暗部の一夏君   作:猫林13世

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無効化するのが一番ですが、そう簡単ではないですしね……


闇落ち箒の対策

 一夏が襲われたと聞いて、刀奈は部屋に戻ってきた一夏に対し、いきなりゼロ距離で問い詰めた。

 

「一夏君、襲われたって本当!? 誰に襲われたの!? 怪我とかしてないわよね!?」

 

「……落ち着いてください、刀奈さん。一つずつ答えますので」

 

 

 ゼロ距離だった刀奈を軽く肩を押す事で距離を保ち、一夏がゆっくりと質問に答えていく。

 

「まず、襲われたのは本当です。碧さんと美紀の手を借りて相手は撃退しました」

 

 

 視線で碧と美紀に礼を言った一夏は、二人が目礼を返したのを見て、視線を刀奈に戻した。

 

「襲ってきた相手は篠ノ之です。篠ノ之箒」

 

「篠ノ之さんって、亡国機業に身を落としたって噂だけど、本当に?」

 

「そのようでしたね。亡国機業に力を貸している元倉持技研の技術者が調整したと思われるサイレント・ゼフィルスを操縦していました」

 

「これでサイレント・ゼフィルス強奪事件に関わっていたもう一人が篠ノ之箒だと言う事が確定した訳ですね?」

 

 

 幾分冷静さを保っている虚が、一夏に質問をする。その質問に頷いて答え、一夏は最後の質問に答える。

 

「怪我はしてませんよ。そもそもあの程度なら掠ることなく逃げれましたから。篠ノ之の実力を測るために、わざとギリギリで避けてたので掠るかもとは思いましたが、相変わらず精神面は脆かったですね」

 

「あえて挑発してる一夏さんを見て、何がしたいんか疑問だったのですが、そういう意図があったんですね」

 

 

 碧が納得したように手を叩くと、一夏は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

「あんな分かりやすい挑発、してるこっちが恥ずかしかったんですが、やはり篠ノ之は精神面から崩す方が正解でしょう。実力が飛躍的に上がっているため、力ずくでは厳しいかもしれませんから」

 

「そうなの? 一夏君が言うならそうなんでしょうけど、でも箒ちゃんってそんなに実力があったようには思えないんだけど」

 

「VTSを使って訓練したんでしょうね。才能皆無だと思われていた遠距離武器に対する適正も、相当上がっていましたし」

 

「偏向射撃を会得していましたから、オルコットさんより上かと思われますね」

 

 

 碧からの補足説明に、本音が驚きの声を上げる。

 

「セッシー、シノノンに抜かれちゃったんだ~。こりゃセッシーも特訓頑張るしかないね~」

 

「セシリアはセシリアで頑張ってるんだろうけど、学園だと少しなれ合いもあるからね。篠ノ之さんみたいに、出来なきゃ捨てられるって環境で特訓するのと、ちょっと違うと思うよ」

 

「まぁ、簪の言う通り、篠ノ之がいるのはそう言う世界だからな……とにかく、専用機持ちには、対篠ノ之の特訓を積んでもらうつもりだ。VTSに採取した篠ノ之のデータを反映させ、それぞれが篠ノ之対策をするようにしてもらう」

 

「私たちも?」

 

 

 刀奈の質問に、一夏は頷いて答える。本音では更識所属の面々は、特訓するまでも無く勝てるだろうと思っているが、先ほどの美紀の動きを見る限り、初見では苦戦するかもしれないという考えが一夏の頭の中にはある。仮想とはいえ、一度でも見ておけば今の更識所属の面々の実力なら、十分に撃退できるとも思っているのだった。

 

「刀奈さんたちのデータには、あえて実力を上乗せしたデータを入力しておきますので、しっかりと対策を練ってくださいね」

 

「一夏君、笑顔がSっぽいわよ……」

 

「S? よくわかりませんが、とにかくそう言う事で」

 

 

 これでお開きと言わんばかりに会話を打ち切った一夏に、刀奈が再びゼロ距離まで詰め寄った。

 

「一夏君も無事だったし、誕生日パーティーを再開しましょう!」

 

「まだ続けるんですか?」

 

「当然でしょ! ただコスプレしただけじゃ意味ないし、これから一夏君にそれぞれが抱き着きまーす!」

 

「聞いてませんよ!?」

 

 

 刀奈の宣言に、虚が驚きの声を上げる。それも一夏以上に驚いているのを見ると、本当に聞いていなかったんだろうなと、本人である一夏が他人事のように思ってしまうほどだった。

 

「別にいいじゃない。今思いついたんだし」

 

「お姉ちゃん……相変わらず思いつきで行動するんだね」

 

「だって、無事だったお祝いも兼ねてだからね。一夏君には私たちの存在を改めて認識してもらおうと思って」

 

「ちゃんと認識してますし、気配で分かりますよ」

 

「そう言う事じゃないんだけどね」

 

 

 少しずれた感想を言う一夏に、刀奈は腕を絡め上目遣いで一夏を見つめる。

 

「一夏君が私たちの事を心配してくれるように、私たちも一夏君の事を心配してるの。だから、あんまり無茶はしないで」

 

「……善処します」

 

「約束よ? もし約束を破ったら、私たちで一夏君を襲うから」

 

「寝込みを襲われるのは勘弁してほしいですね……ただでさえ寝不足気味なんですし」

 

「それが嫌だったら、次からはちゃんと誰か一人を護衛に付ける事。亡国機業のスパイがいるのは確定的なんだしね。お姉さんとの約束、ちゃんと守れるよね?」

 

 

 義理とはいえ姉である刀奈の言葉に、一夏は素直に頷いた。

 

「分かりました。刀奈お姉ちゃんの言う事、しっかり守ります」

 

「よろしい。それと、もう一回お姉ちゃんって言って」

 

「もう嫌です」

 

 

 きっぱりと拒否を告げると、刀奈は頬を膨らませて一夏に胸を押し付けた。

 

「言ってくれないと、今度は直接押し付けるわよ?」

 

「……勘弁してください、刀奈お姉ちゃん」

 

 

 思春期男子としては、魅力的な提案なのだろうが、一般的とはズレている一夏は、刀奈の脅迫に屈してもう一度お姉ちゃんと呼んだ。それが原因で、一夏は立て続けに碧と虚にも脅され、終いには簪、美紀、本音にも昔の呼び名で呼ぶように脅されたのだった。




とりあえず、トイレ以外の時は護衛をしっかりつけるという方向で……

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