亡国機業対策も大事だが、生徒会役員としての仕事も大事だと考えている一夏たちは、恒例行事であるキャノンボール大会の準備に追われていた。
「お嬢様、この書類に認印をお願いします」
「はいはい。一夏君、来賓のリストってどこにあるっけ?」
「刀奈さんの机の上にまとめて置いてあるはずですが……その書類の山の中のどこかでしょうね」
「何でこんなに書類が溜まってるのよ! 毎日毎日、ちゃんと目を通してるはずなのに!」
「仕方ありませんよ。日本政府からは亡国機業に関する情報を寄越せとせっつかれ、他所の国からは我が国の代表候補生をしっかりと守るように圧力を掛けられ、職員室からは仕事を丸投げされて……溜まらない方がおかしいくらいですから」
ちなみに、職員室から丸投げされた仕事は、織斑姉妹が担当するはずだった仕事だ。だが彼女たちは今、日本政府にこれ以上介入しないよう説得――というなの脅し――しに行っているために不在、その分の仕事が生徒会回ってきたのだ。
「戦力アップに協力してくれない相手にどうこう言われる筋合いはないんですけどね」
「IS学園は日本の領土にある事は、変えられない事実ですからね。口出ししたくなるのも分からなくはないですが」
一夏が零した愚痴に、虚がフォローともとれる発言をする。そのセリフに一夏は苦笑いを浮かべながら、残りの書類の処理を始める。
「猫の手も借りたいって時に、本音は何処に行ったのよ?」
「本音なら、簪お嬢様と美紀さんに連れられて特訓の手伝いをしているはずですよ」
「本音が? 役に立つの?」
刀奈の酷い発言に、虚と一夏が揃って苦笑いを浮かべる。本音の実力は、IS学園の中でも上から数えた方が早いのだが、普段の生活態度や無気力な感じが相まって、それを忘れさせる。
「あれでも専用機持ちで並の候補生なら完封するだけの実力はあるんですけど」
「まぁ本音ですし、お嬢様が疑いたくなる気持ちも分かりますからね」
「簪ちゃんと美紀ちゃんが本音が必要だって思ったのなら仕方ないけど……こっちも本音でも欲しかったわ」
「愚痴を溢す暇があるのでしたら、こっちの書類にも認印をお願いします」
「これもあとは刀奈さんが処理すれば片付きますね」
「二人とも仕事早すぎ! 私が遅いみたいじゃないのよ!」
実際、刀奈のスピードも他の人と比べれば速い部類なのだが、それ以上に一夏と虚の書類を処理するスピードが速いので、刀奈が遅いと錯覚させるのだった。
「いっそのこと中止にしますか?」
「それはダメよ。実力を測るいい機会なのには変わりないんだし、既にやる気になってる子たちだって大勢いるんだから」
「そう思うのでしたら、お嬢様も限界を超えるつもりで頑張ってください」
「鬼だ……」
虚の発言に刀奈はガックリと肩を落とし、机に突っ伏した。現実逃避をしようとしても、正面からくるプレッシャーでそれも出来ず、更に自分を囲む書類の多さで、無理矢理現実に引き戻されてしまうのだった。
生徒会室に刀奈の悲鳴が木霊してる頃、アリーナでは更識所属の面々と代表候補生の面々がそれぞれ特訓をしていた。
「箒さんに出来て、私に出来ないはずがありませんわ!」
「気負うのも大事ですが、気負いすぎはよくないですよ」
アリーナの一角で、セシリアがマドカの指導を受け偏向射撃の練習をしたり、
「これでとどめた!」
「残念、ハズレだよ~」
「何っ!? ならこっちだ!」
ラウラが本音相手の、動きの素早い相手を想定した訓練をしたり、
「香澄、そっちに行った!」
「分かってますけど、更識さんに加えて四月一日さんもとなると、私では無理です」
エイミィと香澄が、簪と美紀のペアを相手にコンビでの動きを確認したりと、それぞれがそれぞれに頑張っている。
「さてと、もう一戦行きますか」
「別に良いけど、もう僕じゃ鈴の相手が務まらなくなってきてるね」
鈴とシャルも特訓に参加しているのだが、シャルは代表候補生の座を退き、社長職に力を入れているために本当に訓練程度しか出来なくなってきたいたのだった。実戦の緊張感を保つには、少し力不足感が否めないのが今の悩みだ。
「それでも、アンタのラピット・スイッチは脅威よ。あの箒にそれは出来ないでしょうけども、他の人間が出来るかもしれないものね」
「そんなに簡単に出来るものじゃないし、専用にカスタマイズしなきゃ難しいんだよ?」
「亡国機業に力を貸している企業がいるんだし、その中にそのカスタマイズが出来る人がいるかもしれない。こういう時の考えは、常に最悪を想定しておくべきだって一夏が言ってたわよ」
「最悪の事態の時に慌てなくて済むから、でしょ? 僕も前に言われたことがある」
「シャルさんが厳しいなら、そろそろ私と交代する?」
「あら静寐。用事は終わったの?」
図書室で調べものをしていた静寐が合流したため、鈴の相手はシャルから静寐へと変更になった。そのお陰でシャルは今の本業である社長の仕事に専念する事が出来たのだった。
「あの子も随分と社長が板についてきたわよね」
「あの一夏君がフォローしてるんだから当然といえば当然よね。あの年で世界中の企業のトップと対等に――いや、むしろ優位に話し合ってるんだから」
静寐の感想に、鈴が頷いて生徒会室の方に視線を向ける。そして少し考えてから頭を振って静寐へと視線を戻した。
「それじゃあ、その一夏の力に、少しでもなれるように頑張りましょうか」
「そうね。でも、私じゃ鈴さんの相手が務まるかどうか」
「謙遜しない。その機体はかなり厄介な部類よ!」
それを合図に、鈴と静寐は模擬戦を開始したのだった。
逆も何人かは凄いが……