暗部の一夏君   作:猫林13世

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能力は一夏の技術力で、いくらでも向上できますし


仮想世界の箒

 箒の単独行動が原因で、亡国機業では二人一組で動くことが義務付けられた。そして箒のペアとなったのは、サイレント・ゼフィルス強奪の際にもペアを組んだオータムだった。

 

「何でオレがお前とペアなんだよ」

 

「仕方ないだろ。スコールがそう言ったんだから」

 

「お前とペアを組みたがるような物好きがいないからって頼まれたんだよ! てか、お前は当分謹慎じゃなかったのか?」

 

「だからアンタも任務が下りないんだろ?」

 

 

 何を当然の事を聞くんだ、と言わんばかりの表情で箒が事実を告げると、オータムはガックリと肩を落とした。薄々感付いていたのだが、自分に任務が来ないのはそう言う事かと理解させられてしまったからだ。

 

「やっぱり貧乏籤引かされたのかよ……」

 

「任務に赴かなくていい分、特訓が出来るのだからいいじゃないか」

 

「お前はそうかもしれねえが、オレは前に出てなんぼだからな。お前のように未熟じゃねぇし、そもそも独立派のナンバーツーだぞ、オレは」

 

「未熟だと? 私はそんな事言われるほど弱くないのだが」

 

「精神面で未熟だろ。あの餓鬼に良いように精神を掻き乱され、簡単に激昂するんだからよ」

 

「あれは相手が一夏だからだ。あいつは昔から人の冷静さを欠くような事を平気で言えるからな。少しでも表情が代われば違うのだが、あいつはずっと真顔で言い続けるから余計に苛立つのだ」

 

 

 それが一夏の狙い何だろうと、オータムは話を聞いただけで理解したが、実際にやられている箒は、その事に気付いていないようだった。

 

「だいたい一夏のヤツ、私が迎えに来てやったんだから、素直に応じるべきなんだ。それを更識のやつらが一夏を洗脳し、邪魔してくるからいつまでたっても一夏が正常にならないんだ」

 

「(こいつの思い込みもここまでくると怖ぇな……何がこいつにそう思わせているのか、スコールも知らないようだし、聞いても要領を得ない答えしか返ってこないし……ほんと、何でこんなやつをスカウトしたんだよ、スコール……)」

 

 

 いつまでもブツブツと言い続ける箒の隣で、オータムはそんなことを考えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 VTSのメンテナンス後、更識所属の面々が稼働テストを行う事になった。今回のメンテナンスの目的は、より強い相手のインストールと、篠ノ之箒が使っていたサイレント・ゼフィルスのデータを、一夏がより向上させたものと戦えるようにするものであり、そのレベルは普通の代表候補生だと苦戦するかもしれないものであった。

 

「ほえ~、シノノンってこんなに強かったんだ~」

 

「一夏さんが手を加えてるので、本来はこれほど強い訳ではなかったですが、並の候補生ならやられるかもしれないって思うほどには強かったですよ」

 

「美紀ちゃんも油断して抜かれたって聞いたけど?」

 

「あれは……一夏さんに気を取られてて……多少舐めていたのは否定しませんけど、あの時は退治よりも一夏さんの身の安全を優先して動いてましたから」

 

 

 刀奈にツッコまれて、美紀は慌てて弁解をする。実際箒相手と言う事で、少し油断していた事もあるが、それを差し引いても箒の実力が格段に上がっていた事には変わりはないのだ。

 本音と美紀が稼働テストを終え、次は刀奈と虚がVTSで箒との戦闘をすることとなり、一夏の目が先ほどより鋭さを増した。

 

「国家代表と企業代表なら、何処まで出来るか楽しみだな」

 

「一夏、また何かやったの?」

 

「二人がやってたのを見たんだろ? 俺は精々篠ノ之の強さを上方修正しただけだ」

 

 

 データ上ならいくらでもパワーアップする事が出来るので、一夏は先のデータに箒ののびしろを計算して上乗せした強さでインストールさせたのだった。もちろん、それは選択次第で元の強さに戻すことが出来、本音と美紀が戦ったのは現在の箒の強さだった。

 

「うわぁ!? こんな動きが出来るの!?」

 

「これは、美紀さんが虚を突かれるのも仕方ないかもしれませんね」

 

「……一夏さん、篠ノ之箒がここまで出来るようになるとお思いなのですか?」

 

「可能性の世界だからな。あいつの努力次第であそこまで出来るようになるって話だ。もちろん、VTSは精神攻撃が使えないから、実際にあそこまで強くなったとしても、ここまで苦戦する事は無いだろうけどな」

 

「精神攻撃は一夏の得意技でしょ? お姉ちゃんにそんな駆け引きが出来るとは思えないし、篠ノ之さんだって精神面を鍛えたりするだろうから、あれくらいになっちゃうかもよ?」

 

 

 簪の当然の不安に、一夏は笑って首を左右に振った。

 

「いくら篠ノ之が精神面を鍛えようとも無駄だ。あいつの精神を乱すのはそんなに難しくないし、相手が俺なら尚更乱れるだろうしな」

 

「いっちーは口が上手いからね~。褒めるのも貶すのもお手の物だし」

 

「それだけじゃないけどな。あいつが俺に固執してるからこそ、そこに付け込んで精神を掻き乱す事が可能になるんだ。何であいつが俺に固執してるのか分からないが、そこが大きな弱点になっていると言うことに気づかない限り、あいつの精神を掻き乱すのは簡単だ」

 

 

 あっさりと言ってのける一夏に、簪と美紀は呆れた表情を浮かべた。その弱点を克服したとしても、一夏の方が上を行っていそうだと、二人は顔を見合わせて頷きあったのだった。




巻き込まれる形で、オータムも謹慎に……不憫だ

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