暗部の一夏君   作:猫林13世

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彼はかなり忙しいだろうな……


夜半のメンテナンス

 消灯時間を過ぎた頃、一夏はVTSルームでシステムの更新作業をしていた。もちろん一人ではなく、護衛として碧が付き添っていた。

 

「何やっている。とっくに消灯時間は過ぎているぞ」

 

 

 部屋に明かりが点いていたのに気が付いたのだろう、見回りの千冬がVTSルームへとやってきて、形ばかりの叱責をした。

 

「この時間じゃなきゃ作業できないんですよ。千冬先生もご存じでしょ」

 

「知ってはいるが、一応申請はしてもらいたいものだ。お前以外の人間がいるのかと思ったではないか」

 

「申請はしましたよ。千夏先生が許可してくれました」

 

「なに、千夏が? 私には報告が来ていないのだが」

 

 

 双子の妹から報告を受けていないと千冬が言うと、一夏はため息を吐いて質問を始めた。

 

「俺が申請したのは放課後です。それ以降貴女は千夏先生と顔を合わせましたか?」

 

「夕食の時に少しだけ。だが、会話は無かったな」

 

「そうでしょうね。貴女たちは食事中の会話を嫌いますから。それで、それ以降は?」

 

「時間をズラして風呂に入り、消灯時間まで私は食堂に、千夏はアリーナにいたから、会話は無いな」

 

「なら、メールはどうですか? 貴女の事ですから、メールが着ていても気づかない可能性がありますよ」

 

 

 一夏にそう言われ、千冬はポケットから携帯を取り出した。するとそこには、一夏の予想通り千夏からのメールが届いていたのだった。

 

「……直接言えば良いものを」

 

「言うタイミングが無かったのでしょうね。あの人の事ですから、消灯時間が過ぎて、見回りの当番ではない事を良い事に、お酒でも飲んでいるんでしょうし」

 

「ああ、その通りだ。私も早く部屋に戻って飲みたいのだがな」

 

「飲むな、とは言いませんが、ほどほどにしてくださいよね。このような状況なのですから、貴女方二人が戦力として計算出来なくなるのは厳しいですし」

 

「真耶や紫陽花がいるから、そこまでではないと思うがな」

 

「元候補生とはいえ、世界最強姉妹の穴埋めは難しいと思いますけどね」

 

 

 真耶と紫陽花の実力は一夏も認めているし、簪や美紀と同等程度だとも思っているが、それでも最強の双子と比較すると数段落ちてしまうのは仕方ないだろう。

 一夏が自分たちのIS技術を高く買っていると言われ機嫌が良くなった千冬は、笑みを浮かべながらVTSルームから去っていったのだった。

 

「あれ、ちゃんと分かっているのでしょうか?」

 

「仮にも教師ですし、限度は弁えていると思いますよ。まぁ、行き過ぎたら謹慎じゃすまないと理解してるでしょうし、羽目を外し過ぎると言う事は無いと思います」

 

「だと良いですが……ところで一夏さん、今回のメンテナンスは、篠ノ之箒対策ですよね? それにしては随分と大掛かりな感じがするのですけど」

 

「システムの更新のついでに、本体に異常がないかのチェックも兼ねてますからね。普通に使ってる分には問題ないですが、ここには色々な人間がいますからね。負けた悔しさで筐体を叩いたりする輩がいないとも限りませんので。精密機械だと言ってあるので、そう強くは叩かないでしょうし、やり過ぎたらどうなるか想像つくでしょうし、叩く前に冷静さを取り戻すとは思いますがね」

 

 

 そう言ってメンテナンスハッチを開け、一夏は筐体の状況を確認し始める。放課後の特訓に付き合っていたのを知っている碧は、一夏の体力を心配していたが、これは一夏にしか出来ない作業なのだ。彼女は手伝いたい気持ちを抑え、見張りに徹した。

 

「それにしても一夏さん、亡国機業の中でも篠ノ之さんは浮いているんですね」

 

「単独行動だったらしいからな。追跡すればよかったかもしれないですね」

 

「篠ノ之博士がある程度の場所は特定したと聞きましたが、その場所に人は?」

 

「調べさせにはいきましたが、既にもぬけの殻でした。相手もバカではないと言う事でしょう」

 

 

 束からの情報を受け、更識の人間を使って調べさせたのだが、既に拠点だった場所には一人の人間もおらず、亡国機業に繋がる痕跡すらなかったのだった。

 

「あの一件で篠ノ之も自由には動けなくなったでしょうし、次に現れる時は恐らく敵勢力も相当数を揃えてくるでしょうからね」

 

「こちらも戦力拡大を急ぐべきでは?」

 

「拡大は難しいですよ。これ以上は更識所属という理由では納得しないでしょうし。ですから戦力の底上げを急いでいるんですが、一朝一夕では無理ですよ」

 

「皆、普段から特訓してますしね。急激な成長は見込めないのは仕方ないですよ」

 

 

 エイミィは候補生だから当然として、静寐も香澄も普段から特訓をしているのだから、いきなり急成長などというのびしろは残っていない。徐々に力をつけていくことは可能だが、それ以上を望むのであれば、織斑姉妹の作ったメニューで特訓するしかない。

 

「そう言えば、ナターシャさんが鷹月さんたちの特訓を見てる時があると聞きましたが、彼女も銀の福音を持っているんですし、攻め込まれた時は戦ってもらえないのでしょうか?」

 

「銀の福音は、表向きはコアを凍結し、更識で保管してる事になってますからね。非常事態とはいえ使う事は出来ないでしょうね……このままでは」

 

 

 そこで碧は、一夏が悪い笑みを浮かべている事に気付き、何か考えがあるのだと察した。

 

「事後報告では駄目なのではないですか?」

 

「一応日本政府には、緊急時には福音を解放するかもという旨は伝えてありますよ。どう解放するのか、再び凍結させるのかは伝えてませんけど」

 

「そもそも凍結してませんけどね」

 

 

 ハッチをしめ、メンテナンスが終了したので、一夏も自分の部屋に戻ることになり、碧も部屋まで送り届けてから自室へと戻り寝ることにしたのだった。




情報の伝達がちゃんと出来ていない双子……

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