暗部の一夏君   作:猫林13世

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たまには仕事させないと……


職員室での会話

 ある程度自由に行動できるようになったとはいえ、織斑姉妹は自分たちの失敗を反省し、なるべく寮長室から出ずに生活する事にしていた。もちろん、寮内の見回りや、授業への参加はしっかりとしており、寮内の規律も、しっかりと保たれるようになっていた。

 

「千冬先生、日本政府から亡国機業に関する情報が欲しいと連絡が来ていますが」

 

「無視しておけ。こんな時だけIS学園を頼るような政府は、どうせろくな対応が出来ないに違いないんだから」

 

「ですが、情報を共有しておかなければ、いざという時に連携が取れないと思うのですが……」

 

「その必要はありませんよ、山田先生。更識企業の方から政府へ、必要最低限の情報を流してますから」

 

 

 千冬の答えに食い下がった真耶の背後から、男子生徒の声が掛けられる。振り返るとそこには、大量に書類を抱えた一夏の姿があった。

 

「更識、何か用か」

 

「貴女方が謹慎していた間に溜まっていた書類です。こちらで一応目は通しておきましたので、後は先生方のハンコが必要なだけですので、お願いします」

 

「ああ、すまなかったな。ところで、日本政府に情報を流して、何か得でもあるのか?」

 

「日本政府内にスパイがいれば、すぐにこちらにも分かるように仕向けてありますので」

 

 

 黒い事をあっさりと言い放つ弟に、千冬はため息を堪えられなかった。

 

「一夏、暗部組織の次期当主だから仕方ないが、もう少し高校生らしい感性を身につけたらどうだ? 普通の高校生は、そこまで黒い事を考えられないと思うのだが」

 

「生まれから普通ではないので仕方ないと思いますよ。何せ、身内が貴女方なのですから」

 

 

 世界を大きく変える事件に関わっていた身として、千冬は一夏の皮肉を受け流すことが出来なかった。そこへ見回りに出ていた千夏が戻ってきて、一夏と千冬の会話に加わってきたのだ。

 

「何の話だ」

 

「一夏の考えをどうにか改められないかと思ってな」

 

「一夏の考え? 何かあったのか?」

 

 

 千冬は、一夏が日本政府内に亡国機業とつながりがある人物がいるかどうかを、情報を流す事で調べている事を伝えた。

 

「一夏、さすがに日本政府にスパイを送り込むような組織ならば、それくらいで尻尾を出すとは思えないのだが」

 

「そんなことは知ってますよ。ですが、何回も繰り返せば、いずれ何らかのアクションを起こすでしょうから、そこを叩けばいい。こっちは大した情報は流してないので、アクションが起きなくとも何ら問題は無い訳ですから」

 

「……やはりお前は暗部組織に染まり過ぎている。もう少し普通の感性を身につけるべきだ。そうだ、もうすぐでお前の誕生日だろ。ここは盛大に祝って盛り上がろうではないか」

 

「刀奈さんたちが何か計画しているようですが、俺自身はあまり興味はありませんね。生まれた日と言うだけで別に特別な何かがあるわけじゃないんですし」

 

「お前は本当にズレているな……普通の男子だったら、好意を寄せている相手に祝ってもらえれば嬉しいと思うものだぞ」

 

 

 千冬の指摘に、一夏は思わず首を傾げてしまった。自分が刀奈たちに好意を寄せているのは自覚しているが、それが家族としてなのか、それとも異性としてなのかは、まだ実感が持てていないのだ。

 

「普通はそういうものなのですか?」

 

「だと思うぞ。真耶、お前ならどうだ? 好意を寄せている異性から誕生日を祝われたらどう思う?」

 

「えっ……そういった経験が無いのでよくわかりませんが、たぶん嬉しいと思います」

 

 

 ちらちらと一夏に視線を送る真耶だったが、織斑姉妹に睨まれて視線を前に固定して答えた。その答えを聞いた一夏は、腕を組み少し考え込んでしまった。

 

「……ちょっと考えてみます。それじゃあ、この書類の確認、お願いしますね。期限まで余裕はありますが、あまり溜め込まないようにしてくださいよ」

 

「あぁ待て一夏。日本政府への回答は、更識に任せて良いんだな?」

 

「IS学園宛に来たのなら、IS学園名義で返答した方が良いでしょうが、まぁこちらに任せてもらって構いませんよ。万が一そちらに任せて、余計なことまで報告されたら面倒ですから」

 

「お前は……もう少し我々を信用してくれてもいいのではないか? 人間は失敗して成長するのだから」

 

「失敗続きの貴女方を、誰が信用出来るか教えてもらいたいものですね。前の一件だって、刀奈さんたちはまだ許してないんですよ?」

 

 

 一夏の言葉に、千冬と千夏はそろって居心地の悪さを覚えた。それだけ一夏の視線が鋭く、また余計な事を行ってしまったのではないかという後悔が襲ってきたのだった。

 

「信用されたいのでしたら、まずは結果を残し続ける事ですね。更識所属以外の専用機持ちも、放課後は特訓をしているようですし、そちらの指導をしてみてはどうでしょう? ラウラ辺りは喜ぶと思いますよ」

 

「ボーデヴィッヒはそうだろうが、オルコットや凰には嫌がられそうだ」

 

「自覚があるのでしたら、指導方法を見直すことをお勧めしますよ」

 

 

 苦笑いを浮かべながらそう告げて、一夏は職員室から去っていった。残された織斑姉妹と真耶は、別の意味で居心地の悪さを感じてた。真耶はこの後織斑姉妹が暴走しないかと心配で、織斑姉妹は最後の一夏の言葉を受け、自分たちの行動を反省して。

 

「真耶、お前ちょっと相手してくれるか?」

 

「な、何のですか?」

 

「ISの指導のシミュレーションに」

 

「それは構いませんが、まずは書類に目を通すべきでは」

 

「それは後で寮長室で片づけるから問題ない。今は指導方法の見直しが先だ」

 

 

 織斑姉妹に両腕を掴まれ、アリーナまで引き摺られる真耶。その姿を、職員室に戻ってきた碧と紫陽花は、首を傾げながら見送ったのだった。




どっちが教師なのか分からなくなってきた……

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