暗部の一夏君   作:猫林13世

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やはりお前たちか……


女性恐怖症の原因

 部屋に戻ってきた一夏を、刀奈たちは盛大に出迎えた。さすがに抱き着くのは我慢したが、それでも腕を引っ張って部屋に引っ張り込むあたり、少し興奮気味だったのだろう。

 

「お帰りなさい、一夏君。そして、誕生日おめでとー!」

 

「いっちーおめでと~!」

 

 

 刀奈と本音がクラッカーを鳴らすと、それに続くように美紀と簪と虚もクラッカーを鳴らした。

 

「おめでとう、一夏」

 

「「おめでとうございます、一夏さん」」

 

 

 二人ほどではないが、簪と美紀と虚もそれなりに興奮しているようだった。もしくは、自分の今の格好を気にしないように、無理にテンションを上げているのかもしれないと一夏は全員の格好を見て、そんなことを考えていた。

 

「ホント、先代はこの衣装をどうするつもりだったんでしょうね」

 

「碧さん……その衣装、先代の楯無さんのものだったんですか?」

 

 

 何かするというのは知っていた一夏だったが、それがコスプレで、その衣装の出どころが刀奈と簪の父親で、義父の先代楯無の物だったというのは初耳だった。

 

「お父さんの部屋を整理してたら出てきたんだって、尊さんが言ってたのよね」

 

「……ところで、その恰好は恥ずかしくないんですか? とりあえず、見てる俺は相当恥ずかしいんですが」

 

「ちょっとサイズが小さいかなーとは思うけど、可愛いでしょ?」

 

 

 胸のあたりを見ながらそう言った刀奈に、簪と虚が鋭い視線を向ける。だが刀奈はお構いなしに、一夏にすり寄って感想を求めた。

 

「そんな恰好しなくても、刀奈さんは普段から可愛いですよ。もちろん、簪や虚さんも、本音や美紀もマドカも、ちゃんと可愛いと思ってます」

 

「一夏さん、何故私の名前だけ出ないのでしょうか?」

 

「碧さんは、可愛いというより綺麗ですからね」

 

 

 真顔でそんなことを言う一夏に対し、可愛いと言われた六人は顔を真っ赤に染め上げ、碧は頬を緩めご満悦のようだった。

 

「一夏君、たまにそんな事言うなんてズルいわよ! もしかしてこれも計算なのかしら?」

 

「計算って何です? 俺はただ、普段から思ってる事を――」

 

「だから、そうやってたまに褒められると、こっちはかなり嬉しいのよ! 照れちゃって恥ずかしいの!」

 

「そんなものなんですか? でもまぁ、皆さん可愛いと思ってますし、特に簪なんかは珍しい服着てて、良いと思うぞ。美紀や碧さんの衣装は、ちょっと現実的ではないですが可愛いと思いますし、虚さんのスーツ姿も、日常空間で見ると新鮮だなと思いますよ」

 

「私は?」

 

「ちゃんと可愛いですよ」

 

 

 素面のように思えた一夏だったが、よくよく見ると頬を若干赤らめている。いくら興味が薄いとはいえ一夏も男子だ。これだけの美少女(美女)がコスプレ姿で迫ってきて、無反応でいるほど枯れていないし朴念仁でもないのだ。

 

「あれ? ひょっとして一夏君、照れてるの?」

 

「て、照れてません」

 

「ほんと~?」

 

 

 そう言って刀奈は、一夏との距離を完全に詰め、より強調されている胸の谷間に、一夏の腕を押し当てた。

 

「な、なにやってるんですか!?」

 

「せっかくの誕生日だし、これくらいのサービスしなきゃ。なんなら、直接触ってもいいのよ?」

 

「「黙れ、この痴女!」」

 

「ひゃん!? 痛いじゃないの、簪ちゃんに虚ちゃん」

 

 

 暴走しかけた――というか、完全に暴走した刀奈に、簪と虚がツッコミを入れる。その隙に一夏は、刀奈から離れ美紀と碧の背後に隠れた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ……大丈夫だと思う」

 

「ちょっと退行してません?」

 

「いや……平気です」

 

 

 美紀と碧の問いかけに、辛うじて平静を装って答える一夏。だが内心は、恐怖症が発動しないかびくびくしていたのだった。刀奈相手に発動するようでは、今後生活していくのにも弊害が生じてしまうので、何とか堪えられると自分に言い聞かせているのだ。

 

「お姉ちゃん、さすがにやり過ぎ! 距離を詰めるにしたって、もう少しゆっくりじゃないと一夏は無理なんだからね!」

 

「うん……ゴメンね、一夏君」

 

 

 簪に怒られ、素直に頭を下げる刀奈。その姿を見て、一夏も美紀と碧の背後から移動し、刀奈に頭を下げた。

 

「俺の方こそ、過敏に反応してしまって……刀奈さんも俺の事を考えてくれてるのに、すみませんでした」

 

「いっちーにいろいろしてもらいたいのは、刀奈様だけじゃないんだけどね~。私だってそうだし、かんちゃんや美紀ちゃん、おね~ちゃんに碧さんだって、いっちーに愛してもらいたって思ってるんだよ~。マドマドの感情は、ちょっと私たちとは違うけど、それでもちゃんといっちーの事を想ってるんだよ」

 

「分かってはいるんだが……幼少期に植え付けられたトラウマというのは、なかなか克服出来ないんだよな……記憶は無いが、なんとなく嫌だって気持ちがあるんだよ……」

 

「姉さまに確認したのですが、視線を逸らされてしまって何も分かりませんでした」

 

 

 実は一夏の女性恐怖症は、誘拐だけが原因ではなく、それ以前に受けた千冬と千夏から――たまに束も――受けたセクハラが原因なのだ。その事は一夏も覚えてないし、当時その三人の行為を見ていた箒も、記憶の奥底に封印していて覚えていなかったので、二人とも誘拐が原因だと思っているのだった。

 マドカのセリフを受け、一夏以外の全員は「またあの姉妹が原因か…」と嘆き、何とかして一夏の心の傷を癒そうと心に誓ったのだった。




ショタ一夏にセクハラ三昧だったんだろうな……

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