暗部の一夏君   作:猫林13世

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誕生日ネタは難しい……


更識姉妹の考え

 一夏より先に復帰した刀奈は、生徒会室で考え事をしていた。普段はふざけたりして真面目に仕事をしない印象が強いだけに、虚はその姿を見て感動していた。

 

「お嬢様、何か悩み事でしょうか」

 

 

 だからではないが、虚は刀奈の力になろうと思いそう尋ねた。どれだけふざけていようと、自分の主が悩んでいるのなら、その悩みを取り除く事も、虚の仕事の内だからだ。

 

「一夏君の誕生日、何をしようかなと思って」

 

「……一夏さんの誕生日、ですか?」

 

「うん。そろそろじゃない? 九月二十七日が誕生日だって、碧さんが調べた戸籍ではそうなってたって」

 

「確かにそう聞いていますが、お嬢様が悩んでいたのは一夏さんの誕生日の事だったのですか?」

 

「そうよ。定かではないにしても、せっかくの誕生日なんだからお祝いしたいじゃない。ここ数年は誰かしらが受験で忙しかったからお祝い出来てなかった分、派手にしたいわね」

 

 

 刀奈の言葉を聞いて、虚は呆れてものが言えない状況に陥った。受験といえば、虚は一応受験生と言う事なのに、刀奈はその事を完全に忘れている。それに加えて、一夏の誕生日はあくまで出生届が出されたとされる日が分かってるだけで、本人も正確な誕生日は覚えていないので、ここ数年は祝わなくていいと一夏から申し出たのだ。

 

「織斑姉妹に確認すれば、正確な誕生日が分かると思うのよね」

 

「確認してどうするんですか? 一夏さんはあまり派手な事を好みませんし、男性は誕生日を祝われてもあまりうれしくないと聞きます」

 

「そうなの? 尊さんとかは、美紀ちゃんに祝ってもらって嬉しそうだったけど」

 

「それは父親が娘に祝われたからではないでしょうか」

 

 

 虚の言葉に、刀奈も少し首を傾げて考えてみる事にした。確かにあれは美紀が祝ってたから喜んだのであって、他の人に祝われても嬉しがらなかったかもしれないと。

 

「でも、一夏君の快気祝いと重ねて考えれば、少し派手なくらいがちょうどいいと思うのよね」

 

「お嬢様一人で考えるのではなく、簪お嬢様や美紀さん、マドカさんなども交えて話し合うのが良いと思いますよ」

 

「そうねぇ……本音とかもこういったことを考えるのは好きそうだし、さっそく話を――」

 

「この仕事が終わってからにしてください。美紀さんが手伝ってくれたお陰で、大分終わっていますが、お嬢様が目を通さなければならない書類はまだ沢山あるのですから」

 

 

 勇んで生徒会室から出て行こうとした刀奈の前に、虚が大量の書類を持って立ちふさがる。その量を見て、刀奈が二歩、三歩と後ずさる。

 

「たった二日くらい休んだだけで、何でそんなに仕事が溜まってるのよ!? おかしいんじゃない!?」

 

「更衣室の修理の為の書類と、来場者からの質問など多数送られてきていますから、その返事をお願いしたいと轡木さんからの依頼です」

 

「またあの人なの!? 少しは自分で仕事しなさいよね」

 

 

 自分の事を棚上げして、刀奈は学長である轡木の顔を思い浮かべてため息を吐いた。実質的運営を奥さんに丸投げし、自分は用務員として日々学園の清掃や草木の剪定などをしている初老の男性の顔を。

 

「というわけでお嬢様、これが終わるまで今日はここから出られないと考えてくださいね」

 

「と、トイレは?」

 

「私が付き添いますので、逃げようとは考えないように」

 

 

 虚の目を見れば、それが本気だと理解できてしまう刀奈は、がっくりと肩を落として書類に目を通し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚が生徒会室へ行っている為、今日の一夏の監視は簪が担当していた。彼女は保健室に入ってきてすぐ、一夏が読んでいた漫画を取り上げたのだった。

 

「何で、何で一夏がこれを読んでるの!?」

 

「闇鴉が簪の部屋から借りてきたからだろ。何か問題でもあったのか?」

 

「あるよ! 大あり! こんな趣味を知られたら、嫌われちゃうもん」

 

「別に人の趣味をどうこう言うつもりは無いし、簪の年頃なら興味が無い方がおかしいって刀奈さんが言ってたんだが」

 

「お姉ちゃんも読んだの!?」

 

「ああ。多かれ少なかれ興味は持ってるものだって言ってたけど、違ったのか?」

 

 

 交友範囲の狭い一夏にとって、簪の趣味は一般的だと思い込んでしまってもおかしくは無いのだ。確かに多くの女子が似たような趣味を持っているのは確かなのだが、それが一般的なのかと問われれば、肯定はしにくい問題だったのだ。

 

「違くは無いけど……でも一夏、あんまり人に言い触らさないでね」

 

「そんな趣味は無いし、言い触らせるほど友人もいない」

 

「そんな事ないと思うけど……」

 

 

 一夏と友達になりたい人間など、この学園に大量にいるはずだと簪は思っていた。友達じゃなくても、知り合いでも良いから親しくなりたいと、簪のクラスメイトがぼやいているのを聞いたことがあったので、間違いないはずだと簪は思っていた。

 

「とにかく、これは読まないで」

 

「似たようなものが数冊あるが、それも読まない方が良いのか?」

 

「うん、出来れば……ううん、そうしてくれるとありがたいかな」

 

 

 一夏は闇鴉が持ってきた本を簪に全て渡し、読まれたくない本を持って帰らせることにした。その代わりに一夏が要求したのは、簪が持っているIS整備の本を持ってきてほしいとの事だった。

 

「良いの? 今の一夏が許されてるのって、漫画くらいなんでしょ?」

 

「だから暇を持て余しているんだ。簪ならそのあたり、上手くやれるだろ?」

 

「しょうがないか……交換条件だもんね」

 

 

 一夏としては、簪の秘密を使って脅すつもりなどまったくないのだが、簪がそう思う事で救われるのなら、そのままでもいいかと思っていた。それに整備の本が手に入れば、少しは気がまぎれるだろうとも思っていたので、変にツッコミは入れなかったのだった。




原作はコスプレパーティーみたいでしたもんね……

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