暗部の一夏君   作:猫林13世

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更識所属はそれなりに忙しいのです……


来るべき時に備え

 誕生日の翌日の早朝、一夏はアリーナで簪と美紀の訓練を見ていた。本当なら一夏も参加すべきなのだろうが、二人の実力から大きく差がついていると思っている一夏は、二人の訓練を邪魔しない為に見学を選んだのだった。

 訓練が一段落着いたので、二人がISを解除して一夏の側にやってくると、一夏は二人分のお茶を差し出し、今の訓練のデータを二人に見せるのだった。

 

「若干簪の方が攻めにくそうにしてたが、これは武器の差だろうな。中遠距離の簪が近距離主体の美紀の間合いで戦ってたのが原因だろう」

 

「美紀、瞬間加速に磨きがかかってた。昨日の今日で凄いね」

 

「篠ノ之さんの動きについて行けなかった自分が不甲斐なくて、パーティーの後一夏さんにお願いしてVTSで瞬間加速の特訓をしたからね」

 

「仮想世界でどれだけ速くなろうと、実際のGを体験するまで成功とは言えなかったんだが、さすが代表候補生、あっという間にGに慣れてたように見えた」

 

 

 一夏は美紀の今の戦闘データを解析し、Gに耐える動作がスムーズに出来ている事を伝える。一夏に褒められた美紀は、少し恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「二人はペアで戦う事を前提に訓練してるから、一対一で戦う時、自分の間合いを確保出来た方が有利になるのは仕方ないだろう」

 

「一夏、私も瞬間加速を会得した方が良いかな?」

 

「簪は距離を保ち、確実に狙撃する事に専念した方が良いと思うぞ。美紀がこれだけ動けるようになったことだし、簪がする事は速さを求める事より、正確性を高める事だ」

 

「正確性……具体的に、どんな訓練が良いと思う?」

 

 

 簪の質問に少し考えるそぶりを見せて、一夏は美紀へと視線を向けた。

 

「何でしょうか?」

 

「残りの時間、美紀は瞬間加速でアリーナを飛び回ってくれ。簪はその美紀に攻撃を当てる事だけに集中してくれ」

 

「つまり、美紀は瞬間加速の練習をして、私は動き回る敵に狙いを定める練習をするってこと?」

 

 

 簪の質問に、一夏は満足げな表情で頷き、二人の専用機のSEを回復させる。

 

「本当は後二、三人くらい的になる人がいればいいんだが、この時間じゃそれは無理だし、今は美紀だけで」

 

「一夏さんはどうです? 回避行動の練習になると思うのですが」

 

「俺の実力じゃ、簪の攻撃から逃げ続けるのは不可能だからな。得意の心理戦も、簪には通用しないし」

 

 

 箒相手には上手くいったが、簪相手に自分の口八丁が通用するとは、一夏も思っていない。一夏の言い分に簪は笑みを浮かべ、そして準備するためにISを展開する。

 

「それじゃあ美紀、せいぜい逃げ回ってね」

 

「簪ちゃんの攻撃、一発は小さいけど、一度当てると立て続けに当て続けてくるから気をつけないと」

 

 

 こうして二人の訓練は朝のHRギリギリまで盛り上がり、三人は朝食を摂る時間無く教室に駆け込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業では、織斑姉妹の実技指導があった。一夏はグループ長として教わる側ではなく教える側だったのだが、静寐、香澄は教わる側で、一夏の班だった。

 

「千夏先生、専用機持ちにグループ長を任せるのでしたら、静寐や香澄も長をやらせるべきなのでは?」

 

「鷹月と日下部は司令官として育てるより、手足として育てた方が役に立つ。そして恐らく、その二人に指示を出すのはお前だろうからな。だから二人はお前の班にしたのだ」

 

「……亡国機業対策、と言う事ですか。確かに指揮を執るのは俺になる可能性が高いでしょうが、貴女方二人が指揮を執る可能性だってあるのですよ?」

 

「わたしと千冬はお前の指揮下に入り、前線で敵を殲滅させるつもりだ」

 

 

 最強の双子である織斑姉妹が前線に出て暴れれば、数の差など気にする必要は無くなるだろう。だが最強故に他との連携が見込めないので、一夏としては二人を前線に出すのは避けたいと考えていたのだった。

 

「殲滅させるつもりなのは良いですが、お二人もちゃんと周りを見て戦ってくださいよ? 勝手な思い込みかもしれませんが、敵味方関係なく撃墜させそうなんですが」

 

「そんな事……出来るだけしないつもりだ」

 

「ここは絶対にないと言ってほしかったですがね……」

 

 

 千夏の答えに、一夏は苦笑いを浮かべながら指導に戻っていった。残された千夏は、自分たちが前線に出て戦った場合の光景を思い浮かべ、一夏の不安ももっともだと納得してしまったのだった。

 

「千夏、何かあったのか?」

 

「いや、一夏に言われたことを想像して、あいつの不安ももっともだと思っただけだ」

 

「一夏の不安? いったいなんだ」

 

 

 千夏は千冬に自分たちが前線に出て戦った場合、敵味方の区別をちゃんとつけて戦えるかと問うた。千冬は少し考えてから、乱戦で無ければある程度はつくだろうと答え、千夏が納得した事に自分も納得したのだった。

 

「亡国機業が攻めてきたと言う事は、乱戦が想定されるだろうからな。一夏がわたしたちに前線に出てほしくないと思う理由がなんとなく分かっただけだ」

 

「まぁ、一夏に指示されるのなら、私たちは後方支援でも構わないんだがな」

 

「そういうことだ。いつの間にか立派になった弟に指示されるのも悪くないだろう」

 

 

 その時の事を夢想し、織斑姉妹はアリーナのど真ん中で立ち止まりだらしない表情を浮かべていた。その二人にツッコミを入れたのは、他の生徒から心配され相談を受けた碧だった。




普通に考えれば頼もしいですが、箍が外れるとありえそうで怖い……

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