暗部の一夏君   作:猫林13世

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敵になると厄介さが倍増してるような……


一夏の不安

 生徒会室から戻ってきた美紀は、部屋に人の気配があるのに首を傾げた。美紀はまだ、一夏が戻ってきている事を知らないから、本音が遊びに来たんだと思い、軽い感じで話しかけた。

 

「本音、そんなに暇だったの?」

 

「まぁ暇だったな。何も出来なかったんだから」

 

「い、一夏さん!? もうこっちに戻ってきて大丈夫なんですか?」

 

 

 軽く話しかけた事を後悔しながらも、一夏の身体を心配する美紀。そんな美紀に、一夏は大丈夫だと安心させるように笑いかける。

 

「元々大した怪我じゃないんだから、あそこまで安静にする必要は無かったんだが」

 

「そんなことありません! 十分大怪我だったんですから、今も無理はしないでくださいよ!」

 

「あ、あぁ……気を付ける」

 

 

 美紀の剣幕に、一夏はそう答えるしかなかった。心配されているとは分かっていたが、まさかここまで心配しているとは思っていなかった一夏は、自分の考えの甘さを反省した。

 

「ところで、そのデータはなんですか?」

 

「俺が見た限りの、亡国機業の人間――オータムの専用機のデータだ」

 

「……見ただけでここまで解析出来るんですか?」

 

「たまたま見たことあった特徴があったからだ。まったく知らなかったらさすがにここまでは出来ない」

 

 

 そう言いながら、一夏は解析データを美紀に見せる。それを見て理解出来るだけの知識は、美紀も持ち合わせているのだ。

 

「随分と火力に特化してる気がしますが、それだけ自信があるという事でしょうか?」

 

「性格もあると思うけどな。あの人はかなり好戦的で、残虐非道な行動も厭わない感じだった」

 

「刀奈お姉ちゃんをぼこぼこにする人ですから、それはあり得ますね。一夏さんも、後頭部を踏みつけられたり大変だったんですよね」

 

「おかげでまだちょっと痛いけどな」

 

 

 そう言いながら、一夏はもう一つのデータを呼び起こして美紀に見せた。

 

「これは……イギリスから強奪されたサイレント・ゼフィルスのデータ、ですか?」

 

「ついさっきオータムの顔を再現したデータをイギリスの企業に送り、強奪を働いた人物の一人はオータムだと確認が取れた。つまり、サイレント・ゼフィルスは亡国機業の戦力として考えておくべきだと判断し、出来る限りのデータを集めた」

 

「一夏さん、何時からこの作業を?」

 

「美紀が帰ってくる一時間くらい前からかな。急いだほうがいいと思って、結構集中してたからどれくらいやったかは定かではないが」

 

 

 そう言いながら、一夏はこのデータを更識へと送る準備を始めた。だがすぐに美紀に両手を抑えられてしまい、作業が出来なくなってしまった。

 

「どうかしたのか?」

 

「少しは休んでください。まだ完全じゃないんですし、今日明日に攻め込んでくる可能性なんて、殆ど無いんですから。敵に備えるのも確かに大事ですが、今の一夏さんがしなければならない事は、まず万全に回復する事なんですよ、分かってるんですか?」

 

「分かってはいるんだが、これだけは早くしておかないと。もう一つ嫌な予感がしてるからな……」

 

「嫌な予感とは?」

 

 

 普段そんなことを言わない一夏が、予感という単語を使った事に美紀は引っ掛かった。

 

「織斑姉妹が監視していて、さらには篠ノ之博士も衛星を使って見ていたはずなのに、オータムはあっさりと俺のところまでやって来た感じだった。あの三人の行動を読むことが出来るのは、俺を除けばあと一人だ」

 

「篠ノ之箒、ですか……ではやはり彼女は」

 

「亡国機業にいると考えて間違いないだろう。そして、今回の一件に少なからず絡んでいるとみて良いと思う」

 

「しかし彼女は、学園に納品されているほぼすべてのISから嫌われ、それが原因で実技試験を受けられなかったくらいですよ? 亡国機業が彼女を仲間に引き入れた理由が分からないのですが」

 

「歩兵としては使えるだろ。あれでも全国の剣道娘の頂点だからな」

 

「では、篠ノ之さんは歩兵として攻めてくると?」

 

 

 美紀の質問に、一夏は首を横に振った。だがその仕草も、何時ものように自信があるようには見えず、判断に困ってる感じがしたのだった。

 

「コア・ネットワークを介して、サイレント・ゼフィルスに話しかけれないか確かめてるんだが、残念ながら反応は無い。こちらに心を開いていないと仮定すると、篠ノ之でも使えるのかもしれない」

 

「ですが、このデータを見る限り、サイレント・ゼフィルスは遠距離狙撃型のISですよ? 篠ノ之さんの戦闘スタイルとはかけ離れているようですが」

 

「ISさえ使えれば、アイツは構わないんじゃないのか? この学園にスパイがいるようだし、VTSの紛い物くらいは作れる技術はあるだろう。それで特訓でもしたとか、まぁそんなところだと思うぞ。もしこの考えが正しかったら、かなり厄介だがな」

 

「篠ノ之さんの相手を誰が務めるかによって、戦況が大きく変わると考えているのですか?」

 

「織斑姉妹が反省して、しっかりと働いてくれるのなら楽なんだがな……あまり期待は出来そうにないんだよな」

 

 

 美紀もその考えには同意出来ると思っていた。生徒に監視されている時点で、あまり期待はしない方が良いだろうと思ってしまったのだ。

 

「篠ノ之の写真も、イギリスに送ってみるか。黒髪で長髪のアジア人がオータムと一緒だったと聞いてるからな。特徴はぴったり当てはまる」

 

「そして歩兵として高い能力を持ってるのも確かですものね」

 

 

 美紀も嫌な予感を覚えながら、一夏の代わりにイギリス政府に箒の写真を添付したメールを送り、一夏を半ば強引にベッドに寝かしつけたのだった。




何処にいても迷惑なのだろうか……

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