暗部の一夏君   作:猫林13世

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戦わせてみました


箒VS一夏

 約二ヶ月ぶりに姿を見せた箒に、一夏は並々ならぬ警戒心を抱いていた。箒が持っているIS、サイレント・ゼフィルスは完全に心を閉ざしており、彼女から情報を引き出すことが出来ないのだ。

 

『どうやらサイレント・ゼフィルスは完全に篠ノ之箒の手に堕ちているようですね』

 

「(それを言うなら亡国機業に、だろうな……よほど高度な技術力を持つ人間がいるようだ)」

 

 

 予想を遥かに超える整備力に、一夏は素直に感心していた。一方の箒は、再会してもなかなか口を開かない一夏を見て、感動していると勘違いしていた。

 

「一夏、今日がお前の誕生日だと言う事を覚えているか? 覚えてないだろうな。お前はいつもそうだったから。まったく、私が祝わなければお前は――」

 

「何の話をしている? 誕生日だと言う事は覚えている、というかついさっきまで祝われていたからな」

 

 

 わざわざそんなことを言いに来たのかと呆れながら告げる一夏に、箒は驚き、信じられないという表情で一夏との距離を詰めてきた。

 

「祝われていた? 私がいない今、誰がお前の誕生日を祝うというのだ? ……そうか、千冬さんと千夏さんだな。あの人たちは相変わらず……」

 

「普通に刀奈さんたちだと何故わからない? そもそも俺が、あの姉二人に素直に祝われると本当に思ってるのなら、相当お目出度い頭をしてるんだな」

 

 

 サイレント・ゼフィルスの性能がはっきり分からない今、一夏は少しでも時間と距離を稼ぎたかった。だからあえて挑発し、サイレント・ゼフィルスを展開させるように仕向けているのだ。侵入に気付かなくとも、ISが展開されれば絶対に気付くだろうという自信も、一夏にはあったからだ。

 

「何故だ。何故お前はそうも変わってしまったんだ! お前を本気で祝えるのは私だけなのに! 幼馴染である私こそが、お前の隣にふさわしいのに!」

 

「何度も言っているが、俺はお前の事を幼馴染だと思ったことは一度もない。精々昔馴染み、付き合いの長い知り合いに過ぎない」

 

「記憶が無いからだな。なら一夏、私と一緒にこい。そうすればすべて思い出すはずだ。お前が私の事が好きで、将来を誓い合った仲だという事をな」

 

『この人は何を言っているのでしょうか?』

 

「(俺が知るかよ……)」

 

 

 妄言を吐きまくる箒に、闇鴉が呆れ、一夏もつられて呆れる。その一瞬の油断が、箒の攻撃を避けきれないほどになるとは、一夏も闇鴉も思っていなかった。

 

「避けたか。やはり一筋縄ではいかないか」

 

「お前……」

 

「驚いたか? このクソみたいな学園で冷遇されていただけで、私はこの通りISの才能に満ち溢れていたのだ。これで分かっただろ? 私はお前の隣に立つにふさわしい能力と資格を持っていると!」

 

 

 近距離主体だった箒が、遠距離から攻撃を仕掛けてきた事も想定外だったが、それ以上に想定外だったのは、箒の射撃の腕がかなり向上している事だった。マドカには劣るが、セシリアとはいい勝負が出来るのではないか、一夏はそんなことを考えていた。

 

『一夏さん、碧さんと美紀さんがこちらに向かってきておりますので、それまでは回避に専念してください』

 

「(反撃する隙なんて見つけてる余裕がない。それくらい成長してる……闇鴉、動けるな?)」

 

『掠っただけです。問題はありません』

 

 

 箒との間合いを開こうと、ゆっくりと後退していく一夏に向けて、箒は立て続けに射撃を続ける。生きてさえいれば問題ないとスコールから言われていたオータムと同じく、箒も無傷で一夏を捉えられるとは思っていない。だから攻撃に一切の躊躇は無かった。

 

「お前は! 私と一緒にいるのが一番なんだ! わけの分からない更識にいるよりも!」

 

「お前には理解できない世界だろうさ。ISの事を分かったつもりでいて、その実何も理解していないお前には」

 

「私は篠ノ之束の妹だ! ISのことくらい理解している!」

 

「なら何故、お前は更識製のISを動かせずにいる。その機体だって、俺が少しでも心を開けば動かなくなるだろうさ」

 

「それはお前がそう命じたからだろうが! 私を不遇の境地に追いやれとでも命じられたのか! ならやはりお前は更識にいるべきではない!」

 

「妄言もそこまで行くと不愉快だな。俺は命じてもいないし、命じられてもいない。ただ単にお前がISから嫌われているだけだ。その子だって、亡国機業に堕ちた技術者が強制的に心を閉ざしたに過ぎない」

 

 

 挑発を続けながらも、一夏は回避行動を怠らないし、箒も攻撃の手を緩めたりはしない。むしろ挑発に乗り、攻撃が過激になりつつある。その分正確性が損なわれているので、一夏に攻撃が当たる確率は更に低くなっているのだが、箒はその事に気付いてすらいなかった。

 

「ISに感情などあるものか! ISはただの機械。人に使われてこそ意味があるんだ!」

 

「そう思ってるのなら、お前は一生普通にはISに乗ることは出来ない。精々改造され自分の意思を表に出すことが出来ずにいる子を使って、強くなった気でいるだけだ」

 

「まだお前はそんなことを言っているのか! 更識め! 一夏を洗脳するなど許せんな!」

 

 

 箒が一夏に攻撃を仕掛けようとして、両サイドから強烈な攻撃が襲ってきたのを感知し咄嗟に回避行動を取った。

 

「貴女、篠ノ之箒さん……何しにIS学園に来たのですか。貴女は既に除籍されてるんだけど」

 

「一夏さんに攻撃してましたよね。それだけで十分私たちの攻撃対象になるんですが」

 

「ふん。更識の狗風情が偉そうに。一夏は私と共に生きていくのが一番幸せなんだ」

 

「……一夏さん。あれって洗脳されているんですか?」

 

「いや、恐らく正常に狂ってるんでしょう」

 

 

 実に矛盾している言葉だが、箒は確かに洗脳されていない。もし洗脳されているのであれば、無駄口を叩かずにさっさと自分を攫って行ったはずだと、一夏は確信していた。だからこその「正常に狂っている」と言ったのだった。




一夏の挑発で冷静さを欠く箒……

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