暗部の一夏君   作:猫林13世

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口調が変わります


大人びる一夏

 代表合宿に参加できるかもしれないという事で、刀奈は今当主の部屋に呼び出されていた。普段から気軽に出入り出来る部屋ではないのだが、今日は特に居心地の悪さを感じていた。

 

「お父さん、何の用なの?」

 

「もう少し待て。話は全員が揃ってからだ」

 

 

 さっきから似たようなやり取りを繰り返しているが、その都度楯無は同じ言葉を繰り返すのだった。

 

「誰が来るのよ」

 

 

 刀奈がぼやいたタイミングで扉がノックされた。

 

「入りなさい」

 

「失礼します」

 

 

 楯無の言葉に返事をして、当主の部屋に一夏が入ってきた。

 

「一夏君? 貴方もお父さんに呼ばれたの?」

 

「呼ばれた、というよりは、この話は俺がいないと進まない事だと思うので」

 

「そうなの? ところで、何時から『俺』って言うようになったの? 最近まで『僕』だったと思うんだけど……」

 

「本当に最近変えたんですよ。刀奈さんとは最近会う機会が減ってたので気付かなかったんでしょう」

 

「そうなんだ……? 『刀奈さん』?」

 

 

 自分の呼ばれ方も変わっていた事に、刀奈は少しショックを受けていた。本当に最近までは「刀奈ちゃん」と呼ばれていたし、話し方ももっと砕けた感じだったのだが、今は敬語でさん付けに変わっていたのだから仕方ないかもしれない。

 

「話を進めても構わないか」

 

「問題ありません」

 

「ご、ごめんなさい……私も大丈夫です」

 

 

 楯無の言葉に、一夏は平然と、刀奈は慌てながら返事をした。実の娘である刀奈の方が緊張しているのは、些かおかしな気もするが、最近だけで言えば、一夏の方が楯無と顔を合わせている時間が長いのでこの反応も仕方なかったかもしれない。

 

「まずは刀奈、日本代表選考の合宿に参加出来る事が正式に決定した」

 

「ほんと? 良かった。もしダメなら自由国籍を使って何処か他の国選考合宿に参加するつもりだったんだけどね」

 

「適性が高く、小鳥遊と所属が同じ――というか、小鳥遊が仕えている家の人間だという事も加味されたのだろう」

 

 

 碧が更識家に仕えている事は、日本政府も周知の事実だ。その更識家の長女が合宿への参加申請をしてきたので、日本政府としては刀奈は無条件で合宿に参加させるつもりだったのだ。だが贔屓だと思われるのを避けたのか、決定の知らせは他の候補者と同じタイミングだった。

 

「そして、お前は知っているよな。一夏がISを造れる事を」

 

「うん。碧さんの木霊だって一夏君が造ったのよね?」

 

「そうだ。そして今、虚にISの事を教えているのも一夏だ」

 

「そうだったの……虚ちゃんも忙しそうにしてると思ったら、一夏君にISの事を教わってたんだ」

 

 

 学校から帰ってすぐ、虚は一夏にISの事を教わる為に研究所に足を運んでいたのだ。その事は刀奈も知っていたが、まさか一夏にISの事を習っていたのだとは気付けなかった。

 

「虚はお前が代表になった場合、サポート役として加わりたいと言っていてな。今一夏に指導してもらっているのだ」

 

「それで、私がここに呼ばれたのって、合宿に参加出来るって事を教えてもらうためなの?」

 

「いや、それだけじゃない。正式に候補生に選ばれた折には、一夏がお前の専用機を造る事になっている」

 

「……一夏君が、私の……」

 

 

 篠ノ之束がコアを造るのを辞めた所為で、全世界で何とかコアを独自開発出来ないかと研究者たちが躍起になっている事は刀奈も知っていた。そしてここにいる一夏が、そのコアを造る事が出来る事も……

 

「でも、そのタイミングで私の専用機を造ったら、この屋敷の誰かがコアを造れるって事を世界中に知らしめることになるんじゃ……」

 

「小鳥遊の木霊で、既に更識家はコアを独自開発出来るという事は知られている。だが、造る事が出来る個人を特定する事は難しいからな。その辺はお前が心配する事では無いだろ」

 

「俺がコアを造れると知られても、俺の周りには更識の人たちがいてくれますからね。刀奈さんが心配しなくても大丈夫ですよ。それに、俺だってもう簡単に拉致られる事もないでしょうし」

 

 

 最近一夏は格闘術を鍛えだしたので、並みの相手なら自分で対処する事が出来るくらいには身体を鍛えてある。だが相手がISとなると生身ではなかなか厳しい状況になるだろう。

 

「一夏の護衛には碧をつけるから心配するな。相手がISだろうが碧なら対処出来る」

 

「俺がISを使えれば一番なんですけどね」

 

「しょうがないよ。ISは女性にしか使えないんだから」

 

 

 刀奈の慰めに、一夏は軽く頷いてから刀奈を正面に見据えた。見詰められた刀奈は、少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「? 何かあったんですか」

 

「う、ううん……何でも無いわよ」

 

「はぁ……」

 

 

 刀奈と一夏のやり取りを見て、楯無は内心ほっこりとしていた。実の娘と、息子のように思っている一夏が結婚してくれれば、楯無としてはこんなにも嬉しい事は無いと思っていたのだ。

 

「それで、刀奈さん。ISの希望などありますか?」

 

「そうね……」

 

 

 具体的な話を始めた二人に、楯無は興味を二人から書類へと移して、部屋から出て行くように指示した。具体的な話はここよりも研究所の方が良いだろうとの配慮で、一夏も納得して当主の部屋から外へ出たのだった。

 

「一夏君」

 

「何でしょう?」

 

「その喋り方……やっぱり違和感しかないから戻してくれない?」

 

「そのうちなれますよ。俺だって何時までもあんな喋り方をしてるわけにもいかったでしょうし、良い機会ですよ」

 

「何が、良い機会なのよ……」

 

「虚さんだって我慢してくれてるんですから、刀奈さんも我慢してくださいね」

 

「はーい……」

 

 

 不貞腐れながらも承諾した刀奈を見て、一夏は思わず噴き出しそうになったのだった。




こっちの方がしっくりきます

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