一夏が更識の用事で席を外してる間に、刀奈たちは一夏の誕生日の計画について話し合う為、一夏の部屋に集まっていた。
「何でこの部屋なんですか? 一夏さんがいつ戻ってくるか分からない以上、簪ちゃんたちの部屋の方が良かったのでは……」
「一夏君のベッドにもぐりこむ――じゃなくって、一夏君の生活空間で考えた方が良い考えが出てきそうだったからよ」
本音が漏れかけた刀奈に、虚がジト目を向けたが、すぐに無駄だと理解して視線を元に戻した。
「一夏はあんまり興味なさそうだったけど、せっかくだからお祝いしたいよね」
「いっちー、誕生日なんて年をとるだけだろって言ってたもんね」
男子高校生にはありがちな態度なのだが、生憎この学園には一夏以外の男子は存在しないので、そのありがちは通用しないのだ。ましてや好意を寄せている相手の誕生日なら尚更だろう。
「ケーキを作ってあげるって言うのはどうかしら?」
「お姉ちゃんと本音は出来るかもしれないけど、私たちはそんなに料理得意じゃないよ」
「じゃあ身体にリボンを巻いて――」
「却下」
「せめて最後まで言わせてよ……」
ボケを途中で潰され、刀奈はしょんぼりとしてしまう。だが簪はそれに付き合うことはせずに、他の案を刀奈以外に求めた。
「美紀や虚さんは、何か意見ある?」
「普通にお祝いするだけでも十分だと思いますけどね。あまり派手にすると、一夏さんがかえって嫌がるかもしれませんし」
「こういう時、血縁のマドカがいてくれれば一番良かったんだけどね」
「珍しく一夏さんがマドカさんを連れて行きましたからね……」
元亡国機業所属のため、更識で話し合う時に役に立つだろうと考えた一夏が、今日は護衛にマドカを指名したのだった。そのような事情でも、一夏の護衛が出来ると言う事で、マドカは喜んで一夏と一緒に更識本家へと向かったのだった。
「碧さんも運転手として行っちゃいましたし、お姉ちゃんはこんなですし……」
「こんなって酷くない!? 簪ちゃんはお姉ちゃんの事、どう思ってるのよ」
「真面目に考えないのなら、大人しく織斑姉妹の監視でもしてたら? 五月七日先生だって忙しそうだし、お姉ちゃんが監視すれば、先生も仕事出来るんだから」
「だって私は監視のローテーションに組まれてないし、もう監視しなくても大人しくしてるんでしょ? だったら紫陽花さんも監視から外れて仕事すればいいじゃない」
「それを判断するのは、お嬢様ではなく一夏さんと碧さんのお二人ですので。五月七日さんもその事を理解しているから監視しているのですよ。お嬢様のように無責任に仕事を放棄するような方ではないのでしょう」
虚に毒吐かれ、刀奈は強引に話題を変える事にしたのだった。
「織斑姉妹の監視は、後で一夏君に相談する事にして、それよりも一夏君の誕生日よ。本当に何をするか決めないと、当日に間に合わないかもしれないじゃない」
「じゃあ、ケーキはお姉ちゃんと本音が用意するとして、私たちは一夏をもてなせばいいんじゃない? そうすれば、お姉ちゃんたちも得意分野で活躍出来るし」
「……それって、他では活躍してないみたいに聞こえるんだけど?」
「だって、お姉ちゃんたちが一夏をもてなそうとしても、自分たちが楽しむだけでしょ? だったら得意な料理で一夏をもてなした方が、平和に過ごせると思うけど」
「ですが簪お嬢様、お嬢様と本音を二人で作業させても、一向に進まない未来しか見えないのですが」
普段から仕事を放り出している刀奈と、最初から生徒会室に現れない本音を二人きりにして、仕事をする未来が見えないのは仕方ないだろう。だが得意分野なら少しはまともに仕事すると考えていた簪は、その事をすっかり失念していたのだった。
「じゃあ、誰か監視に付けるしかないですね……でも、お姉ちゃんと本音を同時に御せる人なんて……虚さん、お願い出来ますか?」
「致し方ありませんね。作業では貢献出来ませんが、監視としてしっかりと役目を果たしたいと思います」
刀奈と本音を同時に相手して、問題なく事を運べる人間など、一夏を除けば虚しかいなかった。本当は虚も一夏をもてなす側が良かったのだが、自分で言い出した手前引くに引けず、また簪から頼まれたら断る事は出来なかったのだった。
「じゃあせめて、簪ちゃんたちが何か衣装を着て一夏君をもてなすのはどうかしら?」
「それだったら、私の着ぐるみパジャマがありますよ~」
「それもいいけど、せっかくだから私が用意するわ。とっておきの衣装をね」
「刀奈お姉ちゃん、用意するのは良いけど、せめて一夏さんに怒られないものにしてね? 私たちまで怒られるのは嫌なので」
「何で怒られる事が前提なの!? 私だってそれくらい用意できるわよ!」
「じゃあ参考までに、お姉ちゃんはどんな衣装を用意するつもりなの?」
簪が問いかけると、刀奈は胸を張って答えた。
「バニーガールにナース服、ミニスカポリスに……」
「オジサンみたいな趣味だね……」
「この間お父さんの部屋の掃除をしてたら出てきたって、尊さんから電話があったから」
「お父さん……」
何故そのような衣装が出てきたのか、簪は追及する事を避けたのだった。故人の名誉を守る為にも、使用目的を問いただす事は避けるべきだと、この部屋にいる全員が思いを同じにして、それ以上その話題に触れる事は無かったのだった。
「それじゃあ、その衣装で一夏君をもてなす事にしましょう。異論はないわね?」
「……もう衣装があるんじゃ仕方ないもんね」
簪の言葉は、一種の諦めとそれ以上真相に近づかない為のものだった。全員諦めて頷き、一夏の誕生日に備える事にしたのだった。
何であったのかは追及しない事に……