暗部の一夏君   作:猫林13世

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相変わらずモテモテな一夏……


乙女の気持ち

 一夏に専用機の要望を聞かれて、刀奈はある程度の希望を一夏に伝えた。まだ候補生を選ぶ合宿に参加出来るようになっただけなのに、専用機とは気が早い――と刀奈は思っていたが、専用機が手に入るのは素直に嬉しい事だし、それが一夏が造り上げた専用機ならば尚更だ。

 

「お姉ちゃん、何だか嬉しそうだけど……なにかあったの?」

 

 

 スキップしそうな雰囲気を感じ取ったのか、簪が刀奈に疑いの眼差しを向ける。姉との才能の差を感じ始め、簪は最近刀奈に冷たい態度を取る。この眼差しの原因も、半分以上は簪の自己嫌悪が原因だ。

 

「候補生を決める合宿に参加する事になったのよ。それで、もし候補生に選ばれたら、一夏君が専用機を造ってくれるって言ってくれたのよ」

 

「一夏が……最近まともに会えてないな……」

 

「今なら部屋にいると思うわよ? 虚ちゃんもまだ帰ってきて無いし」

 

 

 刀奈がそう言うと、簪は未だかつてないくらいのスピードで一夏の部屋を目指した。それを見送った刀奈は、少し複雑な気持ちに陥っていた。

 

「やっぱり簪ちゃんも一夏君の事が……でも、一夏君は私たちの事を友達としか思って無いだろうし……今は開発やらで忙しい一夏君も、何時かは異性の事で悩んだりするのかしら……」

 

 

 その相手が自分なら良いなと思いながらも、それだと簪や虚たちが悲しんでしまう。何故一夏は一人なのかと刀奈は憂いていたが、更識にのみ適用される法律を思い出し、何とかそれを一夏が認めてくれないかと考え始めたのだった。

 

「たしか更識の当主は重婚を認められているのよね……美紀ちゃんや本音も一夏君の事が好きなようだし、お父さんにお願いして一夏君に次期当主になってもらえば何の問題も無くなるのよね……一夏君はそれだけ更識に影響力があるんだし、今一夏君が更識からいなくなると、折角軌道に乗った表の会社がダメになっちゃうし……」

 

 

 一夏が造り出した訓練機のおかげで、更識企業は世界の中でもトップクラスのIS産業企業になっている。もちろん悪用しそうな所にはISを渡さない事を前提に一夏に作業してもらっているので、ISを売る際にはかなり厳しいチェックが入るのだが。

 

「よし! そうと決まれば早速お父さんにお願いしに行かなきゃ!」

 

 

 刀奈は今さっき出たばかりの父親の部屋を目指し、こちらも未だかつてないくらいのスピードで廊下を走って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚の帰りを待ちながら、一夏は刀奈から聞いた希望を紙にまとめていた。派手な事が好きな刀奈らしく、ISの希望も結構派手なものが多かった。

 

「水で攻撃したいか……特性を水にするにしても、基本武装はどうしよう……」

 

 

 まだ製造段階どころか、製造する事すら決まっていないのに、一夏は既に頭を悩ませていたのだった。

 

「一夏、今いいかな?」

 

「簪? ああ、開いてるぞ」

 

 

 外から声を掛けられ、一夏は思考を一時中断した。簪がこの部屋を訪ねてくるのは珍しいと思いながらも、最近は共に過ごす時間が減っていたからなと反省もしたのだった。

 

「一夏、久しぶりだね」

 

「そうだな。最近はあんまり会わなかったしな」

 

「話し方、変わったんだね」

 

「ああ、最近な。何時までも子供口調じゃマズイからな」

 

 

 一夏が更識企業で様々な手伝いをしている事は簪も知っていた。まだ年齢が年齢なので公には出来ないが、更識企業の業績が世界トップクラスなのは一夏のおかげだと、簪も十分理解していた。

 大人の中で過ごす時間が増えた一夏の喋り口調が変わってしまっても、それは仕方の無い事だとも分かっているのだが、やはり違和感は拭えなかった。

 

「今、お姉ちゃんから聞いたんだけど」

 

「ん?」

 

「お姉ちゃんの専用機も、一夏が造るんだってね」

 

「まだ決定したわけじゃないけど、刀奈さんが代表候補生になった時にはな」

 

「やっぱりお姉ちゃんの方が良いの?」

 

「は? 何の事だ」

 

 

 自分以外にも、刀奈や本音、虚や美紀が一夏の事を想っている事は簪も知っていた。だから簪は、自分より刀奈の方が良いのかと一夏に尋ねたのだが、一夏には訳が分からない問い掛けになってしまったのだった。

 

「えっと……一夏は誰か好きな人はいるの?」

 

「唐突だな……前にも言ったと思うが、俺は簪たち全員が好きだ。だけど、おそらく簪が聞きたいのはこの『好き』じゃないんだろ?」

 

「うん……」

 

 

 一夏は鈍くもなければ、相手の感情を読み取る事も多々あるのだ。だから簪が何を聞きたいのかを正確に理解していた。

 

「そうだな……俺はまだ、誰かを好きになった事は無いのかもしれない。だから、簪たちが思っている『好き』という感情は、俺には分からない。悪いな、こんな返事で」

 

「ううん、一夏ならそう言うと思ってた。何となくだけどね」

 

「なんだそれは」

 

 

 口では呆れた感じを装っていたが、一夏の顔は笑っていた。簪もモヤモヤが晴れた気分になっていたが、自分の気持ちを整理するのにはまだ時間が掛かりそうだった。

 

「そもそも、俺たちはまだ小学五年だ。誰かを好きになるのは、早くないか?」

 

「そんな事無いと思うけど」

 

「そうなのか? 俺が遅いのかな……明日友達にでも聞いてみるか」

 

 

 自分がおかしいのか、と一夏は首を傾げながら考えたが、答えが出るはずもないと思い至り考えるのを止めた。同学年ならクラスメイトでも他のクラスの相手でもいくらでもいるのだと思い至ったからなのだが、そんな事を気軽に聞いていいものなのかと、一夏は再び頭を捻りながら考えるのだった。

 そんな一夏の許に、刀奈が嬉しそうに飛び込んできたのだった。




やっぱり自分的には刀奈と簪が良い

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