暗部の一夏君   作:猫林13世

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すさまじいものがある……


一夏の観察眼

 織斑姉妹を監視していた美紀の許に、碧が陣中見舞いとしてケーキを持ってきた。実はこれはクラスで獲得したただ券を利用したもので、碧は静寐から美紀に届けるように頼まれたのだった。

 

「すみません、碧さん。まさか碧さんに頼むなんて思ってなかったもので」

 

「構わないわよ。織斑姉妹の部屋に近づきたいなんて物好き、マドカちゃん以外にいないもの」

 

 

 そのマドカは、取り込まれる恐れを考慮して、あまり監視の任務に就くことは無い。その代わり、クラスのまとめ役のような事を頼まれることが多いのだ。

 

「一夏さんの様子はどうですか? 今は簪ちゃんが側に付いてる時間だと思いますが、碧さんなら様子くらい確認してきたんですよね?」

 

「そうね。一夏さんももう少しすれば授業に復帰する事は出来るでしょうね。ただ、実技がどうかはまだ分からないわね」

 

「激しい運動は避けた方が良い状態かもしれませんものね」

 

 

 外面的には治っている一夏だが、内側はまだ完璧に治っているとはいいがたい状態なのだ。そして碧たちが心配しているのは、ISに恐怖心を抱いているかもしれないと言う事だ。

 

「一夏さんが直接ISで襲われたわけじゃないですけど、刀奈お姉ちゃんがISで作られた罠にはまって襲われた事を考えると、一夏さんが恐怖心を抱いている可能性もあるんですよね……」

 

「学園のISなら大丈夫だと思うんですけどね。何せ更識製ですから、一夏さんの子供と言っても差し支えない存在ですからね」

 

「闇鴉とも普通に会話しているようですし、ISに対して恐怖心は抱いてないと思いたいですね」

 

 

 開発や整備が主な一夏だが、いざとなれば前線に出る覚悟を持ってほしいと碧たちは思っている。前に出て指揮が執れる存在は、更識にもそう多くないのだ。

 

「刀奈お姉ちゃんもちょっと心配ですけど、それ以上に一夏さんですよね」

 

「刀奈ちゃんも指揮は執れるけど、刀奈ちゃんには自由に動いてもらいたいものね」

 

 

 そのいざという時が起こりうる状況になってきてる以上、碧は一夏に指揮を執ってもらえるとありがたいと考えている。彼女も指揮は執れるし、状況に応じて動けるのだが、どうしても周りに目を配る余裕がなくなる可能性を考えてしまうのだった。

 

「後は織斑姉妹が反省して、戦力になってくれれば助かるんですけどね」

 

「腐っても世界最強ですからね。私も本気で戦ったら厳しいですからね」

 

「碧さん以外に勝てる人っているんですか?」

 

「一夏さんなら計略を駆使して勝てそうですけどね」

 

 

 頭脳戦なら、織斑姉妹より一夏の方が長けているのは皆が認めるところなのだ。だから計略を使えるのなら、織斑姉妹より一夏が上なのだ。

 

「簪ちゃんも、一夏さんほどじゃないけど計略が得意だし、もしかしたら織斑姉妹に勝てるかもしれないわよ」

 

「やっぱり正々堂々戦うと仮定すると、碧さんしか勝てなさそうですね」

 

 

 美紀が零した言葉に、碧は苦笑いを浮かべて缶コーヒーを啜ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず普通に動く分には問題ないと診断されたので、一夏は保健室から部屋に移動して安静にすることにしたのだった。だが自分の部屋に移動したことによって、一夏はISの研究に精を出す事が出来るのだった。

 

「一夏さん、少しはペースを落としてくださいよ」

 

「別に急いでるわけじゃない。だがオータムのISの印象を覚えてるうちにデータ化して解析したいんだ」

 

「刀奈さんを罠にはめるくらいの頭脳の持ち主だと考えると、ISの性能もかなりいいかもしれませんね」

 

「少ししか見てないが、あの調整の癖は倉持技研にいた技術者のものだったと思う」

 

 

 整備士の目を持っている一夏は、整備の癖を見分け、誰が整備したのかを理解する能力を身につけていた。その一夏から見て、あのISを整備したのは倉持技研の人間だと判断していた。

 

「ではやはり、倉持技研は亡国機業に抱き込まれたと考えるべきでしょうね」

 

「抱き込まれたと言うより、自ら亡国機業に入ったのかもしれませんけどね」

 

「そう言えば倉持技研は、更識企業の台頭でパッとしない成果しか挙げてなかったですからね。更識企業に嫌がらせ出来ると考えたのかもしれませんからね」

 

 

 更識がIS産業に参加しなければ、倉持技研が日本政府御用達になる予定だったのだが、ISが発表されてからすぐに更識がIS産業に本格参入した結果、日本政府は倉持技研を御用達にすることなく、更識企業に肩入れし始めたので、逆恨みしていてもおかしくは無いと一夏は思っていた。

 

「日本政府がフライングして倉持技研に打診してただけなのに、更識に期待し始めただけで逆恨みされても困るんだけどな……」

 

「それだけ一夏さんが残した実績は羨ましいものなんですよ。コアを独自開発してる時点で、他企業から恨まれてもおかしくないんですけどね」

 

「コアの開発は、ISが教えてくれただけで、俺個人の実績じゃないんだけどな……」

 

 

 ISを悪用しないとISに思われている一夏だからこそ話しかけてくれただけであって、一夏からしてみれば恨まれる筋合いの無い事なのだ。その事は闇鴉も理解しているので、一夏が浮かべた苦笑いを見ても呆れる事は無かった。

 

「とにかく、倉持技研が亡国機業に加担してるかもしれないという事が分かれば、日本政府に警告する事が出来るからな」

 

「政府が調べるべきことだと思うんですけどね……」

 

 

 闇鴉が零した言葉に、一夏は更に苦みを増した笑みを浮かべ、ISの情報をデータ化する事に専念し始めたのだった。




同じ技術者だから、分かるものがある……のか?

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