だと分かった途端、ダリルは一夏に近づいて誘惑して遊ぼうとしたのを止め、恋人関係であるフォルテ・サファイアの許へ向かう事にしたのだった。




意外と本音が役に立っている……

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