暗部の一夏君   作:猫林13世

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真面目になるのだろうか……


織斑姉妹の復帰

 追加で一日反省した織斑姉妹は、実技の授業の為にアリーナを訪れていた。普段は持ち歩かない専用機の『暮桜』と『明椛』を装着し、万全の状態で授業に臨んでいる。

 

「普段からそのくらいやる気を見せてくれれば、謹慎になんてならなかったんですけどね」

 

「一夏……嫌味はよしてくれ。私も千夏も、十分反省したんだ」

 

「反省出来たかどうかを判断するのは我々です。まだ当分の間は監視をつけさせてもらいますが、今日の授業の成果によっては、自由行動を認めないでもないです」

 

「そうか。なら、より気合いを入れて授業に臨まなければ」

 

 

 気合いを入れる姉妹を見て、一夏は念のために釘を刺すことにした。

 

「気合いを入れるのは良いですが、夏休みの時のように、カリキュラム以上の事をしないでくださいよ? 過剰訓練は怪我の元ですから」

 

「分かっている。それに、小鳥遊も監視してるんだろ? さっきから視線が突き刺さっている」

 

「俺はあくまでも生徒として授業に出るだけです。美紀や本音も同様に。となると監視は碧さんになると、分かりそうなものですが」

 

「我々はそこまで信用を失ったんだと、漸く理解した。だが、あんまり鋭い視線を向けられると、思わず攻撃したくなるから気をつけろ」

 

 

 単純な攻撃力なら、織斑姉妹に敵う人間はIS学園に存在しない。頭脳戦でもある程度は善戦する織斑姉妹だが、その本質は圧倒的な攻撃力とスピードだ。その織斑姉妹が思わず攻撃したくなると言う事は、理屈ではなく単純な力任せな攻撃になるだろう。一夏はそう理解し、碧に視線を少し柔らかめにするように指示を出した。

 

「我が家の貴重な戦力を削がないでいただきたい。IS学園としても、小鳥遊先生を欠くのは困りますからね」

 

「お前は何処まで大人な考えをすれば気が済むのだ。たまには年相応な反応を見せてくれてもいいじゃないか」

 

「生憎、どんな反応が年相応なのか分からないものでして。同性の同年代が周りにいませんし、悪友二人も平均的な反応は見せないようですし」

 

 

 弾と数馬は、思春期過ぎるのではないかと鈴から聞いている一夏は、あれが平均だと思わないようにしているのだ。だから一夏は、どんな反応が年相応なのかが分からない。その事を理解した姉妹は、そろって小さくため息を吐いたのだった。

 

「お前の人生を狂わせた側の人間が思う事ではないのかもしれないが、もう少し普通でいる事を心掛けてくれ」

 

「お前が更識の中で重要なポジションなのは、わたしたちも理解してるつもりだ。だが、もう少し高校生らしさを身につけても良いと思うぞ。高校生らしさなら、周りに見本はいくらでもいるだろうし、少し考えてみたらどうだ」

 

「そうは言われましても、IS学園に在籍してる人間が、普通の高校生なのか甚だ疑問なのですが……まぁ、善処してみましょう」

 

 

 一夏がそう返したところで、他の生徒たちも着替えを済ませてアリーナへ現れ始めた。それを見た織斑姉妹は、再び気合いを入れて授業に臨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、一夏が生徒会の業務で職員室に行っている間、刀奈は虚と本音、そして手伝いとして生徒会室に来ていた簪と美紀に相談を持ち掛ける。

 

「一夏君の好みだけど、普通のフルーツケーキで良いのかな? それとも、チョコレートケーキ?」

 

「そこはお姉ちゃんと本音の好みで良いと思うけど」

 

「そもそも一夏さんは、あまり甘いものを食べませんから。チョコレートケーキにすると、食べてもらえない可能性があると思いますよ」

 

「じゃあ、甘さ控えめなレモンケーキはどうかしら」

 

「えー! せっかくなんですから、甘い方が良いですよー!」

 

「それは本音の好みでしょ。今回は、あくまでも一夏さんに食べてもらうためのケーキです。本音の好みで選んでも、一夏さんが喜ぶとは限りません」

 

「そうだけどさ~」

 

 

 虚に窘められ、本音は不満ながらも引き下がった。虚が言った通り、今回のケーキはあくまでも一夏の為であって、本音を喜ばせる為のものではないのだ。

 

「チーズケーキでも良いけど、レアとベイクド、どっちが好きなのかも分からないし……こうして改めて思うと、私たちって一夏君の好物とか知らないのよね……」

 

「一夏は基本的に何でも食べるから、好き嫌いが分かりにくいんだよ。甘いものだって、出されれば食べるからね」

 

「そうなのよね……でも、せっかくだし、一夏君に喜んでもらいたいじゃない。コスプレだけじゃ物足りないと思うし、ケーキも一夏君好みに仕上げたいもの」

 

「……一夏さんがコスプレを見て喜ぶとは思えませんが」

 

「おね~ちゃん、いい加減諦めなよ~。刀奈様が決めたんだから、従者の私たちは従うだけだよ」

 

「……普段そんな事言わないくせに、こういう時だけは」

 

 

 本音の言い分はもっともだと、虚も理解している。主が間違っていると思っても、従者として逆らうわけには行かないのだ。まぁ、普段は主に物を言いまくっているので、こういう時は逆らわずに従うのも仕方ないと思ってしまったのが間違いだったと、虚は数日前の自分を激しく恨んだのだった。

 

「野菜ケーキっていうのはどうかな?」

 

「いくらなんでもそれは、奇を衒い過ぎてると思うよ。普通にショートケーキで良いと思うよ。一夏も作ってもらったものに文句は言わないだろうし」

 

 

 簪のこの一言で、刀奈と本音が作るケーキは、イチゴのショートケーキに決定した。材料は前日に買い求める事になっているので、必要なものをメモして、当日まで虚が保管する事になったのだった。




とりあえずは反省終了

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