いよいよ明日に控えた一夏の誕生日に備え、刀奈たちは必要なものを揃え、最終確認をしていた。
「それじゃあ、簪ちゃんが本音の着ぐるみパジャマでいいのね?」
「そっちの衣装を着るくらいなら、本音のパジャマの方が良い」
「じゃあかんちゃんは犬ね~。私はいつも通り猫の着ぐるみパジャマを着るから~」
「あれって猫だったんだ……」
普段から見ているが、簪はあれが何の動物だか理解していなかった。
「虚ちゃんがスーツ、美紀ちゃんがナース服で、碧さんがバニーガールね」
「それで、お姉ちゃんは何の恰好をするの?」
「ん? ネコミミスーツがあったから、私はこれでいいかなーって」
「一夏さん、気絶したりしないでしょうか」
あまり異性に耐性のない一夏は、普段と違う恰好をした刀奈たちでも避けるのではないかと美紀は心配していた。実際ISの実習のスーツ姿でさえ、少し距離を取るくらいなのだ。
「大丈夫よ。一夏君もいつまでもこのままでいいとは思ってないはずだから」
「そうかもしれないけど、距離を詰めるのは一夏のタイミングじゃないの? こっちから一気に詰めようとして、余計に開いたら大変だと思うけど」
「それは……まぁ、大丈夫だと思うわよ。最終的に冗談って言えば、一夏君は許してくれると思うし」
「それはちょっと楽観視し過ぎだと思いますが。一夏さんだって、冗談で済ませるものと済ませないものがありますし、お嬢様の冗談は度が過ぎていると思います」
「そうかな? でも、何時までも一夏君が女性に抵抗を持ったままじゃ、私たちだって困るじゃない? 結婚出来ても子供が出来ないなんてことじゃ、更識家としても問題だし」
更識家当主として、子をなさないのは問題だと刀奈は考えていた。それはその通りなのだが、表現が直接的過ぎて、本音以外は顔を真っ赤にしていた。
「お姉ちゃん、表現が直接的過ぎ。もう少し考えてものを言ってよね」
「そうかしら? 簪ちゃんだって、一夏君に抱かれる想像をしたことくらいあるでしょ?」
「それは……って、そう言う事じゃなくて!」
簪も年頃の少女なので、それくらいの妄想はしたことがあった。だが今はそう言う事を言っているのではないと思い直し、刀奈に詰め寄る。
「お姉ちゃんはもう少し、オブラートに包んだものの言い方を勉強して! 一夏じゃないけど、そういう話が苦手な人だっているんだから」
「そんな事言われても……十分包んでるつもりなんだけど」
「なら、もう一重くらい包む気持ちで話して。お姉ちゃんのオブラートは、私たちが思ってるのより薄いみたいだから」
「分かったわよ……それと、当日はマドカちゃんに時間稼ぎをしてもらうから、マドカちゃんのコスプレは無しになったから」
「今もマドカが時間を稼いでるんだし、それはまぁ仕方ないよね」
本当は自分が時間稼ぎを担当したかった簪だったが、マドカより自然に一夏の側にいられる自信が無かったので、結局は本音の着ぐるみパジャマを着る事になったのだ。当日、顔が赤くならなければいいなと思いつつ、簪は本音から受け取った着ぐるみパジャマを眺めたのだった。
最終確認が行われてる一夏の部屋に、一夏を近づけないために、マドカはアリーナで一夏にISの稽古とつけてもらっていた。
「まだスピードを生かしきれていないぞ。瞬間加速して、敵との距離を詰めてから零落白夜を放たなければ、SEを無駄に消費してしまう」
「はい」
自分を部屋に近づけたくない理由があると、感付いてはいる一夏だが、せっかくマドカがやる気になっているのだから素直に稽古に付き合っていた。そこに静寐たちも加わり、一夏は合計で四人の指導をすることになったのだった。
「やっぱり一夏君に指導してもらえるのとそうじゃないとでは、特訓の進み具合が違うわね」
「そうか? 俺がしてるのはあくまでも指摘だけだから、いてもいなくても変わらないと思うが」
「そんな事ないですよ。一夏さんがいてくれれば、自分の動きのどこがダメなのかが的確に分かりますから。それに、専用機を造ってくれた家の人ですから、少しでも調子が悪ければすぐに見つけてくれますし、メンテナンスもお願いできますから助かってます」
「専用機の調子が悪かったら、多分本人が申し出ると思うが、それ以前に見つけて整備した方が簡単だからな。特に久延毘古は未来予知という常識外れの特性を有しているから、少しでも不具合があると大変だからな。定期メンテナンスは必要不可欠だ」
「静寐の鶺鴒、香澄の久延毘古、そして私のスサノオは一夏君しか整備出来ないからね~。本格的に整備が必要になっちゃうと、当分は使えなくなっちゃうし」
エイミィが笑顔で会話に加わってくると、一夏も苦笑いを浮かべてそれに答えた。
「IS学園で整備するには限界があるからな。更識本家に持って行って整備しないと、本格的なメンテナンスは出来ないからな。定期的に見て、必要とあらば更識に持って行って整備する感じだからな、三人の専用機は」
「私の白式は、束様がメンテナンスしてくださいますから、ラボに足を運ばなければならないのですけどね」
「マドカだけが、束さんの現在地を知ってるからな。万が一聞かれても、誰にも教えるんじゃないぞ」
「分かってますよ、兄さま。そもそも、聞かれたところで言葉に出来るほど器用じゃありませんので。白式のセンサーに従って束様のラボに向かってるだけで、そのセンサーを見るまで場所は分かりませんので」
マドカの答えに苦笑いを浮かべ、一夏は指導を再開するのだった。今日はアリーナを最終まで使えるとあって、一夏の指導にも気合いが入っているとマドカは思っていたのだが、いざ指導が始まると、そんなことを考えている余裕が無いくらい、一夏の指導は厳しかったのだった。
両方、かな……