暗部の一夏君   作:猫林13世

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ストレスマッハなオータムさん……


襲撃予定日

 謹慎期間が過ぎたとはいえ、箒に任務が下ることは無かった。それはつまり、ペアであるオータムにも任務が来ないと言う事なのだ。

 

「暇すぎる……お前の所為でオレまで評判がた落ちじゃねぇかよ」

 

「そんな事私は知らんぞ。そもそも一夏に現実を見せてやるのが私の使命なんだ。亡国機業の事は二の次に決まっているだろ」

 

「お前も組織の人間なんだから、少しは組織の事を考えて行動しろよな……」

 

 

 そもそもが思い込みなのだから、そんなことを最優先にされたらたまったものではない。オータムは一応ツッコミを入れるのだが、箒には響かなかった。

 

「いい加減VTSでお前をぼこぼこにするだけじゃ気がすまなくなってきたからな……どこか広いところに行って実戦と行きたいところだぜ……」

 

「外出すら禁止されている私と、何処に行くんだ?」

 

「自覚してるなら少しは反省しやがれ!」

 

 

 オータムの叫び声が部屋に反響したのと同時に、その部屋の扉が開かれた。ここは箒が使っている部屋なので、殆ど人が近づくことが無いので、扉が開く事自体、オータムが部屋にいる限りありえない事だったのだ。それが開かれたと言う事は、何かしらの進展があると言う事と同意であると、オータムは知っていた。

 

「あらあら、なかなか仲良しそうね。これなら安心かしら」

 

「何処をどう見たら仲良しに見えるんだよ! こいつの所為でストレスが溜まって溜まって……いい加減部屋を破壊しそうなくらいだぜ」

 

「それは困ったわね……」

 

 

 あまり困って無さそうな感じでスコールが嘆いてみせると、オータムもその芝居に付き合うように声を荒げてみせた。

 

「それでいったい何の用だっていうんだよ。まさか様子を見に来たなんて言わねぇだろうな?」

 

「そうね。お芝居はこれくらいにして本題に行きましょうか。襲撃に日程が決まったから、その報告に」

 

「いいのか? オレは兎も角、こいつも出撃させるんだろ?」

 

「今回は少数の方が都合がいいし、SHには暴れてもらって敵の目を引き付けてもらうから」

 

「つまり、あいつは囮だと?」

 

 

 箒に聞こえないように声を潜め、オータムはスコールに真意を問うた。

 

「あれほど目立つ子はいないもの。IS学園に忍び込む為に役立ってもらいましょう」

 

「忍び込むって、何でそんな面倒な事を……」

 

「今度行われるキャノンボールって行事に、各国のお偉方も呼ばれてるそうなの。そこで数人殺めることが出来れば、よりいっそう目的に近づけるわけ」

 

「過激派が狙ってる連中を先に殺る事で、あいつらの面子を潰すって事か?」

 

「それもあるけど、標的は亡国機業過激派のパトロンとなってる人物数名。裏では極悪非道な事をしておきながら、表の顔は慈善家という最低の男たちよ」

 

 

 スコールから標的を聞かされ、オータムは納得したように頷く。溜まった鬱憤を晴らすにはちょうどいいとでも思ったのだろう。

 

「今回は内部からも攻める為にレイン・ミューゼルにも動いてもらう事になってるわ。もちろん、ISを使って直接攻撃させるわけにはいかないのだけども」

 

「位置情報を割り出してもらう感じだろ? いつものことじゃねぇか」

 

「そうなんだけどね。そろそろダリル・ケイシーとしての表の顔を捨ててもらう時が来るかもしれないわね」

 

「あいつが戻ってくれば、SHなんかに頼る必要がなくなるからな」

 

「おい、何時までこそこそと話してるんだ! 私に用があるからこの部屋に来たんだろ?」

 

 

 いい加減イライラしてきた箒が、スコールとオータムの会話に割って入ろうとする。二人は同時に箒の事を思い出し、彼女に任務内容を話す事にした。

 

「今週末IS学園で行われるキャノンボール大会に、我々亡国機業の邪魔となる人物が来賓として訪れることが分かったの。そこれSHには、私たちがその邪魔者を始末する間、IS学園の人間の注意を引いてもらいたいのよ」

 

「私が注意を引くのか? 私が来賓すべてを吹き飛ばした方が早いと思うのだが」

 

「邪魔者といっても、こいつらは過激派のパトロンってだけで、表の顔は慈善家よ。他の来賓には私たちに有利な情報を流してくれる者もいるの。そいつらまで吹き飛ばすのは止めてもらいたいもの」

 

「なら、私が更識やIS学園の連中を吹き飛ばすのは良いんだな?」

 

「それが出来るのであれば、願っても無いわね」

 

 

 どうせ出来もしないのだから、期待もせず待っている事にするわ、と言いたげな目で箒を見たスコールだったが、箒はスコールの視線に込められた意味など理解もせず頷いた。

 

「これで一夏が私の手に……漸くあるべき姿に戻るのだな、一夏」

 

「……なぁ、こいつの妄想ってどうにかならないのか?」

 

 

 再び小声で話しかけてくるオータムに、スコールは肩を竦めて見せた。

 

「SHの中の一夏がいったいどうなっているのか、私にも分からないもの。妄言だって分かってないのは本人だけなんだし、放っておいても問題ないんじゃない?」

 

「その妄言を聞かされるオレの身にもなれってんだよ! いい加減ぶっ殺しそうになるぞ」

 

「それは困るわね……まだ使い道があるんだから」

 

 

 仲間だから、という理由ではなくまだ使えるからという理由で、スコールはオータムに箒は殺さないようにと念を押した。

 そんな会話がされているとは気づかずに、箒は一夏が自分の下に来る妄想をして、怪しい笑みをこぼし二人に引かれるのだった。




箒の取扱説明書が必要かもしれない……そんなのありませんが……

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