暗部の一夏君   作:猫林13世

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決定権を弟に握られている駄目姉たち……


織斑姉妹の処分

 刀奈たちがケーキについて話し合っている間、一夏は碧と一緒に職員室に来ていた。理由は当然、織斑姉妹の処分をどうするかについて話し合うためだった。

 

「今日の授業を見る限り、俺はある程度の自由は認めて良いと思いますけど」

 

「まだ早くないですか? もう数回様子を見た方が良いと思いますけど」

 

「小鳥遊先生の意見はもっともだと私も思います。ですが、何時までも監視するのは、される方もする方も大変ですし、そこはもういいかなと思います」

 

 

 監視の手伝いをしていた紫陽花は、碧の意見を尊重しつつ、織斑姉妹に自由を与えても良いのではないかと主張した。

 

「私は更識君の意見より、小鳥遊先輩の意見の方が良いと思います。この際織斑姉妹には、徹底的に反省してもらった方が、後々の為になると思うんです」

 

「真耶はたんに、織斑姉妹に仕事を押し付けられることなく過ごせてるからじゃないの?」

 

「確かにそれもあります。ですが、私以外にも織斑姉妹から仕事を押し付けられてる子たちがいるじゃないですか。そうですよね、更識君」

 

「まぁ、生徒会にも何回か仕事を押し付け――頼みに来たことはありますが」

 

 

 あえて言い直したのは、一夏にとってあれは自分が担当してもおかしくなかった案件だったからであって、気持ち的には押し付けられたと思ってしまうような頼まれ方だったのだ。

 

「最終判断は一夏さんが下せばいいので、私たちの意見はあくまでも参考です。それを踏まえたうえで、一夏さんは織斑姉妹をどうしたいですか?」

 

「どうしたいかと聞かれても困りますが、今日の授業を見る限り、暴走はしないでしょう。経過観察はもちろんしますが、ある程度の自由と、監視からの解放はしていいと思います」

 

「分かりました。私は一夏さんの意見を尊重します」

 

「もちろん、また何かした時はもっと重い処分を下すと言い含めておきますので、そうそう問題を起こすことは無いと思いますよ」

 

 

 そのように言い、一夏は真耶と紫陽花の顔を見た。二人とも納得はしていなさそうだったが、長い目で見る事には賛成のようだった。

 

「では、織斑姉妹には俺と碧さんから伝えておきますので、山田先生と五月七日先生はお疲れ様でした」

 

「はい、更識君も頑張ってくださいね」

 

 

 真耶と紫陽花と別れ、一夏と碧は織斑姉妹がいる寮長室へと向かった。今の時間は、監視もついていないので抜け出そうと思えば簡単に抜け出せたのだが、織斑姉妹は大人しく部屋で正座していた。

 

「失礼しますよ」

 

「あぁ、一夏か。何の用だ」

 

「分かっているのでしょう? 監視がついていないのに大人しくしてたのは、沙汰が下るのを理解していたからとしか考えられませんし」

 

「下手に暴れて、心証を悪くするのを避けただけだ」

 

 

 素直じゃない姉妹の態度に、一夏はため息を覚えたが、ぐっとこらえて足の踏み場の無い寮長室へと入っていった。

 

「少しは掃除したらどうです?」

 

「無駄ですよ、碧さん。この人たちが掃除しようとしても、逆に散らかるだけだと先代の楯無さんから聞きましたから」

 

 

 それも原因で、一夏は織斑家から更識家へと移ったのだ。その事を思い出した織斑姉妹は、苦々し気な表情を浮かべた。

 

「さて、貴女方の処分ですが……とりあえずは監視を外しますし、ある程度の自由も認めます」

 

「それで?」

 

「もちろん、完全に自由というわけではありません。何か問題を起こせば、すぐにまた今の生活に戻ると覚悟してください。それから、一応俺と碧さんで気配を把握しておきますので、気配を消して移動する事は禁止です」

 

「その程度なら問題は無い。だが一夏、本当にそれだけでわたしたちを解放してくれるのか?」

 

 

 千夏の言葉に、一夏は首を傾げた。

 

「解放? 俺は貴女方を監禁した覚えはありませんよ。トイレや風呂、食事の際には自由を認めてましたし、授業にも参加させると言っていたはずです。それを勝手に引きこもったのはそちらが原因でしょうが」

 

「それは……確かにそうだが、四六時中監視されていると、一歩も外に出たくなくなるものだぞ」

 

「監視されるような事をしたからいけないんじゃないでしょうか。そもそも俺だって、貴女方が監視を怠った所為で数日間保健室に軟禁されたんです。それくらいは我慢してください」

 

 

 一夏の切り返しに、千冬も千夏も反論の言葉を失ってしまった。一夏の言った通り、自分たちがオータムの監視を疎かにした所為で、一夏は怪我をし、自分たちは更識所属の面々からキツイ視線を向けられたのだ。

 

「亡国機業がいつ攻めてくるか分からない以上、貴女たちのような人でも戦力として計算しなければならないのです。もちろん、指導者として、更なる戦力を鍛え上げるのも貴女たちの仕事ですからね。くれぐれもやり過ぎないようにお願いします」

 

「分かってるとは思いますが、やり過ぎた場合は今回のような処分で済まないと思っていてくださいね。いくら世界最強の姉妹とはいえ、許されない事はありますので」

 

 

 最後に碧が釘を刺し、一夏と碧は小汚い寮長室から出て行った。残された織斑姉妹は、解放された喜びと、次は無いという脅しの板挟みで、どのように反応して良いのかに悩んだが、とりあえずは喜ぶべきだと思い互いに手を高く上げ、ハイタッチをして喜びを表現したのだった。

 

「とりあえず今日は飲むか」

 

「そうだな。羽目を外し過ぎない程度に飲むか」

 

 

 冷蔵庫からビールの缶を取り出し、とりあえず解放された事で乾杯をし、一気に飲み干して喜びを噛みしめたのだった。




とりあえず、解放する方向にしました

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