暗部の一夏君   作:猫林13世

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どっちが年上だか……


誕生日の話題

 一夏も刀奈も本格的に生徒会業務に復帰したが、まだ心配なため美紀もその業務を手伝っていた。仕事量は美紀が一人で片づけていた時よりも少ないが、それでも大変な思いをしていたのだった。

 

「一夏さんも刀奈お姉ちゃんも、何時もこんなことをしてたんですね」

 

「そうよ。凄いでしょ」

 

「……お嬢様は一夏さんや私に仕事を投げつけて、たまに抜け出してたじゃないですか」

 

「たまによ、たまに。普段はちゃんとやってるんだから」

 

 

 美紀に言い訳を始めた刀奈だったが、その背後で一夏が苦笑いを浮かべているのを美紀が見た事で、刀奈は普段から抜け出しているのだと美紀の中で決定づけられた。

 

「そ、そう言えば一夏君。そろそろ誕生日だけど、何かしてほしい事はあるかしら?」

 

「凄い勢いで誤魔化しましたね」

 

 

 虚がジト目で刀奈を見つめるが、刀奈は一切虚の方を見ようとはしなかった。見られていると分かっているから、意識的に無視しているのは、誰の目にも明らかだったので、誰もツッコミは入れなかった。

 

「誕生日? そう言えばそんなものもありましたね」

 

「一夏君ってそういった記念日とかに無頓着よね……」

 

「生まれた日ってだけで、他は普通の日と大差ないですからね」

 

 

 興味なさげに書類整理を続ける一夏を見て、刀奈は視線を美紀と虚に移し、肩を竦めてため息を吐いた。

 

「一夏君、ドライなのは良いけど、少しは行事に興味を持った方が良いわよ?」

 

「行事って、俺の誕生日にかこつけて、刀奈さんたちが騒ぎたいだけじゃないんですか?」

 

「そ、そ、そ……そんなこと無いわよ?」

 

 

 図星を突かれた刀奈は、明らかに嘘を吐いてますと言わんばかりに言葉を詰まらせた。その反応を見て、一夏はますます呆れた態度で刀奈を見つめる。

 

「騒ぎたいならご自由に。ですが、俺は参加しませんからね」

 

「そんなこと言わないでさ~。本音や簪ちゃんだって楽しみにしてるんだから」

 

「本音は兎も角、簪は珍しいですね、確かに」

 

「でしょ! だから一夏君も――」

 

「誕生日なんて喜んでる場合でもないですし、めでたいと思う歳でもないでしょう。今は亡国機業に備えなければいけないんですから、刀奈さんもしっかりと働いてください」

 

 

 あくまで興味を示さない一夏に、刀奈は遂に泣きそうになった。最初は演技だろうと思っていた一夏だったが、無視し続けても泣きそうな顔を止めないのを気配で察知し、もしかして本当に泣きそうになってるのではないだろうかと疑い始めた。

 

「お嬢様、さすがに泣くのは……」

 

「泣いてないわよ! 仕事をすればいいんでしょ! それじゃあさっさと終わらせて、一夏君に強制的に参加してもらうんだから!」

 

「何怒ってるんですか……」

 

「怒ってないわよ!」

 

 

 刀奈の態度を見て、虚と一夏は「どっちが年下だか分からない」と思っていた。実際一夏の方が大人の中で生活してる分、纏っている空気や言動が大人っぽいので、刀奈の方が年下に見られがちなのは理解している。だが態度までこうでは、刀奈が年上だと知っている二人でも疑ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪と本音は、織斑姉妹の部屋の監視を行いながら一夏の誕生日の事を話していた。

 

「いっちーの誕生日、何をすることになるのかなー?」

 

「お姉ちゃんの事だから、また斜め上な事を提案してくると思うけど」

 

 

 とりあえず監視はしているが、今日は殆ど動きすら見せない織斑姉妹の事を、簪は少し心配していた。昨日一日外に出てみて、思ってた以上に凹んでたので、碧が追加で謹慎させ立ち直らせる時間を設けたのだが、本当に立ち直ってるのかが不安でたまらなかった。

 

「いっちーの誕生日のお祝いって、小学生の頃以来だっけ?」

 

「一夏、あんまり騒がしいの好きじゃないし、その頃からISの開発・研究に携わっていたから、家にいない事も少なくなかったからね」

 

「でも、こうして全員揃ってるんだから、今年はお祝いしたいなー」

 

「そうだね……でも、問題山積み状態だから、今年も難しいかもしれないよ」

 

 

 亡国機業の件だけならまだしも、そこに元IS学園所属の人間がいると判明してしまったので、その対処もしなければいけなくなってしまったのだ。一夏が迅速に動いたお陰で、サイレント・ゼフィルス強奪事件前には除籍になっていたからまだいいが、それでもIS学園に対する抗議の文書がイギリスからひっきりなしに送られてくるのだった。

 

「悪いのはシノノンで、IS学園は一切の責任を負わないって言えばいいだけじゃないの?」

 

「正論で納得できるなら、抗議の文書なんて送ってこないわよ。イギリスとしては、IS学園に非を認めさせ、更識企業の援助を受けようとしてるんじゃないかって一夏が言ってたけど」

 

「セッシーのデータが思ってたほど役に立たなかったんだってね。頑張ってるけど、期待値がそれ以上なんだろうっていっちーが言ってたけど」

 

 

 何処の国も開発戦争に負けない為、高い技術力を持っている更識の援助が欲しいのだろうと、簪も本音も理解している。そこに篠ノ之箒が事件に関わっていた疑いが強まったのを受け、イギリスはIS学園の監督不行き届きを指摘し、IS学園の背後にある更識企業にサイレント・ゼフィルスに代わるISを開発するのを手伝ってもらおうと考えているのだった。

 

「そもそも、イギリスにはコアがもうないんじゃないの?」

 

「更識企業に造ってもらおうと思ってるんじゃないの~? まぁ、そんなことしても、他の国から集中砲火を浴びるだけだと思うんだけどね~」

 

 

 本音の言葉に、簪も同意してこの話題を終わらせることにした。部屋の中には織斑姉妹の気配があるが、先ほどからピクリとも動かないのが、簪には不気味に思えていたのだった。




織斑姉妹は結構大人しくしてます……

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