暗部の一夏君   作:猫林13世

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相違という言葉で済ませられない程、ズレてる気が……


考え方の相違

 美紀と碧が現れても、箒の余裕は崩れなかった。勝てるとは思ってないだろうと一夏も分かっているのだが、不気味なまで余裕の表情を浮かべたままなので、何か秘策でもあるのかと警戒していたのだ。

 

「もう一度だけ言うぞ。一夏、私と共に来い」

 

「何度でも言うがお断りだ。お前んところのリーダーにも言っとけ。俺はお前らの仲間になるつもりなど更々ないとな」

 

「何故その事を知っている」

 

「マドカからある程度の事情は聞き出せたからな。独立しようがどうしようが関係ない事だが、俺を巻き込もうとするのだけは止めてくれ」

 

 

 美紀、碧、そして一夏の三人から銃口を向けられた箒は、盛大にため息を吐いた。

 

「まだそんなことを言っているのか、お前は。お前が幸せになるには、私と一緒にいるのが一番なんだ。わけの分からない更識になど身を置かず、私と共に来い」

 

「お前こそ、何時までそんな妄想を抱いているんだ。お前と共に生きる? そんなことしたら数週間で五体不満足になりかねん。正常な思考も持てないお前など、お断りだ」

 

「なら、力ずくでお前を連れていくのみ! ケガしてもお前が悪いんだからな!」

 

 

 そう言って箒は、瞬間加速を使い一夏との間合いを詰めようとして――

 

「その程度で私を抜けると思ったの? だったら随分と舐められたものね」

 

 

――あっさりと碧に行く手を阻まれてしまった。

 

「ここにいた時よりは格段に強くなっている事は認めてあげるわ。でもその程度じゃ候補生の中でも下から数えた方が早いわよ」

 

「舐めるな!」

 

 

 偏向射撃で碧を襲おうとした箒だったが、攻撃を放つ前に碧の姿が視界から消えていた。

 

「なっ! 何処に行った!?」

 

「肉眼だけで確認しようとするなんて、下策もいいとこね。ISにはセンサーだってあるんだから、そっちでも確認しなきゃダメよ」

 

「ぐっ!」

 

 

 振り向いてレーザーを放った箒だったが、これまた碧に当たることは無く、一夏がその攻撃を打ち消した。

 

「あんまり学園に被害を出さないでもらいたいんだが。修理費を捻出する身にもなれよ」

 

「そもそも、碧さんだけに意識を取られ過ぎ。一対一じゃないってことぐらい分かってるんでしょ?」

 

 

 一夏が攻撃をはじき、その背後から美紀が箒目掛けてライフルを放つ。咄嗟に回避行動を取った箒だったが、どうやら掠ったようだった。

 

「お前は、男なら堂々と戦ったらどうだ! そんなだからお前は――」

 

「お前の価値観を俺に押し付けようとするなよな。そもそも堂々も何も、俺はお前と戦うつもりなど更々ない。碧さんと美紀に任せ、お前を餌に残りの亡国機業をおびき寄せる算段を立てるのが俺の仕事だ」

 

「なっ!? 女の背に隠れて、それでも男なのか! 恥ずかしくないのか!」

 

「別に恥ずかしいなんて思わないし、適材適所って言葉があるんだ。俺よりも強い二人に戦闘は任せて、俺は頭脳労働に勤しむ」

 

 

 激高する箒に対し、一夏は何処までも冷静に返答していく。その涼し気な態度に、箒はますます激怒していくのだが、それも一夏の作戦だった。

 ただでさえ猪武者である箒だ。激高して周りが見えなくなれば、間違いなく自分に突進してくる。そこを横から碧と美紀が攻撃し仕留める。そんな作戦を即興で立て、プライベート・チャネルで二人に伝えたのだ。

 

「やはりお前は男として腐っている。私が叩き直してやるから一緒にこい!」

 

「だから、お前の価値観を俺に押し付けるのは止めろと、昔から言っているだろ。作戦参謀だって立派な役目なんだから、男だからとか言ってるお前の方が間違ってるんだよ。そもそも考え無しで突っ込んできて、現にピンチに陥ってるお前にとやかく言われる筋合いはない」

 

「一夏ァ!」

 

 

 一夏の読み通り、箒は考え無しに突っ込んできた。だが少しだけ計算外だったのは、そのスピードが思いのほか速く、美紀が反応しきれるかどうか微妙だった事だった。

 

「お前は! どうしてそう軟弱な考え方しか出来ないのだ!」

 

「武力こそ全て。そう考えてるお前には分からないだろうよ」

 

 

 碧だけでは止められなかったので、一夏も正面から攻撃を仕掛けた。決定打にはならなかったが、これ以上戦闘を続けるのは得策ではないと箒に思わせるくらいにはダメージを与えられたので、一夏は再び交渉に入ることにした。

 

「そのまま続けても、お前が負けるのは分かるよな? 大人しく投降して、亡国機業を壊滅させる為の餌に甘んじてくれないか? 曲がりなりにも昔馴染みのお前を消すのは、いささか忍びないと思わなくもないからな」

 

「誰がお前の言いなりになどなるか!」

 

 

 箒は地面に弾幕を張り、姿をくらました。追いかける事は簡単だったが、一夏は碧と美紀に構わないと目で伝え箒を逃がしたのだった。

 

「よかったんですか?」

 

「追いかけて敵の増援でもいたら面倒ですからね。それよりも、この破壊された中庭の修理費を何処から捻出するかを考えなければいけませんし、そもそもその恰好で追いかけて恥ずかしくないんですか?」

 

 

 一夏に言われ、二人はコスプレ衣装のままだった事を思い出し、美紀は顔を真っ赤に染め上げたのだった。

 

「それに、篠ノ之の戦力がどのくらいなのか、データを取ることが出来ました。これをVTSに反映させ、専用機持ちの戦力アップに使わせてもらう」

 

「相変わらず考えが黒いですね……」

 

「暗部の人間だからな。当然、美紀にももう一段以上レベルアップしてもらわないと困るからな。あの程度の瞬間加速、目を瞑ってでも対応できるくらいにはなってもらいたい」

 

「回避は一夏さんに敵いませんよ……」

 

 

 一夏にかなりの難題を突き付けられ、美紀は盛大にため息を吐いたのだった。




箒というキャラが立った気がする……ヒロインより敵役の方が輝いてる……相変わらず脳筋だが

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