暗部の一夏君   作:猫林13世

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また余計な事を考えてる……のか?


束に出来る事

 一夏が戦力の工面に悩んでいる事を、ハッキングした衛星から知り得た束は、どうにかして一夏を手助けできないかと考えていた。一夏が頭を悩ませている原因の一部は、自分がISなんてものを世間に発表したからだと責任を感じているからなのだが、それ以上に束が力を貸そうと思った理由が、敵戦力に実の妹である箒がいることだった。

 殆ど相手をしてこなかったが、束と箒は間違いなく血縁関係であり、束が認識出来る数少ない相手でもある。その箒が一夏の頭痛の種であることは、束にも理解出来るし、出来る事なら自分の手で葬り去りたいとさえ考えるようになっていた。

 

「束様、夕食の準備が整いました」

 

「ありがとークーちゃん。でも今は食べないからその辺りに置いておいて」

 

「分かりました。束様、あまり根を詰め過ぎないようにしてくださいね」

 

「大丈夫だよ~。束さんは細胞単位で普通の人間じゃないから、疲労なんて感じないのだー!」

 

 

 心配するクロエを安心させるように、束はその場でピョンピョン跳ね回って見せる。その姿を見て安心したのか、クロエは持ってきた夕飯にラップをかけ、束が暴れても被害を受けない場所に置いて研究室から去っていった。

 

「クーちゃんに心配させちゃうのは心苦しいけど、束さんがいっくんを苦しめてるこの状況が気に入らない。束さんはいっくんの為に何かしなきゃいけないんだよ」

 

 

 誰もいない研究室でそう呟き、束はどうにかして一夏の手助けが出来ないかと頭を悩ませ、盗撮した一夏のスーツ姿の写真を見てだらしなく顔を緩ませた。

 

「えへへ~……っは! 今はこんな事してる場合じゃ……でへへ」

 

 

 一度我に返り表情を引き締めたが、再び視界に一夏の写真が入り、だらしなく口を半開きにして写真を食い入るように見つめる。

 

「いっくんの側にいられる更識の連中が羨ましいな……ちーちゃんやなっちゃんも側にいるけど、ある程度の距離は保たれてるし……いっそのこと束さんも更識に所属して……でもそれだと、いっくんの負担が大きくなっちゃうしな……まったく。何で世界の阿呆レベルに合わせないといけないのか理解できないよ」

 

 

 束が更識に所属した場合、その説明などで一夏が忙しくなるのは火を見るよりも明らかであり、それは当然束にも理解出来ていた。自分がどこに所属しようが自分の勝手だと思っているのだが、自分があの「篠ノ之束」であるが故にその勝手が通用しない事も理解出来ている。天災と言われているが、彼女は天才でもあるのだ。それくらいは簡単に理解する事が出来る。

 

「いっそのこと全世界同時テロ事件でも企画して、束さんがそれを解決。その時に力を借りた更識に恩返しをするために更識に所属するって方向に出来ないかな~……出来るだろうけど、間違いなくいっくんやちーちゃん、なっちゃんに怒られるだろうしな……根本的な解決にもなってないし、この考えは没だね」

 

 

 そもそも一夏が頭を悩ましているのは箒の事なので、束が更識所属になったところで何の解決にもならない事に気が付いた束は、今までの考えを全て頭の中から追いやった。

 

「あのバカ箒ちゃんを懲らしめる為にはどうすればいいんだろう……サイレント・ゼフィルスに使われているのは、束さんが造ったコアだから、遠隔操作で機能停止にすれば……って、あの子は今こっちからの干渉を一切拒んでるんだっけ……いっくんもあの子の声が聞こえないって言ってたし」

 

 

 ISの生みの親である自分の手を離れているサイレント・ゼフィルスに、束はいら立ちを覚えた。もっと言えば、子供であるサイレント・ゼフィルスのコアを都合の良いように改造した技術者を、束はこの世から消し去りたいと考えているのだ。

 

「いっくんの調べでは、サイレント・ゼフィルスを改造したのは倉持技研とか言う二流企業にいた技術者の可能性が高いんだっけ……所在の分からない技術者は倉持技研にいた八割以上で、残りの二割は二流企業の中でも二流レベルの技術しか持たない老人だとか言ってたし、束さんはその人間の区別もつかないしな……いっくんが見つけ出してくれるのを待つしかないか……」

 

 

 こういう時、自分の認識力の低さが束は恨めしかった。普段は気にならない他人を、この時ばかりは認識したいと思ったのだが、自分の脳はその方面には機能しないのだったと改めて思い知らされ、束は少し悔しそうにIS学園を監視しているモニターを眺めた。

 

「いっくんとまーちゃん、ちーちゃんとなっちゃんははっきりと認識できる。後は小鳥遊とかいう、いっくんの護衛の女とちーちゃんとまーちゃんの愛玩道具である眼鏡は分かるけど、後は殆ど分からないんだよね……」

 

 

 辛うじて更識所属の面々は曖昧に認識出来るのだが、それ以外は束にとって有象無象でしかない。多少の違いは認識できるが、それだけで個人を認識する事は出来ない。だから束は技術者の特定は自分の役割ではないと割り切って別の事を考える。

 

「訓練機レベルなら、世界中から文句も言われないだろうし、IS学園に寄付するという形にすれば、いっくんも受け取ってくれるかな? そうと決まれば、さっそく訓練機用のコアを製造して、IS学園に寄付する準備をしなければ!」

 

 

 一夏が受け取るとも決まってないのに、束は訓練機製造の準備に取り掛かろうとして、クロエが持ってきてくれた夕飯が視界に入った。

 

「おっと。愛娘の手料理を食べてから準備しよう」

 

 

 クロエの事は、本当の娘のように可愛がっているので、どんなに失敗した料理でも束は文句言わずに食べる。今日も多少焦げてはいたが、束は何も言わずに完食したのだった。




途中駄目になりかけてる……

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