暗部の一夏君   作:猫林13世

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亡国機業と誕生日と、同時進行は難しい……


更識家からの報告

 一夏の誕生日を週末に控え、刀奈たちは一夏に内緒で準備を進めていた。ケーキの材料を買い求めたり、実家から出てきた衣装をこっそりIS学園に持ち込んだりと、非常に怪しい動きなのだが、その動きが一夏にバレないよう、誰か一人が必ず一夏についていたのだった。

 

「一夏さん、お父さんから一夏さんに伝えたいことがあると」

 

「楯無さんが? 分かった」

 

 

 今日は美紀が一夏についていて、ちょうどそのタイミングで一夏に尊から電話が入ったのだった。

 

「はい、代わりました」

 

『こちらから日本政府に注意を促したのですが、IS学園の事はIS学園で処理すべきだという返答でした。政府からの追加での護衛は残念ながら』

 

「元より期待していませんので。その返答も予想の範囲ですし、政府がそのような態度なら、こちらも相応の態度で返すのみです」

 

『今後政府の申し出は断る方向でよろしいですね』

 

「その対応で構いません。IS学園と更識は、今後日本政府の申し出は受けない方向でお願いします」

 

『承知しました。それから調査の結果ですが、元倉持技研所属の技術者の内、実に九割以上が所在不明でした』

 

「やはりそうでしたか……一割以下の技術者で、倉持技研の内部情報に詳しい者はいませんでしたか?」

 

 

 一夏の問いかけに、尊はため息を吐いて答えた。

 

『残念ながら、その一割以下の人間は技術者とは名ばかりの駆け出しでしたので……雲隠れした際に切り捨てられた者たちですので』

 

「詳しい内情は知らない者たち、と言う事ですか……そこらへんは抜かりないのですね」

 

『マドカちゃんの情報を元に調べたのですが、どの派閥にその技術者たちが流れ込んだのかも特定は出来ませんでしたが、おそらくは独立派だと思われます』

 

「そうでしょうね。俺を襲ったオータムがその派閥なのですから、その機体を調整している時点で、倉持技研の技術者は亡国機業内の独立派に手を貸しているのでしょう」

 

『誰か一人、そちらに派遣出来ればいいのですが……』

 

「更識がこれ以上手薄になるのは避けた方が良いですし、IS学園に派遣するとしても、そう簡単に手配出来るものでもありませんしね」

 

 

 苦笑いを浮かべた一夏と、ため息を吐く尊。表と裏、当主として同じ悩みを抱える二人の会話は、自然と暗いものへと進んでいった。

 

「篠ノ之箒については、何か分かった事はありますか?」

 

『残念ながら……亡国機業については、更識の諜報力を以ってしてもなかなか……IS学園の近くに一つ、拠点らしき場所がある程度しか分かっていません』

 

「その場所ですが、念のためこちらで調べた方が良いと思うので、位置情報を後程美紀の携帯に送っておいてください」

 

『分かりました。では、娘に代わってください』

 

 

 報告は終わったので、一夏は美紀に携帯を返し、自分は今の情報から新たな何かを見つけ出す為にパソコンに向かった。

 

『美紀、一夏君の誕生日の件は黙っておいた方が良いのか?』

 

「お願い。刀奈お姉ちゃんが気合入ってるから。一夏さんにバレないように動いてるんだって」

 

『分かった。それから、一夏君に頼まれた位置情報、後で送っておくから』

 

「分かった。てか、一夏さんに直接送ればいいんじゃないの?」

 

『機密性が高いからな。一夏君の携帯に直接送ると、調べられる確率が高くなる。美紀に送る分には、娘に送るメールと偽装出来るからな』

 

「いい加減その手も使い古したと思うけどね」

 

 

 そう言いながらも、別の案があるわけじゃないので、美紀も大人しくそれに従うのだった。

 

『暗号化するにしても、法則性を見破られると使えないからな』

 

「そもそも、本音が覚えられないって」

 

『そうだな。まぁ、そう言うわけだから、くれぐれも更識所属の人間以外に携帯は貸さないように』

 

「分かってます」

 

 

 そうして、美紀と尊は同時に電話を切り、それぞれの仕事に戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏が襲われてから、静寐や香澄、エイミィと言った外部から更識所属となった面々は自主訓練の回数を増やしていた。少しでも一夏の手助けが出来ればという思いと、足手纏いにならないようにという思いから、一夏や他のメンバーの予定が合わなくても、この三人で特訓しようという事になったのだ。

 

「やっぱり、三人だと出来る訓練の制限が掛かっちゃうわね」

 

「布仏さんに手伝ってもらえないでしょうか。彼女は更識所属でも、比較的暇だと聞いていますけど」

 

「でも、本音が加わってもね~。実力は十分だけど、やる気がね」

 

「それはあるわね。本音の実力は一夏君も認めてるけど、やる気の無さを嘆いていたもの」

 

 

 訓練の休憩中、三人はもう一人くらい訓練に呼びたいと話し合っていた。タッグ戦の訓練をしようにも、三人ではどうしても出来ないものがある。連携の確認くらいなら問題ないが、実戦形式で戦おうにも、この三人は一人で二人分の動きが出来る人間はいないのだ。

 

「ボーデヴィッヒさんかオルコットさんにもで頼んでみましょうか」

 

「それだったら、デュノアさんの方が連携訓練には向いてると思うけど」

 

「皆さん、そろそろアリーナ使用時間が終わりますよ」

 

 

 話し合ってるうちに大分時間が経ってしまったらしいと、ナターシャに言われ気づいた三人だったが、もう一つ気づいた事があった。

 

「そうだ! ナターシャさん、明日から特訓に付き合ってください」

 

「それは良いですけど、私はIS操縦から二ヶ月くらい離れてるのですが」

 

「大丈夫ですって。いきなり本番なんて事はしませんから」

 

 

 静寐に押し切られ、ナターシャは特訓に付き合う事を了承した。これで四人になったので、明日からは訓練の幅が広がると、三人は喜んでアリーナから寮へと戻っていったのだった。




ナターシャさんはどうしよう……

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