暗部の一夏君   作:猫林13世

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謹慎中の二人に出来る事は限られている……


箒VSオータム

 一夏や束が自分の事を考えているなど露知らず、箒は謹慎の間ずっとVTSを使い碧や美紀を倒す為にはどうすればいいかを考えていた。彼女もそれなりに考える事はするのだが、いざ実戦となると気持ちが昂り、そして挑発に乗って冷静な判断が出来なくなるので、あまり意味はなさない。

 箒と行動を共にしなければならないオータムも、暇つぶし感覚でVTSでトレーニングを積んでいた。彼女は元倉持技研の技術者が調整できる最大レベルの相手でも完封する事が出来るので、本当に暇つぶしでしかないのだが……

 

「何故だ! 何故ここであんな動きをするんだ!」

 

「お前、VTSでも冷静さを失ってんだな……」

 

 

 戦闘ログを見て、オータムが呆れ声で箒の動きを分析する。相手が無名の操縦者なら、箒でも完封する事は可能なのだ。だがいざ碧や美紀、その他の更識所属が相手だと想定した場合、すぐさま冷静な判断が出来なくなり、動きがおかしくなるのだ。

 

「私は冷静だ! あいつらが私の想定外の動きをしてくるから――」

 

「なら、そこから何か学べよな。同じところでやられてるのを見ると、やっぱりお前が冷静じゃないって判断されても仕方ないと思うぜ」

 

「……始める前は分かってるつもりなんだ。だがいざ敵を目の前にするとどうしてもな……私から一夏を奪った相手を完膚なきまでに叩きのめしたいという気持ちが前に出過ぎてしまう……あぁ、愛しの一夏が側にいれば、私はこんなに悩むことはないというのに」

 

「(こいつは何を言ってるんだ……)」

 

 

 箒の思考が理解できないオータムは、心の中でそう呟いて暇つぶしに戻ることにした。彼女は更識所属の面々を想定したプログラムでも、この程度なら問題なく勝つことが出来る。もちろん、本物より遥かに弱く、また動きも単調なので、オータムはこれで勝っていても実戦では勝てるかどうか微妙だと考えている。

 実際対峙した相手である碧を想定した訓練でも、あの時感じた殺気や、あの時見た動きなどと比べると全く歯ごたえが無いので、オータムはスコールにもっとレベルの高い技術者を連れて来いと頼んでいるのだった。

 

「アンタは凄いな……更識相手だろうがアンタ一人で勝てるんじゃないのか?」

 

「バカ言うなよな。お前だってこの程度じゃねぇってことくらい分かってるんだろ? もしこの程度だったら、今頃オレたちが壊滅させてるってんだよ」

 

「しかし、これ以上のプログラミングは、今いる人間では出来ないんだろ? それこそ、一夏か姉さんを捕まえるしか技術力の向上は見込めないと聞いたが」

 

「……知り合いだけはスゲェよな、お前って」

 

「? それはどういう意味だ」

 

 

 箒は、オータムの皮肉を理解出来なかったようで、褒められたのかけなされたのか分からないままでこの話を流したのだった。

 実際彼女の知り合いには、天下の更識企業の企画・開発担当責任者である一夏と、世紀の大天災篠ノ之束という、IS業界において最も高い技術力を有していると言われている二人がいる。それに加え、最強の双子である織斑姉妹とも面識があり、この四人の全面的バックアップがあったとすれば、間違いなく世界一を狙えるくらいにはなるだろうとオータムは考えていた。

 もちろん、箒が亡国機業に身を置いている事は知られているだろうし、もともと興味を持たれていなかったと言う事も知っているので、そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ないと言う事は理解していた。

 

「くそっ! また躱すのか! 卑怯だぞ! 正々堂々――」

 

「(ヴァーチャル相手に文句言ってるヤツだもんな……見捨てられても納得だぜ)」

 

 

 先に上げた四人は、ある程度の事ならば一切気を乱すことなく対処できるだけの精神力と判断力を持っている。だが目の前の箒には、その能力は感じられない。オータムはもう一度ため息を吐いてから、この場にはいない恋人の事を思い浮かべていた。

 

「(スコール……オレも前線に出たいんだが……何時までお守りをしてればいいんだよ)」

 

 

 実質的なナンバーツーであると自覚しているオータムは、箒のお守りなど出来ればしたくない――出来ればではなく完全にやりたくなかったのだが、箒が暴れだした時、実力で圧倒出来るのがスコールとオータムの二人しかおらず、スコールを監視に付けるのは作戦決行が大幅に遅れる事を意味している。したがってオータムが箒のペアという名の監視者に選ばれたのだが、このままではオータムが暴れかねなくなってきたのだった。

 

「どうもうまくいかないな……すまないが、ヴァーチャル戦闘で相手してくれ」

 

「それは構わねぇが、ハンディはどんぐらいつけるんだ? お前相手だったら、三分もかからないぜ?」

 

「……言ったな。その言葉忘れないでもらいたいな。私がどれほど成長しているか、まずはアンタに見せつけてやろうではないか!」

 

 

 何処からその自信が湧いて出て来るのか、オータムには理解出来なかったが、単調な動きしかしない相手よりかは楽しめるだろうと思い、ツッコミは入れなかった。

 結果として、箒は三分以上粘ったたのだが、オータムに一撃も喰らわせることが叶わず完封負けしたのだった。

 

「はん、結局は口だけか」

 

「ぐっ……やはり機体との相性と対戦相手自体との相性が悪いか……」

 

 

 遠距離主体とはいえ、箒は基本的に近接戦闘を好む。オータムはその事を知っているので、最低限の距離を保ちながら、箒を痛めつけるという事をやってのけたのだった。




まぁオータムは謹慎してるわけじゃないんですけどね

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