暗部の一夏君   作:猫林13世

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やっぱり、教師より教師らしい……


一夏の指導

 箒が一夏を襲った事は、既にIS学園中に知られていた。更識製の専用機を持つ面々は、VTSとアリーナで対箒に向けて特訓を積んでいる。その場に一夏が訪れる時もあれば、どちらにも顔を見せない時があるが、一夏の存在の有無で訓練内容が変わるわけではない。やる気が若干高まるくらいで、一夏がいてもいなくても訓練に支障はないのだった。

 

「エイミィ、右側への反応が鈍い! 静寐は正面に集中し過ぎで左右からの攻撃に備える動きが若干遅れている! 香澄は全体的に動きについて行けてない!」

 

 

 今日は一夏がアリーナの方の訓練を見学しており、彼女たちの動きをすぐに数値化して、何処がいけないのかを即座に指摘している。オープン・チャネルではなく肉声で指導するため、彼の声は結構な大きさを必要としている。

 

「一夏さん、喉が潰れてしまいますよ?」

 

「このくらいならまだ大丈夫だ。それより、美紀も参加したらどうだ?」

 

「私は早朝訓練がありますし、ここに加わってもあまり意味はありませんので」

 

「そうか。美紀の実力じゃ、ここで訓練してる四人とはレベルが違うもんな」

 

 

 一夏に指導されたエイミィ、静寐、香澄の他にもう一人、マドカがここで訓練しているのだが、この四人と美紀とでは実力に大きな差がある。マドカですら美紀に敵わないのだから、残りの三人が挑んだところで、攻撃を当てられるかどうかくらいになってしまうのだ。

 

「マドカ、敵を追い過ぎだ! 深追いは予想外の事態を生み出すから、必要以上に追い回すな!」

 

「マドカちゃんも、冷静さを欠く動きが目立ちますからね」

 

「織斑姉妹の妹だからな……その辺りは仕方ないんだろうさ」

 

 

 千冬も千夏も、IS戦闘なら冷静さを保つことが出来るのだが、実生活ではかなりすぐ激昂したり動揺したりする。マドカはそれがISを動かしているときに現れる事が多いだけで、実生活はマドカの方が冷静に過ごしていたりするのだ。

 

「血縁で言うのでしたら、一夏さんだって血のつながりはあるのでは?」

 

「あまり似なかったんだろうよ。それが良い事だとは言わないが、マドカはもう少し俺に似てほしかったかもしれないな」

 

 

 容姿も中身も千冬と千夏にそっくりだと、マドカもいずれああなるのではないかと不安がよぎったのか、一夏は深いため息を吐いた。

 

「心配ですか、お兄ちゃんとしては?」

 

「マドカがあの二人のようになるとは思ってないが、もう少し落ち着いて周りを見れるようになってほしいとは思ってる……束さんに捕まった時も、かなり荒れてたらしいからな」

 

 

 束が仕掛けた罠も、冷静に対処出来ていれば抜け出すことが可能なレベルだったのだが、マドカはその罠から抜け出すことが出来ずに、結果一夏たちと再会したのだ。結果だけ見ればよい方向に動いたのだが、罠から抜け出すことが出来なかったマドカは、実力的に不安を残しているのだ。

 

「亡国機業が罠を仕掛けてくるとは思えないが、マドカには罠抜けの練習もさせておいた方が良いな……」

 

「人混みから抜け出すのも、若干ぎこちないですもんね」

 

「本音以下なのは問題だと思うんだが……何故か本人は焦ってないんだよな」

 

 

 マドカが焦らない理由、それは人混みに呑まれ、身動きが取れなくなる度に一夏が助け出してくれるからなのだが、一夏はその事に気付いていない。敬愛する兄に助けられる事が嬉しいマドカは、人混みから抜け出すための訓練を疎かにしているのだが、素質的なものもあって本音以上に人混みから抜け出すのが下手なのだった。

 

「ところで一夏さん、四人ともかなりへばってますけど、そろそろ終わらせなくていいんですか?」

 

「ん? そうだな、休憩にしよう」

 

 

 一夏の合図で、四人はISを解除しグラウンドに座り込んだ。その姿を見た一夏は、スタミナ向上も考えなくてはいけないなと思っていたのだった。

 

「今度のキャノンボール大会、高速移動に慣れる為にも全員参加だな」

 

「趣旨が変わってませんか? あれは正確性を競う競技のはずですが」

 

「この際正確性は問わないから、篠ノ之箒の動きに対応できるようになれば構わない。あいつが最速じゃないのは確かなんだから、せめてアイツレベルには対応できるようになってもらわなければ戦力として計算出来ないからな」

 

「さすが陣頭指揮を執る可能性が高いお人です。ですが、学生にこれ以上望むのは酷かと思いますよ」

 

 

 美紀の忠告に、一夏は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

 

「そんなこと言ったら、ここにいる殆どを戦力として計算出来なくなるだろ。俺や美紀もだが、刀奈さんや虚さんだって学生なんだ。織斑姉妹や碧さんたちだけじゃ撃退出来るとも限らないし、少しくらい酷でもやるしかないんだ。ましてや専用機持ちなんだから、それくらい覚悟してもらわなければな」

 

「そうでしたね。でも一夏さん、今日はもう終わりにした方が良いですよ。香澄さんとエイミィの気力が著しく落ちていますので」

 

 

 モニターを指差し、各自のコンディションを確認した美紀がそう告げると、一夏も厳しい顔つきになり頷いた。本当はもう少し訓練を積ませたいところなのだが、これ以上続けても身にならないし怪我の元だと彼も理解しているのだ。そのあたりも、織斑姉妹とは違うのだろう。

 

「今日はこれで終わりにしよう。静寐とマドカは、エイミィと香澄に肩を貸してやれ。多分歩くのもしんどいだろうからな」

 

 

 一夏の指示に頷き、静寐は香澄に、マドカはエイミィに肩を貸し、四人はアリーナから更衣室へと歩いていったのだった。




ヘロヘロになるまで鍛える……だけど無理はさせない

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