暗部の一夏君   作:猫林13世

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織斑姉妹がいないため、授業が脱線しほうだいに……


別の問題

 とりあえず復帰した一夏だったが、まだ若干の痛みが残っている為、美紀を監視に付け実技の授業は休むことになった。

 

「別に監視なんてなくてもいいから、美紀は授業に出て来たらどうだ?」

 

「駄目ですよ。虚さんから頼まれましたし、一夏さんは目を離すと無茶をする傾向がありますから」

 

「そんなことは無いと思うんだが……」

 

「だいたい、昨日だって保健室から部屋に戻ってきてすぐにあれだけの情報を端末に打ち込んで、家との連絡やら政府への注意喚起だとかいろいろやったんですよ? あれで無茶してないとでも言うんですか?」

 

 

 珍しく強気に責めてくる美紀に、一夏は素直に頭を下げる。自分では無茶してるという感覚ではなかったのだが、全て終わって美紀にベッドに押し倒された時、全身に疲れを感じたのだから仕方なかっただろう。

 

「ですから今は、ゆっくりと休んでくださいね」

 

「そう言っても、生徒会の方でも仕事が溜まってるし、亡国機業に関して注意を促した事によって、警備会社から学園の警備を担当したいという売り込みが殺到してるらしいしな……その対処もしなければいけないし」

 

「そんなことは、学園長に任せれば良いんです。普段は仕事を生徒会に丸投げしてるんですから、こんな時くらい働かせたって罰は当たりませんよ」

 

「そう…だな……」

 

 

 そう言って一夏は携帯を取り出し、轡木の番号に電話を掛け、警備会社への断りの連絡を頼むと告げる。轡木も一夏の状態は理解しているので、今回は素直に一夏の申し出を受けたのだった。

 

「これで残るは日本政府からの介入を阻止する対策を練るだけだな」

 

「それは放課後、生徒会室ですればいい事ですよ」

 

「分かってはいるんだが、少しくらい考えておかないと不安でな。虚さんは兎も角、刀奈さんが真面目に考えてるとは思えないから」

 

「刀奈お姉ちゃんも病み上がりですし、頭脳労働は虚さんや一夏さん、そして簪ちゃんに任せてましたからね。苦手というわけじゃないんでしょうが、どうも刀奈お姉ちゃんは難しい事を考えるのは避けるんですよね」

 

「俺がいなかったら次期当主だったわけなんだから、もう少し考えてくれてもいいと思うんだがな」

 

 

 周りに人がいなくても、次期当主という表現を使う事を忘れない一夏と美紀。他のクラスは普通に授業中で、万が一会話を聞かれていた時に備えての措置なのだが、他の更識所属の面々から言わせれば警戒し過ぎなのだ。

 

「そう言えば、織斑姉妹の監視はどうなってるんだ?」

 

「今の時間は五月七日先生が担当してくれてますよ。山田先生も碧さんも授業中ですから」

 

「実技の担当は織斑姉妹だった気がするんだが……」

 

「今日一日は部屋で反省してもらって、明日から現場復帰らしいですよ。昨日些か凹み過ぎて授業にならなかったので、その事も反省してもらうそうです」

 

「何があったんだ……」

 

 

 昨日の授業では、何時ものキレが鳴りを潜め、指導にも身が入っていなかったのだ。それを見た碧は、今日一日で心の整理を付け、明日からしっかり指導させるように再び謹慎を轡木に進言し、それが採用されたのだ。

 

「織斑姉妹はこうして反省させられるが、篠ノ之博士はどうしようも無いからな……電話も通じないし」

 

「反省はしてると思いますよ? 何せ自分たちの所為で一夏さんに大怪我を負わせたんですから」

 

「そんな殊勝な人だとは思えないがな」

 

 

 そう言って一夏は、背もたれに身体を預け身体を休める事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑姉妹の代わりに実技を担当した真耶は、己の力不足を実感したのだった。碧がフォローしてくれたから何とかなったものの、自分一人では確実に授業にならなかっただろうと実感していた。

 

「すみません、小鳥遊先生。私がふがいないばかりに……」

 

「真耶は生徒と年も近いし、見た目も幼い感じだから親近感を覚えられてるからね。どうしても脱線しがちになっちゃうのは仕方ないと思うわよ」

 

「ですが、小鳥遊先生はしっかりと生徒との距離感を保ってますし、私より一つ下の紫陽花だってしっかり教師をしてるんですよ? なのに何で私だけ……」

 

「さっきも言ったけど、真耶は幼く見えるからだと思うわよ? それと、あまり強く物を言えないって知られちゃってるから、余計な事を言っても強く怒られないって思われてるとかかしら」

 

 

 碧の指摘に、真耶は更にガックリと肩を落とす。見た目は変えようもないし、強く出られないのも事実だ。教師として不慣れながらも精一杯務めていても、どうしても注意する時には生徒に気を使い過ぎてしまうのだ。

 

「どうやったら上手く注意出来るのでしょうか」

 

「そうねぇ……一夏さんに相談してみたらどうかしら」

 

「更識君にですか? でも、生徒に相談するのはどうなんでしょう……」

 

「私だって一夏さんに相談したりしますし、問題ないと思うわよ? それに、織斑姉妹なんて一夏さんに怒られてるんだから、生徒と教師なんて気にしなくて良いと思うけど」

 

 

 一夏が織斑姉妹を怒るのは、一夏以外にまともに怒れる人間がいないからだ。文化祭の時みたいに、一夏の身に何か起きた時なら碧も強気に出れるのだが、普段はどうしても注意かツッコミの範疇から抜け出せないのだった。

 

「そうですね。後で更識君に相談してみます」

 

「そうしなさい。あっでも、今日は一夏さん、放課後は生徒会室で話し合いがあるからって言ってたから、下校時間過ぎてからじゃないと時間は無いかもよ」

 

「そうですか……じゃあ、明日にでも相談してみます」

 

 

 真耶が前を向けたのなら、これで良かったのだろうと碧は判断し、職員室に向かう前に織斑姉妹のところへ寄ると告げ、真耶と別れたのだった。




実力者なんですけどね……

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